第42話 斎
そう話しているうちにも、靄は斎たちがいる階に迫ってきている。
「天道、逃がすから掴まれ」
「いや、いい。俺は戦う」
「馬鹿野郎。大将が前線に出てどうする。なんのために俺が来たと思ってるんだ」
天道が斎を見つめた。彼は居心地悪そうに肩を揺らす。
「嫁さん体調悪いんだろ。帰れよ」
「狛に任せてある」
「馬鹿はお前だろ…。辛いときこそ傍にいてやらなきゃ駄目だろうがよ」
正論をぶつけられ、ぐっと眉を顰める。
「どうせお前のことだから、ここで俺を助けなきゃ宝物の交渉に支障が出るとか考えてんだろ」
厳しい視線に本心を射抜かれた斎は耐え切れずに視線を逸らした。
古来より、鬼が護り続けるという宝物の伝説がある。その名は角薬。かつて名を馳せた大鬼の角を粉末にしたものである。それを飲めば、どんな病もすぐに治り、老いを知らない体になれるとか。斎が最近仕事を詰めていたのは、それを譲り受ける為だった。
不老不死の薬とは厳密にいえば違う。角薬は潜在する病を治し健康体とし、なおかつ老いを遅らせるというだけ。消して天命を抹消するものではない。不老不死を確約するものなど、この世には存在しないのだ。
それでも、幸岐が偽物の薬を飲んで死ぬよりましだった。
「そんなことしなくても、明日お前に角薬は譲るつもりだった。帰れ。襲撃されてるのは鬼の城。天狗はお呼びじゃない」
天道が窓を指さす。
同時に、襖が開いて靄が部屋に侵入してきた。
「天道!」
「行け! お前が大事にしなきゃいけないのは俺との交渉じゃない。…いとし子に、よろしくな」
天道が背中を押す。突き落とされる形で、斎は城を追い出された。
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