そう、ひたすらに不自然なものでしかない、世界にとって
カーツだ。
ロバート・ミチオ・カーツ。
ヤツは事故で死んだ作業員の死体を保管室から引っ張り出して、
切ったり、繋いだりしてた。
それに飽き足らず、奴はネズミやら水槽のカラフルな魚をバラして、
継ぎ接ぎした死体にくっつけてた。
なんでそんなことを知ってるか。
ミヤタに聞いたからさ。
ヤツの〝仕事〟を手伝ってる、こんなことはやめたいって。
もちろん頭がおかしな奴のいかれた妄想だと思った。
でもな、水槽の魚も減ってるし、
念の為、保管室に忍び込んで確認もした。
いくつかの全身揃ってない死体がなくなっているように見えたな。
なぜわかるかって?
事故後の処理を手伝わされたからだ。
ただ奇妙なところといえば、オレたちが採掘してるもの、
正式な名前は知らないが、S鉱とオレたちは呼んでる石ころだ。
それがいくつかの死体にくっついてた。
いや、くっついてるというよりは、
内側から湧いてきた鉱石が皮膚を突き破ったって感じに見えたな。
死体が消えてることよりも、
そっちの方が本当ならやばいんだろうが今回の目的はそれじゃないからな。
そもそもオレたちが知らないだけで、
オレたちが扱ってるものはもとからそういうものだったのかも知れないしな。
もともと持ってた疑念が確信に変わっただけだ。
それに似たようなものを昔見たことがある。
確か、そうだな……。
思い出した、地下鉄に住んでた頃のことだ、小さな女の子だ。
別に親族でもなんでもないんだが、オレのことをお兄ちゃんって言って、いっつもついてきてた。
その子がある日、なんて言うんだ、超能力とでも言うのか。
触っただけでケガやら病気やらを治せるようになった。
あの頃はまだ兵器の汚染が残ってる場所もあったからな、噂を聞きつけた連中が押し寄せた。
でも誰かを治すたびにあの子は弱っていって、
しまいには、
体に結晶が浮き出てきて――。
あぁ、はっきり思い出した。
まさにオレたちが掘ってるS鉱にそっくりだったさ。
なんで忘れてたんだ。
――。
だがまぁ、いまはそんな話はどうでもいいんだ。
現在の話だ。
そんで、食堂に戻って、
オレは自分にできる範囲で助けになると、軽い気持ちでミヤタに言った。
で次の日だ。
ミヤタが仕事に来なくなったのは。
ヤツはミヤタは感染性の胃腸炎だとか言ってたが、オレには察しがついてた。
死体を切り刻んで無茶苦茶に繋げるような奴が次にするだろうことだ。
で、その二日後、ミヤタと仲が良かった女の作業員。
確か名前はシアとか言ったな。
そいつも顔を見せなくなった。
まさかと思って、ヤツが業務から手を離せなくなる時間を見計らってヤツの部屋を覗いたんだ。
もちろん鍵はかかってたが、あの程度の鍵は道具と経験さえあれば簡単に開けられる。
それで、見た。
見たくはなかったさ。
こんなものはこの世に存在してはならないと、見た瞬間に思ったほどだ。
この前の事故もそうだし、
戦争でだいぶヒドいものを見てきたが、
そいつらが地獄なら、アレはそれ以上だ。
なんて言ったらいいんだ。
そう、ひたすらに不自然なものでしかない、世界にとって。
で、このおぞましい所業について、
そのまま正直に報告しても取り合ってもらえないだろうと思ってな、
ひとまず、作業員が二人行方不明になってると上には連絡した。
さすがにこのまま放っておくわけにもいかないし、
なによりあんなモノがここにあることに堪えられない。
だが、監督が騒ぎ出す頃には、ヤツはオレのところにやってくるだろう。
だから、逃げ出すなり、ヤツを仕留めるなりしないとならないわけだが。
この録音は言ってみれば保険で、
オレがいなくなったときは、ヤツの仕業だとわかるようにしておきたかったんだ。
クソ。
アレを見てからというもの、耳鳴りが止まない。
目もチカチカする。
一体なんなんだ。
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