あっれえぇぇぇ??
どうやら葵君はトマトパスタ、直樹君はハンバーグセットに落ち着いたらしい。
「あ、真奈美さん。シーザーサラダシェアしても良いですか? 野菜食べたくないです? 」
「……そうだね、じゃあサラダも。他は? 」
「足りなかったらまた頼みますよ、それと真奈美さんはお酒は? ビールで良いですか? 」
うんと言いかけて、私はちらりと直樹君を見た。まあ気にしないでも良いかな?
「あ、直樹は飲めないんで。僕もビールにしますね。直樹は? コーラ? 」
そう葵君が言えば、直樹君は頷いた。何この気遣い上手。流石マスターに接客を叩き込まれてるだけある……いや、私に関しては昨日から駄目駄目だからね?!
そう私が一人で憤っている間に、注文は滞りなくされてしまう。あー! 2人きりでとくとくと説教かます気でいたのに、出鼻を挫かれたどころか、罠まで張ってあるとはっ!
私は先に運ばれて来たビールを乾杯の音頭と共にごくごくと半分程飲み干して葵君を睨んだ。しかし、葵君はにっこりとそしてゆっくりとビールを口へ運んでいる。直樹君はコーラを一気飲みすると、また注文していた。……彼自由だな?
「……聞いてた通り飲みっぷりが良いんすね。もう一杯行きます? 」
私の視線に気付いたのか、直樹君にお代わりを促され、私はにっこりとして頷いた。もう飲まなきゃやってられないわ! 酔うつもりは全く無いけど、勢いって大事だと思うんだよね。
「あの、それで直樹君……だっけ。ちょっと誤解があるみたいなんだけど」
「あ、直樹コーラ来たよ。真奈美さんはビールで良いんですよね? 俺はコークハイで! 」
またなの葵君?! いい加減往生際が悪い上にまた出鼻を挫かれたぁぁっ!! この子本当、黒過ぎない? いや、絶対今日は勝ってみせる。私は謎の勝負魂を燃やしつつ、注文を取り終えた店員さんが去ったと同時に口を開いた。
「それで、直樹君。あのね、葵君とは誤解が」
「あ、直樹で良いっすよ。てか、葵。何で俺に彼女自慢とかしてくんの? 俺邪魔過ぎだろ」
「お前が昨日死ねとか返信して来るから、そりゃ自慢するに決まってるじゃん。存分に羨ましがれ。そして悔しがれ」
「おっ前……性格悪ぅ。良いんですか? 真奈美さん、こいつこんな奴っすよ? 」
出た、学生特有のノリ! でもこれは好都合!! さあ、存分に恥をかいて貰いましょうか、葵君!!
「葵君普段そんななんだ……。でもね、直樹君、そもそも私と葵君は、」
「お待たせ致しましたー! シーザーサラダでございます。取り皿お使いになりますかー? 」
「あっはい。お願いします」
私は店員さんの声掛けに反射的に返事をしてしまう。って違うぅぅっ! 店員さん! タイミング見てっ……て無理だけどぉ〜!!
取り繕いながら取り皿を受け取っている間に、視界の端で葵君が笑いを堪えているのが見えた。ぐぬぬぬ、今に見てなさいよーっ?!
取り皿を其々の前に渡して、さあ、落ち着いて話しを……と思えば、次はパスタがやって来た。……これは、食べてからじゃないと話すのは無理かも知れない。
「じゃあ頂きましょうか、真奈美さん、改めてかんぱーいっ」
何事も、そう何事も無い様に流れる動作で乾杯する仕草をされ、私は口元がヒクつきながらも何とか返す事が出来た。そしてそのままビールを飲む。飲んでやるっ!
「すげー飲みっぷり。葵が言うだけあるわ。真奈美さんて葵のバイト先の常連なんでしたっけ? 」
「そんな事まで話してるの? やだ、葵君何言ってるのか怖いんだけど」
「ええ?! 僕そんな変な事は言ってないですよ? 凄い飲みっぷりの良いお客さんだなーって思ってて、そう言ってただけですよ」
うん、その前に君はとてつもない事を言って回ったからね? 惚けるのも良い加減にしろ?
「それよりももの凄い事言って回ったでしょ?! だからね、直樹君。そもそも葵君たら、」
「あー、付き合った宣言ですよね? 」
「そう、それ! 昨日突然アプリ上で宣言したでしょ?! 私それ了承してなくて、」
「は? 葵お前真奈美さんに了承取ってないまま宣言したの?! それは無いって」
何この子!! 直樹君話が分かる子じゃない! そう、こんな年上が彼女なわけないもんね、そのまま仲間達に言ってやってくれると助かるんだけど?!
「いくら付き合えて浮かれてたからって、彼女の了承ぐらい取れよー。まあ、こそこそ隠れながら付き合う奴よりは潔い気もすっけど。あの宣言の後何人か女子から泣き言電話来て迷惑だったわ。ここ、お前奢れな? 」
……ん? 何か噛み合って無い? 不味い、訂正しないとっ
「直樹君、そもそも葵君とは」
「あれは流石に不味かったなって、僕もあの後思って。だから、今日は真奈美さんの分は僕が奢ります。直樹のは知らないから。奢る訳無いだろ」
「はあ?! 真奈美さん、本当こいつどうにかして下さいよー」
「ちょっと、直樹は真奈美さんに絡むな」
「うわ、腹立つこいつ! 絶対今日は払わねー」
このじゃれあい何なのー! って、違うわ。雰囲気に飲み込まれるわけにはっ!
「あの、葵君。私は自分のは自分で支払うから……」
「そんな訳には行きません! これは昨日のお詫びなんですから、僕が支払います! 」
「私の方が年上だし、そこは良いよ。それに、そんな支払いの話を食べてる最中にするのもなんかあれだし、取り敢えず食べよ? 」
ご飯冷めちゃうし、その話はゆっくりと……
「流石真奈美さん。葵のせいでハンバーグが冷めるとこだったわ。にしても、優しいっすね。怒らないでやるとか。葵には勿体ないっすよ、本当」
うん? 何の話かな?
「真奈美さん……許してくれるんですか、僕が浮かれてやっちゃった事とはいえ……嬉しいです、ありがとうございます!! 」
うん? なんか許した事になってない? 何で??
「やっぱり、僕真奈美さんと付き合えて良かった〜。大人だし、優しいし」
「あーはいはい。1人で爆発してしまえ」
そう言って、直樹君はばくばくとハンバーグを食べ始め、葵君もパスタを食べ始めた。
あれ? あっれえぇぇぇ??
なんか、私間違えた?!
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