第68話 ベットノワール(黒き獣)
メシヤが目を覚ますと、体が動かせないことに気づいた。薬の効き目のせいではない。体が5点拘束でベッドに固定されているのだ。顔は動かせる。ふと右の方に目をやると、金色の髪をした小さな女の子が、隣のベッドで眠っていた。体のいたるところが傷だらけで、メシヤは自分の置かれた状況も顧みず、その女の子を哀れんだ。女の子は、拘束具をつけてはいなかった。自分とは別の事情でこちらに運ばれてきたのだろうと
メシヤが体をもがいて拘束具を解くような動作をすると、監視カメラを覗いていた看護師たちがかけつけてなだめた。
「こんな非道いことをして、許されると思ってるの!?」
「メシヤくん、君はいま大変な興奮状態にある。他人だけでなく自分も傷つけてしまう恐れがある。やむを得ない処置だったことを理解して欲しい」
「くそっ、ほどけ! お前たち、ただじゃおかないぞ!」
看護師がメシヤに背中を向けると、内線で誰かと連絡を取り始めた。すると、すでに待ち構えていたのか、別の看護師が注射器を持って入ってきた。
「お願いします」
「やめろ! 殺してやる!」
メシヤは必死で抵抗したが、頑丈に固定された拘束具のため、6歳児の力では脱出することは叶わなかった。
メシヤの右腕に注射器が刺さると、あれだけ激しい抵抗をしていたのにもかかわらず、数秒で意識が途絶えた。
金色の髪をした女の子が、その騒動で目が覚めた。薄く開けた
「もう、死にたい」
メシヤと同じくらいの年に見える女の子は、その愛くるしい背格好からは、とても似つかわしくない台詞を吐いた。
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