第66話 ハイパーアクティビティ・ディスオーダー

「お母さん、メシヤくんがいると授業の妨害になります!」

「ごめんなさい、先生。あの子は人より好奇心が旺盛みたいでして」


「つい先日、算数の授業で足し算を教えていました。

『シンジ君はリンゴ3個持っています。アスカちゃんはミカンを4個持っています。合わせていくつでしょう?』と」

「はい」

「メシヤくんは『まったく違うリンゴとミカンを足すのはおかしい』と、言い始めました。まだ、ここまでは分かります。違う種類の果物なんですから」

「ええ」


 母親の反応をうかがい、面談を続ける国文科卒であろう担任。

「でも、メシヤくんは立て続けに『世界に同じリンゴなんて2つと無いんだから、それを一緒くたにして3個と数えるのは変だ』と、言うのです!」

「確かに大きさの違う果物をスーパーで同じ値段で売っていたら、苦情が出るでしょうね」

「まあ! お母さんまで! この母親にしてあの息子ありだわ!」


「恐れ入ります。他に変なことは言っていませんでしたか」

「まだまだあります! 

『地球が太陽の周りを回っているのはどうしてですか?』

だとか、『一年の時間の長さは、どの年も本当に同じなのですか?』

だとか、メシヤくんが質問するたびに授業がストップしてしまいます!」


「あの子もただのADHDと決めつけにくい部分がありまして、そういった大人たちの気持ちも察している節があります。しゃべり過ぎたと思ったら、自分から黙る理性も持ち合わせているようですし。純粋に学問上の探究心から聞いているのでしょうね」

「とにかく! メシヤくんは、しかるべき施設で診てもらった方が良いです! でなければ、これ以上ほかの生徒たちと一緒に授業を受けさせることは出来ません!」

「承知しました。これもあの子のためと思って、私も明日、児童精神科に同伴します」  






「お父さん」

「ん、なんだ?」

「メシヤが学校に来なくなったんだ」

「ああ、藤原んとこのボウズか」

「何か知ってるの?」

「イエス。世の中にはな、あまり深く関わらない方がいいことってのがあるんだ」

「どういうこと?」

「メシヤと関わるなとまでは言わん。そっとしておくのも本当の友達づきあいだぞ」

「メシヤの話を聞いてると、面白いんだ。先生は嫌がってるみたいだけど」

「まあ、そのうち学校にも出て来るだろう。お前はその時のために、いままで通り普通にしてたらいい」

「ちょっと・・・・・・いや、だいぶと寂しいけど、勉強もスポーツもがんばって、メシヤが帰ってくるのを待ってるよ」

「うむ、そうしなさい」



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