第45話 打てないボールがあるものか
右バッターボックスに構えるダニエル。膝はほとんど曲げていない。棒立ちのような素人くさい構えだ。
それを見て、グローブを右にはめるメシヤ。左で投げるようだ。
「いっくよ~」
「ん、サブマリンか」
イエスがもっとも苦手とするフォームだ。
「あんたみたいなアウトローには・・・・・・」
メシヤが投球フォームに入ってからするどくバットを立てるダニエル。
「インハイだ!」
地を這うような低さからダニエルの胸元をめがけて硬球が放たれた。
「しまった!」
メシヤのボールはコントロールを失い、ダニエルの顔面に向かった。ヘルメットもかぶっていない。いくら悪人とはいえ、これではひとたまりもないだろう。
「
ダニエルは左足を一歩引き、大きく上体を反らすと、その勢いを回転力に変え、ボールを巻き込んだ。レフト方向の部室棟を大きく越え、ボールは消えていった。
夕日の方向を呆然と見つめるメシヤ。
「○わきですか?」
メシヤは敗戦の弁を述べた。
「インハイはコース読んでりゃ、打つのはそんなに難しくない。ボールも高いから長打になりやすい」
「アウトローにはアウトローで攻めれば良かったですね」
「ワルには正攻法は通用しないからな。お前もよく分かっているだろう」
「ん~、変人の気持ちは変人にしか分からない。ってとこですかね」
「なんだ、お前、変人の自覚があるのか」
イエスとダニエルが噴き出してからかう。
「僕は超マトモだよ! イエス!」
「誰が信じるんだよ、そんなの」
まだ笑いが止まらないイエス。
「イエスと言ったな。ある意味メシヤの言っていることは正しい。そいつは言われたこと、起こった出来事を真正面に捉える。その真正直さをどこでも発揮しようとすると、必ず妨害に遭う。それでも自分を貫くってのは、傍から見たら変な奴だろうな」
古い友のことを的確に言い当てられて、悪い気のしないイエス。
(だが、こいつは気を許したらヤバイ奴だぞ)
暮れなずむ、北伊勢高校グラウンド。西の空にはクレッセントムーン。
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