第37話 山路来て

 エリがふと視線を移すと、可憐な高山植物に気づいた。

「わ~、地上では見かけない花だネ!」

「そう、これが山登りの醍醐味だな。雲もつかめるぜ」

(あなたは虹をつかむ男ですわ、メシヤさま)

 レマのメシヤへの信頼は揺るぎない。


「ちょっと、花を摘んでくる」

「だめだヨ! そのままにしとかないト!」

「エリさん、たぶんトイレのことです・・・・・・」

 マナが隠語を補足する。


 岩壁に向かって三本目の剣を取り出すと、メシヤは的を射貫いた。

 リラックスしたメシヤはレオンの言葉を思い出していた。

 「聖剣の使い方はまだあるって言ってたなあ」

 メシヤは考える時、言葉ではなく映像を思い描く。だから、イメージの湧かない話は理解することが出来ない。不自由そうだが、このほうが記憶に留まりやすいと、自己分析していた。

「でも、どうやって?」

 その答えが分からないまま、メシヤはマナたちのもとに戻り、時牢岩へと歩を進めた。

 

「はあはあはあ」

 メシヤ一行は息を乱しはじめていたが、目的の時牢岩が見えてくると、酸素ボンベを与えられたかのごとく、元気を取り戻した。その眼前に広がる光景は、値千金などという言葉が軽く感じられるほどだった。


「着いタ~!」

 エリが歓喜の声をあげた。

「ピテカントロプスになる日ももう間近かな」

「お兄ちゃん本当に平成生まれ?」


 時牢岩は重力を無視したような形状でそこに鎮座していた。二本の柱状の岩が、丸い大きな石を持ち上げているのだ。いつからここにあるのか。多くの登山客が謎を抱いたが、その答えを導き出せる者はいなかった。

 メシヤはまじまじと眺め、調査を開始したが、何度見ても石は石だった。文字が刻まれている風でもない。

(レオンくん、どうすればいいんだい?)


 メシヤはマナの聖杯の時のように、臥龍剣と鳳雛剣を使うことを思いついた。あの時と同じように、水龍の梁をぶつけ、炎鳳の柱を浴びせたのだが、コケや土がとれて化粧をほどこした程度の変化しか現れなかった。

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