第34話 黄昏よりも昏きもの

 奥の正殿へと向かうメシヤファミリー。敬虔な面持ちで、二礼二拍手一礼をする参拝者。

(本当は三礼三拍手一礼なんだけどな)

 メシヤはひとりごちた。

「みなさん、本当に折り目正しいですわ。生真面目な性格がうかがえます」

レマがあたりを見回して感心する。


「無法者もいるがね」

 石段の反対側から、いや~な声が聞こえた。

「ま~た、ダニエルさんかあ」

 ダニエルが一瞬、裁紅谷姉妹に目をやると視線がぶつかったが、すぐ目を逸らした。

「ダニエルさん、さすがにここで一悶着起こしたらまずいよ~」

「ほう、神罰でも起こるのか? だが、ダークロードさまならお許しくださるだろう」

「ダークロード?」


「メシヤ。この神の宮の神体を知っているか」

「八咫の鏡でしょ?」

「ほほう、気づいていたか。まあ、お前の性格ならそのままにしておくんだろうな」

ダニエルは神前でも遠慮しない。

「我々も無理強いをしたい訳じゃなかった。賽銭をたんまりはずんだら地下の大宝物殿に通してくれたぞ」

「なんてやつ!」

 マリアが嫌悪感をあらわにした。

「だがな、そこには目当てのものはなかった」

「そらそうだよ。ダニエルさんも言ってたじゃん。宝は目立たないところに隠すって」

「南伊勢くんだりまで来て空振りか。アワビと松阪牛のステーキを食って帰るぜ」

「ご神体は移動させたって話を聞いたことがあるよ(レオン君が言ってたんだけど)」

「そうなのか? まあお前の後をつけてりゃ見つかりそうだな」

「おつとめご苦労様ですね」

「俺はこう見えても楽しんでやってるぜ。じゃあ近いうちにまたな」

ダニエルたちは参拝もせずに引き返した。


「メシヤ、あいつちょっと変わった?」

 マリアが訊ねる。

「いいや、まだ何か企んでると思うよ」

「メシヤ~! 私も松阪牛のステーキ食べたいヨ! アワビはだめだけド」

「ああ、マナの今後の身長の伸び具合にかかってるよ」

「?」


神をも恐れぬ男、ダニエル。次はどこで出会うのか。メシヤ一行は南伊勢をあとにし、北伊勢へと帰還した。




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