第3話 嗾す蛇(そそのかすへび)
「ハイハイハイハイ」
小馬鹿にしたように両手を打つ音が聞こえた。
「まさかこんな簡単に抜けるとはね」
礼拝堂の正面扉にもたれかかり、痩せ型の外国人がこちらに一瞥をくれた。
「
メシヤは『誰でも話せるカタカナ式英会話』を熟読していた。下手な英語ではあるが、話しかけようという心意気は評価したい。
「日本語で結構」
その黒ずくめの男は、あやしさ全開だった。
「懺悔をしに来たって訳では無さそうね。何かよからぬことを考えていそうだわ」
マリアが嫌悪感をあらわにした。
「失礼だなあ。こう見えて私も神の忠実な
ニヤリという効果音が聞こえそうな調子で口角が吊り上がった。
「さっ、おとなしくそいつを渡してもらおうか。でないと少々痛い思いをすることになるよ。これは忠告だ」
男のセリフはかすかに怒気をはらんでいた。
「それが忠告ですか。新しい辞書が必要になりますね」
メシヤは折角手に入れたおもちゃを手放してたまるかと言うようだった。
「誰があんたなんかに渡すもんですか!」
マリアも応戦する。
「お引取り願おう」
イエスが三歩前へ出た。
「ほう」
イエスの巨体を前にしても、男は余裕の表情だった。
「イエス、やめとけって。僕たちの勝てる相手じゃない」
メシヤの流派は無手勝流。戦わずして勝つがモットーらしい。
「ヘイ、ミスター。なんだってこれが欲しいんだい?」
メシヤは何か情報を引き出す作戦に出た。
「いいだろう。そいつは武器としても使えるんだが、ある場所を開くキーにもなるのさ。IDみたいなもんだな」
ずいぶんと親切な悪役だ。
「へ~、だけどあなたくらいの人なら、いくらでも忍び込んで持ち出せたんじゃないの?」
メシヤは当然の疑問を口にする。
「もちろん、そうしたさ。だが我々では剣を引き抜くことが出来なかった」
男は正直に話した。
「ふ~ん、僕がやったら簡単に抜けたけどなあ」
メシヤはあっけらかんと言った。
「それだ。メシヤと言ったな。ひょっとしたらお前は……」
男、なにかを思い出すように右手を顎に当てる。
「ダニエルさま」
離れて様子を見ていた小柄な男が耳打ちする。
「やはり、そうか」
男は合点がいったらしい。
「メシヤ、そいつのことは諦めたよ。カエサルのものはカエサルに。神のものは神に」
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