ハラッパーの真ん中で
三重野 創(みえのつくる)
OVERTURE
第1話 恐怖の大王
一九九九年七の月
天から恐怖の大王が降ってくる
アンゴルモアの大王を蘇らせ
その前後にマルスは平和に支配するだろう
二〇世紀末、世にも珍しい天体ショーが起きたことを、ご記憶だろうか? それも立て続けに二度だ。地球を中心に、太陽系の惑星たちが十字を切るように
――グランドクロス――
第一陣は一九九九年八月十一日。第二陣はわずか一週間後の八月十八日。
この物語は、その両日に生を受けた、二人の男を取り巻くヒズ・ストーリーである。
はてさて、男たちの因果が交差するのは、彼らの宿命とは裏腹の、実にのんびりした田園地帯であった。
日本の東西南北の結節点。
藤原家の跡取り息子は、屋号をそのまま名付けられるほど、期待されて育った。
成績は芳しくないが、興味の幅は広く、すぐのめり込むタイプだ。不思議な事が三度のめしより好きで、ミステリー雑誌『月刊モー。』も愛読している。所属はサッカー部だ。
「ソースにする? それともあんかけ?」
「いや、醤油がいいな」
「あいよ!」
器用に両の手で中華鍋とお玉を操り、手早く料理するメシヤ。
オーダーした客は、建築雑誌『家造りは人づくり』を読んでいる。
「いっちょあがり! これがオラの究極至高焼きそばだ〜!ぞなもし!」
「いちいち暑苦しい奴だな」
メシヤが料理したバンブー焼きそばを頬張っているのは、
「マナちゃん、お茶をくれ」
「は~い」
メシヤには4つ年の離れた妹がいる。マナとはまな板から名付けられたのかと思いきや、古代ユダヤに伝わる三種の神器、マナの壺から名付けられたらしい。多くの飢えに苦しむ民を助けた逸話が残っている。あれはいいものだ。
「メシヤ、お前まだあそこに通ってるのか?」
「うん、もう少しでフラグメントが繋がりそうなんよ」
推理探偵のような物言いのメシヤ。
「でも、マリアが見張ってて、うかつに近寄れないんだよなあ」
「知ってる? イエス。聖ヨハネ北伊勢教会の女神像」
「ああ、ほかの女神像とは異質だからな」
「でしょ~」
「女神様が両手に剣を握ってるんだもんな」
「うんうん」
メシヤのタレ目が大きく見開く
「だけど、あの剣、ボロボロじゃないか?」
「そうなんさなー」
「お兄ちゃん、またマリアさんに追いかけ回されるよ!」
マナがナイフとフォークをかざして、マリアに食べられるかのようなモノマネをする。
「お前、マリアには煙たがられてるけど、神父さまには一目置かれてるよな」
「神父さまは僕の数少ない理解者だよ」
「で、どうする?」
「夜を待とう。ふたふたまるまるに決行だ!」
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