1194.チートでも、子供は産めないよ!

 『エンペラースライム』のリンちゃんが、人気のない山で拾った赤ちゃんは、ほぼ間違いなく親指将軍の生まれ変わりだろう。


 まずは関連する人たちに知らせないと。


 俺は、『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさんと『高速飛行艇 アルシャドウ号』の付喪神エメラルディアさんと、『ホムンクルス』のニコちゃんを呼んだ。


「赤ちゃん! どうしたんですか? ……まさかグリムさん、産んじゃったの……?」


 フミナさんが、顔に斜線が入った感じで固まっている。

 最後のほうは、ポツリと呟いていたが、聞き逃さなかった。

「産んだの?」って言ったよね?


 俺が産んだと思ってるわけ!?

 んなわけないでしょうよ!

 やっぱフミナさんって、天然なんだ……。


「隠し子なんて、いつの間に……」


 今度は、エメラルディアさんが泣きそうになっている。

 隠し子って、それはないでしょうよ!


「ちょっと! グリム、いつ子供が産めるようになったわけ!? どこまでチートなのよ!」


 そんな逆ギレ発言をしたのは、ニアだ。

 ニアは、子供たちのほうにいたんだけど、一緒に呼んだんだよね。

 てか、ニアまで何を言っちゃってるわけ!?


 いくらチートでも、子供は生まないでしょうよ!


「俺は産んでもないし、俺の子でもないよ。リンちゃんが、山で見つけたんだよ。周りに人の気配は無いって言うから、連れて来てもらったんだ」


「グリムさんとは、無関係なんですか?」

「ついに、隠し子まで登場したのかと思いました……」

「グリムのチートにも、限界はあったのか……」


 フミナさん、エメラルディアさん、ニアがホッとしたような顔をしている。


 てか、俺に謝ってほしいんだけど……まぁいいけどさ。


「捨て子なの?」


 ニコちゃんが、心配そうに尋ねてきた。


「捨て子かどうかわからないけど、今のところ身寄りはないんだよね。それから、実は……この赤ちゃんなんだけど……」


 俺は、この赤ちゃんについて説明をした。

 『固有スキル』の説明をして、親指将軍の生まれ変わりではないかという話をしたのだ。


「信じられないけど……そうだったら嬉しいですね!」

「スキルを見る限り、そしてこの親指の感じ、間違いないでしょう」

「かわいい」


 フミナさん、エメラルディアさん、ニコちゃんがそう言いながら、まじまじと赤ちゃんの顔を見ている。


 赤ちゃんは、三人の顔を見てすごく笑っていて、そして親指を突き出している。


「この子が親指将軍の生まれ変わりであっても、そうでなかったとしても、身寄りがないみたいだから、ここで育てるしかないわよね」


 ニアが、楽しそうな感じで言った。


「そうだね。まだ名前が決まってないんだけど、どうしようか?」


「もちろん、かっこいい名前をつけてあげなきゃよ!」


 ニアは、そう言って、俺にジト目を向けた。


 この子の為にも……俺の名づけは封印しないと……。


「誰か……いい名前ありますか?」


 ここは、みんなに丸投げしよう。


「そうですね……親指将軍の生まれ変わりの可能性が高いですし、強く育って欲しいという願いを込めて……ジェネルなんてどうでしょう? ジェネラルからとってるんですけど。『マシマグナ第四帝国』では、結構人気のある名前でしたし……」


 エメラルディアさんが、そんな提案をしてくれた。


 なんか強そうだし……いいんじゃないだろうか!


「そういうことなら、いいんじゃないですか」


 俺の賛同に続いて、他のみんなも賛同してくれた。


 この子の名前は、ジェネルくんになった。



 俺たちは、『養育館』にジェネルくんを連れて行った。


 そして、養育長の熊亜人プップさんに、事情を説明した。


 まぁ事情といっても、山に捨てられていたという事だけだ。

 当然のことながら、親指将軍の生まれ変わりである事は伏せている。


「熊亜人は、赤ちゃんの頃から力が強いんですよ」


 プップさんはそう言いながら、ジェネルくんを抱きかかえた。


 同じ熊亜人だから、特徴がわかっていて助かる。


「私が責任を持って面倒を見ます。里にいた時は、赤ん坊の面倒もよく見てたんですよ」


 プップさんがそう言ってくれた。

 そういえば、プップさんの里はどうなっているのだろう……?

 聞いていなかった気がする。


「プップさんの里は、どちらに……?」


「はい、この国の西部にあったんですけど、魔物の襲撃があったみたいで、壊滅したそうです。私は、若い時に里を飛び出して、行商をしていましたので、ずっと帰っていないかったんです。壊滅したという話を聞いて……怖くて未だに行けてないですけどね。この子のことは、同じ熊亜人として、放って置けません」


「そうだったんですね……。赤ちゃんを迎えるのは初めてですが、プップさんがいるお陰で、とても心強いです。よろしくお願いします」


 本当に、プップさんがいてくれて助かる。


 フミナさんとエメラルディアさんとニコちゃんも、可能な限り関わって面倒みると言ってくれている。


 そうだ!


「ニコちゃん、あの指人形の魔法道具を、この子に見せてみたら?」


 俺はそんな提案をしてみた。


 この子には前世の記憶はないみたいだけど、親指将軍が愛用していた武器だから、何か反応があるかもしれないと思ったのだ。


 ニコちゃんは「あい」と可愛く返事をして、魔法カバンから指人形を取り出し、指に装着した。


 もちろん稼働状態にはしないで、ほんとにただの人形として指にはめているだけだ。


 ジェネルくんは、ガン見している。


 手を伸ばして取ろうとしている……。


 ニコちゃんが、とりあえず一つだけ指人形を渡した。

 小さな手でぎゅっと掴んでいる。


 さすがに人形が稼働することはないが、何か惹きつけられているようだ。


 なんとなく……将来使えそうな予感が……。 三歳くらいで使いこなせちゃったりして……。



 それにしても……よく俺たちのところに来てくれたものだ。

 赤ちゃんを拾ったリンちゃんは、相変わらずグッジョブだ!


 もしリンちゃんが拾わなかったら、命を落としていただろうからね。


 ただ……これは偶然ではなく、必然のような気もする。

 特にあの子が、親指将軍の生まれ変わりなら、尚更だ。

 神の采配的なものではないだろうか。



 俺は、リンちゃんに改めて礼を言って、もともとの用事を伝えた。


 『スライムの砦』という場所の話を伝えたのだ。

 地図を実際に見せてあげたりもした。


「あるじ、この辺、行ったことある。でも何もなかった。あるじのため、もう一回、探してみる! リン、がんばる!」


「ありがとう、リンちゃん、頼むよ」


 俺がそう声をかけると、リンちゃんは張り切って出かけて行った。


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