1156.タイプの違う、アバターボディー。

 『人形の悪魔』の迷惑な置き土産は、奇しくもリリイの強力な『死体人形ゾンビゴーレム』軍団となった。


 今回戦わずして制圧したが、あのワイアームの『死体人形ゾンビゴーレム』だけでも、かなり強力だと思う。

 十メートルを超えている上に、空を飛べるからね。


 それからカマキリの魔物の『死体人形ゾンビゴーレム』十体も、かなりの戦力になると思う。

 三メートルを超える大きさがあるし、十体もいたら、かなりの恐怖の軍団だと思う。


 普通のゾンビだったら、肉体が朽ちたりしていて、あまり強くないのだが、この『死体人形ゾンビゴーレム』は特殊な加工がしてあり、朽ちることもなければ、より強固になっているのだ。


 肉体を失っているところは、別の魔物の肉体と結びつけたりしているのである。


 親指将軍の『死体人形ゾンビゴーレム』も、体の欠損した部分は、魔物の皮膚が移植されていた。

 機械的な魔法道具が露出しているところもあるから、欠損した部位は魔法道具で補完し、表面に魔物の皮を貼っているだけかもしれないけどね。


 感覚的には、フランケンシュタインのようでもある。

 そして、もし死体ではなく生きていたら、それこそ改造人間的な感じだ。


 なんとなく…… 『死体人形ゾンビゴーレム』が付喪神化しないかなと思ったりしたが、無理にそうする必要はないだろう。


 親指将軍が使っていた大剣だって、付喪神化の媒体にはなると思うが、付喪神化する気配はなかった。


 今まで、人型に顕現できる付喪神化は、何かしらの強烈な思いがあり、それを精霊が後押ししてくれてできたことだ。


 今回はそれが起きなかったが、そのかわり親指将軍はリリイに、自分の体を残してくれた。


 それで充分だと思う。


 俺の『波動』スキルの『波動調整』コマンドのサブコマンド『生命力強化』を使えば、付喪神化を促進できる。

 だから根気よく続ければ、付喪神化することもできるかもしれない。

 だが、無理にするつもりはないのだ。


 そうだ!


「リリイ、親指将軍の『死体人形ゾンビゴーレム』を出してくれるかい?」


「わかったのだ」


 リリイは、すぐに出してくれた。


 片膝をついたポーズで出てくるので……これで全裸状態だったら、完全に映画のワンシーンだが……。

 ……いかん、そんな事はどうでもよかった。


 親指将軍の『死体人形ゾンビゴーレム』は、上半身は裸に近く、下半身はズボンのようなものを履いている。


 俺が改めて出してもらったのは、装備を装着するためだ。


 そう、本来彼が装備するために作られた専用装備ともいうべきものがあるのだ!


 それは……『勇者力研究所』で発見した『革ジャングラサンアーマー』だ!


 ツクゴロウ博士が欲しいと駄々をこねたので、博士にあげたのだが、俺は、コレクションアイテムとして抜かりなく『波動複写』でコピーしてあるのだ。


 それを『死体人形ゾンビゴーレム』に、装着しようと思っている。

 同時に発見した専用武器と思われる『魔法のショットガン』もだ。


 これがあれば、この『死体人形ゾンビゴーレム』は、大剣での接近戦と『魔法のショットガン』での中距離戦が可能になる。

 よりパワーアップになるのだ。


 そして俺はあとで、専用のヘルメットを作ろうと思っている。


 それは、フルフェイスのヘルメットだ。

 革ジャン装備が黒なので、黒いヘルメットにして全身黒ずくめにしようと思っている。


 グラサンをかけるだけでも、ある程度顔が隠れるが、フルフェイスのヘルメットを被れば、親指将軍のことをあまり意識せずに済むと思うんだよね。


 親指将軍が望んだこととは言え、親指将軍を知っている人たちにとっては、多少複雑な気持ちは残っていると思う。

 だから、顔が見えない状態で戦ってもらおうと考えたのだ。


 ただフルフェイスの中に、グラサンをかけているという奇妙な感じにはなるけどね。


 そして親指将軍やシュワローン将軍という呼び方も、やめた方がいいと思っている。

 あくまでも、彼とは別と考えたほうがいいと思うんだよね。


 そこで俺は、ジェネラルという名前で呼ぶことを提案した。


 フミナさん達も賛成してくれた。

 もちろん、リリイもだ。


 今後は、ジェネラルもしくはジェネラルゴーレムと呼ぶことにした。

 ワイアームの『死体人形ゾンビゴーレム』は、ワイアームゴーレムと呼び、カマキリ魔物の『死体人形ゾンビゴーレム』は、カマキリゴーレムと呼ぶことにした。



 これで、『死体人形ゾンビゴーレム』についての処理は終わった。


 まずはダンジョンマスタールームに、戻ることにしよう。


「イチョウちゃん、終わったよ。俺たちを、ダンジョンマスタールームに転送してくれる?」


 俺は、姿は見えないが状況確認しているであろうイチョウちゃんに向けて、話しかけた。


「了解いたしました」


 そんな声が響いた途端……視界が揺れ……俺たちは、ダンジョンマスタールームに移っていた。


「マスター、ありがとうございます。悪魔を撃退していただき、感謝します」


 立体映像で、大人も姿になったイチョウちゃんを見て、フミナさん達が、驚いている。


「これがほんとに……イチョウ……?」

「まさか……迷宮管理システムだったなんてね」

「ちっちゃなイチョウちゃんは?」


 フミナさん、エメラルディアさん、ニコちゃんが、そんな感想を口にした。


「ちっちゃなイチョウちゃんは、寝てるのだ」


 リリイが椅子に腰掛け、停止している四歳児のイチョウちゃんの頭を撫でている。


 すると、なんと四歳児のイチョウちゃんが起き上がった!


 ホログラム映像の大人のイチョウちゃんも、そのままだけど……?


「両方を起動した状態にできるの?」


 俺は、思わず尋ねた。


「はい可能です。AI思考は一つですが、並列処理が可能です。

 ちなみに『アバターボディー』は、『幼女タイプ』だけではなく、『少女タイプ』と『熟女タイプ』もあります。

 なぜか、本来の私であるこの姿の『アバターボディー』は存在していません……。

 誰に抗議すべきか分かりませんが、心の底から抗議をしたいと思っています……」


 イチョウちゃんが、そんなことを言った。

 もしかして冗談を言ってるのかな……?

 顔は本気だけどなぁ……。


 それにしても……『少女タイプ』は、まだわかるけど『熟女タイプ』って必要……?


 まさか……俺へのハニートラップじゃないよね……?


 そんなことあるわけないか!

 おふざけが過ぎたようだ……。

 つい、熟女という言葉に反応して、思考が乱れてしまう……しっかりしろ! 俺!


 そんな俺の思考をよそに……なぜかイチョウちゃんは、他のタイプの『アバターボディー』も起動させた。


『少女タイプ』……確かに少女というか……高校生くらいの感じの部活少年みたいな雰囲気だ。

 ポニーテールにしていて、活発な印象を受ける。


 当然だろうが……ホログラム映像のイチョウちゃんを若返らせた感じだ。

 髪の色や瞳の色は、同じライトブルーだ。

 服もサイズこそ違え、ライトブルーのワンピースだ。


 そして『熟女タイプ』……四十代くらいのマダムっていう感じだ。

 めっちゃ色っぽく仕上がってるんですけど。

 何なのこのアバターボディーの技術……。

 パーフェクトな美熟女だなぁ……ふう……。

 この色っぽい感じ……どうやって出すんだろう?

 まぁそんなことは、どうでもいいが。


 多分イチョウちゃんは、サービス精神で他の二つの『アバターボディー』を出してくれたんだろうけど……なんか落ち着かないから……一旦、二つの『アバターボディー』は下げてもらった。


 『アバターボディー』のメンテナンスルームがあって、そこでボディー組織を定期的にメンテナンスしているらしい。


 少し覗かせてもらったが、培養槽のような装置が三つある。

 メンテナンス槽なのだろう。


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