1146.枝が、動いた!

「ありがとう。俺はグリム、よろしくね。

 じゃぁ君は『死霊使い』のリリイに仕えてくれるってことなんだね? 

 『使い魔ファミリア』ってことなのかな?」


 俺は、挨拶をしてくれた『ジャックランタン』に挨拶を返し、『使い魔ファミリア』についても確認した。


「ええ、そうです。それが面白そうです。

 『死霊使い』スキルが宿主を見つけたからといって、必ずしも私が眠りから覚めるわけでは無いのです。

 ですが、今回は目覚めました。

 そして実に面白い宿主で、そのお仲間も実に面白い方々です。楽しめそうです」


「よかった。リリイのことを、よろしく頼むよ」


「はい、お任せください」


「ありがとう。君は、魔物のオリジンの一種ということなのかな?」


『アラクネロード』のケニーや『ミミックデラックス』のシチミは、『オリジン』と呼ばれる特別な魔物なのだが、その系統ということなのだろう。


「そうです。まぁ正確には、その亜種のようなものです。

 『妖魔』とも呼ばれることがあります。

 少しだけ妖精的な要素も入っているのですよ。

 魔物の要素が薄いので、思考はいつもクリアですよ」


 思考がいつもクリア……?


 そういえば……『アラクネロード』のケニーは、俺の仲間になったときに、言っていた……今まで頭にモヤのようなものがかかっていたが、それがなくなってすっきりしたと。


 『オリジン』は、普通の魔物とは違って、正常な思考能力がなくなっているわけではない。

 だが、魔物である以上、多少の思考阻害のようなものがあって、クリアでなかったらしいのだ。


 俺の仲間になったことによって、そのことに気づいたと言っていたけどね。


 『ジャックランタン』は、魔物の要素が薄いので、そういう状態がないということなのだろう。


「君は、死霊属性というわけではないのかい?」


「はい、厳密には死霊属性ではありません。

 鬼火の要素がありますので、死霊とは相性が良いですし、一部の死霊は使役することができます。

 それでいて、私には光魔法や神聖魔法による浄化は効きません」


 なるほど……結構強そうだ。


「わかった。期待してるよ、これからよろしくね」


「はい。……それでは、『死霊使い』リリイ様のところに参りますので、失礼いたします」


 『ジャックランタン』は、そう言って飛んで行った。


 なんとなく……立ち居振る舞いが、執事っぽい感じだ。



 よし、あとは……ポロンジョだけだ。


 奴はさっきから、腰砕けになって地べたに座り込んでいる。


 三体のキングがほぼ瞬殺で倒されたことに、ショックを受けているようだ。


 拘束してしまおう。


 俺は、ポロンジョに向けて、魔法の鞭を放つ!


 ——ビュウンッ


 ——スッ


 え、すり抜けた!?


 これは実体じゃない!


 ……どういうことだ?


 いつの間にか実体じゃないものに入れ替わっている。

 映像のようなものなのか、分身みたいなものなのかわからないが、ただすり抜けているから、映像のようなものかもしれない。


 実体の伴わない分身というか、幻影の術みたいな可能性もあるけどね。


 『セイリュウの巫女』になったセイバーン公爵家長女のシャリアさんの『職業固有スキル』の『幻術』みたいなものかもしれない。

 自分の幻影を出現させ、敵を惑わせるのだ。


「ひゃぁぁぁぁっ、後悔しろグリム! お前が大事にしている子供は、おしまいだぁぁぁ! うぎぃぃぃぃ、ぎゃぁぁぁ」


 ポロンジョ!?

 あの野郎……いつの間にか子供たちのほうに、移動していたのか!


 そして……体が大きく変わっている。

 自ら『魔物人まものびと』になったのか!?


 両肩に、サメの頭がついている!

 サメの『魔物人まものびと』だ!


 だがフミナさんがいる!


 既に『魔盾 千手盾』を構えている。


 『守りの勇者』の残留思念体である彼女が、子供たちへの攻撃を許すはずがない!


 俺が焦って攻撃を加える必要はなさそうだ。


 完璧な迎撃態勢をとっている。


 『魔物人まものびと』になったポロンジョが、叫びながら子供たちのほうに突っ込んでいく。


 ——ユサッ

 ——ザワワッ


 ——バゴォォンッ


 なに!

 フミナさんに近づく前に、大きく後ろに吹き飛んだ!


 なんだ!?


 どうして……?


 信じられないことが起きた。


 『養育館』の前にある大きな木の枝が動いて、ラリアットのような形で、ポロンジョを横薙ぎに打ち飛ばしたのだ。


 明らかに……あの木が意思があるかのように、大きく枝を動かしたんだけど……?


 『トレント』でもないし、普通の木のはずだが……。


 念のため『波動鑑定』をかける……『ワイルドカジュマル』となっている。

 やはり普通の木だ。

 今考えてもしょうがない、後にしよう。


 サメの『魔物人まものびと』となったポロンジョが、起き上がった。


 ——ビュンッ


 ——ズボッ


 ポロンジョの脳天に、矢が直撃した。


 あれは……ハートリエルさんだ!


 どうやら騒ぎを察知して、駆けつけてくれたようだ。


 だが脳天だけでは殺せない。

 『魔物人まものびと』は、同時に心臓も潰さないといけない。


 ——グシャッ


 ……大丈夫だったようだ。


 狼亜人のセレンちゃんの父親ベオさんが、腕に装着したクローで、ポロンジョの心臓を刺し貫いた。


 ベオさんは、『魔物人まものびと』と戦った経験はないが、『魔物人まものびと』との戦いの話を俺たちから聞いていたから、倒す方法を知っていたのだ。


 一瞬の機転で、行動に移してくれたようだ。

 ナイス判断だ!


「グリムさん、大丈夫ですか?」


 外塀の上に立っていたハートリエルさんが、飛び降りて俺のほうに走って来た。


「ありがとうございます。大丈夫です。多分これで襲撃は終わりだと思います」


「こいつらは、一体何者ですか?」


「『ドクロベルクラン』の連中です」


「え、『ドクロベルクラン』! こんなに大規模で大胆な襲撃を?」


「そうです。しかも驚く攻撃ばかりでした……。

 ハートリエルさんが倒してくれたのは、人が魔物化した姿……『魔物人まものびと』です。

 しかも……あのポロンジョです」


「え、ポロンジョ!? なんてこと……一体どうやって……?」


「私も頭の整理ができていない感じです。これから、さまざまな調査する必要があるでしょう」


「分りました。今、ギルド長もスタッフと一緒に向かっていますし、衛兵隊も動いているようでした。ここでの異変は、ある程度認識されていると思います」


「そうですか、わかりました。ありがとうございます」


 ハートリエルさんは、俺との話が終わった後に、全体の状況確認のために離れて行った。


 だが離れ際に念話で、(念話で呼んでくれれば、すぐ来れたのに!)と拗ねた感じでクレームを入れてきた。

 ……なぜに念話で拗ねた……まぁいいけどさ。

 なんかツンデレが……ボディブローのように効いてくるな。


 ハートリエルさんが言っていたように……周辺が騒然としてきた。


 襲撃の気配が収まったということもあって、近所の人たちが出てきたようだ。


 衛兵や冒険者も集まり出している。


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