1105.賛助会員、作れば?

 クランの入会面接を担当したサーヤたち四人の面接官から、結果の報告を受けている。


 その中で、冒険者でない人が何人か面接に来たという話があり、一人は俺が大量買いした魔法道具店の店員のアイムちゃんだった。


 他にも何人かいたわけだが、そもそもなぜそういう人たちが面接に来たのだろう……?


 そんな疑問を投げかけると、ほとんどはクランで働きたいいう人たちだったとのことだ。


 ほとんど就職面接みたいになったようだ。


 あと商売人の人たちもいて、クランに入るためではなく、今後の取引の申し出だったそうだ。


 魔法道具店のアイムちゃんも、今後の取引をお願いに来たのだろうか?


 既に取引してるけどね。

 大口顧客を確保しようって感じだったのかな?


 アイムちゃんについて詳しく訊くと……俺たちからクランのことを聞いて、俺たちの退店後におじさんと相談して、今後何か協力したいと思って来たとのことだったそうだ。


 面接を担当したのが『アメイジングシルキー』のサーヤで、継続的な取引を望んだ利権目的とは感じなかったと付け加えてくれた。


 すごく感じが良い子で、純粋に何かの役に立ちたいという思いで来たと感じたそうだ。


 店主であるおじいさんが、ニアに心酔して、何かできることがないか面接に行ってきなさいと送り出してくれたとも言っていたらしい。


 そして自分は魔法道具店の運営をしなければいけないので、クランで働くことはできないが、冒険者が迷宮に挑むように……迷宮に行く代わりに、魔法道具店で働いてもいいなら、クランに入れてもらえないかとまで言ってくれたとのことだ。


 なるほど……迷宮に行くのではなく、お店に働きに行くというスタイルでクランに所属するってことね。


 思ってもみなかったが、クランは私的な組織だから、何でもアリではあるんだよね。


 実際、子供たちのようにただメンバーでいてくれるだけで良い存在もあれば、クランの中で仕事をしてくれる人もいる。

 冒険者として迷宮に挑む人もいるし、外で働いている人もいていいのかもしれない。


 そう考えると、冒険者以外の商人とかがメンバーになってもいいわけだよね。


 ただ、クランのメンバーになる以上、多数のお金は入れてもらうかたちにしなきゃいけないと思うんだよね。


 そういう人たちにとって、クランに所属するメリットってあるのかな?


 冒険者の場合なら、支援してもらえるとか、育成してもらえるとか、共同で迷宮攻略できるとか……あると思うんだけど、それ以外の人たちって、あまりないよね。


 ただ、クランがサークルみたいな感じと考えれば、ただ所属していることが楽しいとか、みんなで食事ができるとか、そういう事でもいいのかもしれないけどね。


 (ねぇねぇ、賛助会員とか作ればいいんじゃない?)


 突然、見た目は四歳児中身は三十五歳の後天的覚醒転生者ハナシルリちゃんが、念話を入れてきた。


 実は、あの後、ここに来ちゃってるんだよね。


 どうしても、ツリーハウスが見たいと駄々をこね、溺愛オヤジのビャクライン公爵に了承させて、オカリナさんと一緒に来てしまったのだ。


 オカリナさんは、前にここに来ているから転移の魔法道具に登録してある。

 家庭教師であるオカリナさんが、引率すると言って許しを得たそうだ。


 ビャクライン公爵も来たがっていたらしいが、それは何とか阻止してくれたようだ。


 自称元バリバリのキャリアウーマンだというハナシルリちゃんが、報告を聞いていて、閃いたので密かに念話をくれたみたいだ。


 (賛助会員って?)


 (賛助会員というのは、サブメンバーみたいな感じで、組織の運営・実行には直接関与しないで、入会金や賛助会費を払うことで組織を支援する人たちってとこかなぁ。その会の趣旨に賛同して、応援する会員よ)


 (なるほどね……でもどうして、賛助会員を作ったほうがいいと思うわけ?)


 (一言で言えば、グリムのクランに入ることはできないけど、応援したいと思っている人って、結構いると思うのよね。そういう人たちも、サブメンバーとして参加できたら、楽しいじゃない!)


 (そんなにいるかなぁ……? それに今話に出たアイムちゃんだったら、クランのメンバーに入れてあげれば済むことだと思うけど?)


 (アイムちゃんは、個人で商売してるっていうか、雇い主のおじいちゃんが同じ気持ちだからいいけどさ、そういう環境じゃないけど、応援したいと思ってる人もいるはずよ。例えば、ギルドの職員とかさぁ)


 (……確かにギルドの職員が、クランのメンバーになるのはまずいだろうね……)


 (そうよ。でも賛助会員なら、趣旨に賛同して個人的に支援してるだけですって言えるじゃない。

 例えて言うなら……ギルドの職員が、知り合いの孤児院に寄付したりするようなものよ。それは問題にならないでしょ。それと同じよ)


 (おお、なるほど! そうかもしれない)


 (あぁただね……普通にやっちゃうと、見返りを求める人たちが集まって来て、取引を頼んできたり、ゴネたりとか面倒くさくなるから、注意が必要よ)


 (そういうの目当てで来る人……多そうだよね)


 (だから、最初に入会規約に明示しておくのよ。見返りを求める人は入れないし、見返りを要求したら退会してもらう。

 取引の保証も一切しないと明確に入れたほうがいいわね。

 もちろん、賛助会員と取引をする事は、あり得るわけだけど、それは純粋な商取引だから、また別の話って理屈にするわけ。

 結果として取引をすることはあっても、取引の保証はしないというスタンスね)


 (なるほどね。商売の保証はしないから期待しないでくれ、純粋な支援の気持ちがある人だけ入ってくださいってことにするわけね)


 (そういうことよ)


 さすがキャリアウーマン! 俺では思いつかなかった。

 結構いいんじゃないだろうか。


 俺は、ハナシルリちゃんが出してくれたアイデアを、俺のアイデアのようにして、みんなに提案してみた。

 第一王女のクリスティアさんは、ハナシルリちゃんが転生者だということを知らないからね。


「それはいいわね。今日手伝ってくれていたギルド職員のリホリンちゃんやナナヨちゃんたちと、少し雑談をしたんだけど、入れるものならこのクランに入りたいって言ってたもの。賛助会員なら、彼女たちもクランに関わることができるわよね」


 オカリナさんが、そう言って賛同してくれた。


 他のみんなも賛成してくれた。


 ただサーヤからの発案で、当面は賛助会員については大きく告知しないで、知人にだけ案内するという運用にすることにした。


 賛助会員の趣旨はしっかり説明するにしても、よくわからずに、取引希望の者が多く集まってくる可能性があるというのである。


 確かにその通りで、そんなことになったらまた対応するのが大変なので、知人にだけ告知することにしたのである。

 支援してもらう賛助会員を、無理に集める必要もないしね。



 ということで、アイムちゃんには、個人もしくは魔法道具店として賛助会員になってもらう方向で話をしようと思う。

 もちろん彼女たちの場合、グランメンバーとして迎え入れてもいいんだけどね。


 面接に来た他の商人については、一旦保留にすることにした。

 保留なので、明日張り出すクランメンバーの中には、当然名前は入らない。


 でも問題ないだろうとのことだ。


 面接に来たのではなく、取引の申し入れに来たからだ。

 そもそも、クランメンバーになりたいという感じでは、なかったようだからね。



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