1088.売れない巻物も、魅力的。

「すみません、この魔法カバンというか……豚の置物、四つセットで買います」


 俺は、店員のアイムちゃんに告げた。


 ニアのおかげで、豚の貯金箱型の魔法道具が、付喪神である可能性があることがわかったからだ。


 もしそうなら、俺が『波動鑑定』の時に感じた違和感も、納得がいく。


「え、ほんとですか!?」


 アイムちゃんが、信じられないといった感じで少し固まっている。


「ぜひ」


「わかりました。ありがとうございます!」


 アイムちゃんは、喜び勇んで豚の置物四つを運び出した。



 よし、次は魔法の巻物を見よう。


 ……品数は多くないが、いくつか置いてある。


 『煙幕』という巻物がある。


 ポップが付いていて、迷宮内で強敵に出会って、逃走するときに使える使い捨てタイプの巻物と説明されている。


 『煙幕』って……何系の魔法なんだろう?


 価格は五万ゴルだ。


 一回使って終わりなわけだが、高いような気もするし……命の危険を考えれば安いような気もするし……微妙だ。


 リユースタイプならいいと思うのだが、リユースタイプの『煙幕』は売っていないみたいだ。


 まぁ面白いので、一つ買ってみることにしよう。


 なんとなく……コレクター魂が疼くのだ。


 あと面白そうなのは、『フラッシュ』という巻物だ。


 これは繰り返し使えるリユースタイプの巻物だった。


 主な機能は、やはり目くらましだ。

 リユースタイプだけあって高い。

 五十万ゴルだ。


 もっとも、リユースタイプの巻物の中では、安い方なのかもしれない。

 普通は百万ゴルくらいするという話を、前に聞いたことがある。


 機能的に考えても、光を発して目くらましするだけだから、安いのだろう。


 それに『階級』が『下級イージー』だしね。


 特に必要性は感じないが……コレクションアイテムとして買っておこう。


 なんか……コレクター魂が暴走しだしている気がしないでもないが……。

 いやこれでも、厳選しているつもりなのだ。オホン。



 『闇オークション』で落札したような便利な生活魔法の巻物とかないかな?


「ニア様、お待たせしてすみません。掘り出し物は、倉庫内をほんとに掘り出す感じで探さないと、すぐには見つからないのですが……とりあえず、面白い巻物を見つけました。これなんかどうですか?」


 店主のマドグさんがそう言って、埃にまみれた魔法の巻物を持ってきた。


「ありがとう、どんなやつ?」


 ニアがワクワク顔だ。


「これはですな……『アイトエッチコンロ』という巻物でして、巻物を広げて鍋を乗せて、魔法を発動させると、温めることができるのです! 火を起こすわけではないのに、温めるられるのです! しかもですね……火加減が、リトルファイア、ファイア、ビッグファイアと三段階に調節できるのです。火がないのに、火加減の調節なんて……ワッハッハハッハ」


 マドグさんは、説明しながら、なぜか自分の笑いのツボにはまってしまったらしく、笑い転げている。


 それはいいんだけど……今の話を聞く限り、まるで『IHコンロ』のような機能だ。

 そして名前も、それのバチモン感が半端ない!


 でも面白そうな巻物だ!


 買うしかないな!


 そして機能からして……念願の生活魔法の巻物と言って良い部類だと思う。


「面白いじゃない! いくらなの?」


 ニアも気に入ったようだ。


「そうですね……繰り返し使う巻物ですので、本当は高いのですが、いっぱい買ってもらってますし、迷宮都市の人たちを助けてくれたニア様へのお礼の意味も含めて……差し上げます!」


「え、いいわよ。ちゃんと払うから、値段をつけて」


「いいのですよ。どうせ売れない商品で、埃を被っておりましたし」


「ほんとにいいの?」


「どうぞ、遠慮なく」

「そうですよ。今まで買っていただいた分だけで、大助かりですから。今日は、おじいちゃんと一緒に『フェファニーレストラン』にでも食べに行こうかと思ってるくらいですから」


 遠慮しているニアに、アイムちゃんが声をかけた。


 確かに、俺が無茶苦茶な大人買いをしているから、今日の売り上げはすごいだろうね。


 そして、『フェファニーレストラン』は、やはり庶民の憧れのお店のようだ。


「ありがとう。じゃぁもらっておくわね。今度また掘り出し物があったら、言ってね。次はちゃんとお金払うから」


 ニアが上機嫌にそう言った。


 今回は、厚意に甘えておこう。


 おそらく話の感じからして、本当に普通には売れない巻物なのだと思う。


 火を起こして調理をするのが一般的な世界だから、鍋を一つだけ温める魔法の巻物に、高い値段なんて出さないよね。


 その便利さを知っている俺だから欲しいと思えるけど。


 ちょっとしたものを、温め直すとき手軽で便利だと思うんだよね。


 『マシマグナ第四帝国』の勇者団の秘密基地だった『勇者力研究所』で、『魔法のカセットコンロ』を手に入れたので、同様の機能のものは、実は既に持っている。


 ただ、あれは古代文明の遺物と言えるもので、現在流通しているものではない。

 だから、表立っては使いづらい。


 でもこの魔法の巻物なら、売れていないとは言え、現代でも流通しているものだから、人前で使っても平気だろう。


 クランで使うことにしよう!



 まだ店内の商品を見きれていないが、今日のところは一旦引き上げることにする。


 結構時間経っているし。


 面接に来ている冒険者の様子も気になるしね。


 改めて今回の買い物を確認すると……


 ○『下級イージー』階級の魔法の杖『マジックタクト』を百十個購入。

 一つ五万ゴルで、合計五百五十万ゴル。


 ○ 『下級イージー』階級の『魔法の水筒』を十個購入。

 一つ二十万ゴルで、合計二百万ゴル。


 ○『極上級プライム』階級の『魔法の貯金箱 ワンコインパラダイス』ピンク、銅、銀、金、四体セットを五百万ゴルで購入。


 ○ 『下級イージー』階級の魔法の巻物『煙幕』

 使い捨てタイプで、五万ゴル。


 ○ 『下級イージー』階級の魔法の巻物『フラッシュ』

 リユースタイプで、五十万ゴル。


 ○『中級ミドル』階級の魔法の巻物『アイトエッチコンロ』

 リユースタイプで、サービスで頂戴した。


 すべての合計金額は、千三百五万となった。


 買いすぎた感が、なくはないが……まぁいいだろう。

 買えるときに、買っておかないとね!



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