892.王家直轄領と、領政官。

 国王陛下は今回の反乱を機に、コバルト侯爵領にはびこる不正などを徹底的に摘発するつもりである。


『強制尋問』スキルを持つ第一王女で審問官のクリスティアさんによる尋問を、すべての貴族や上級の役人へ実施することにしたのだ。


 領主が殺害され、その後継者が反乱の首謀者であった為、コバルト侯爵家は取り潰しになるとのことだ。


 そこでコバルト侯爵領を、暫定的に王家直轄領として管理することにしたそうだ。


 行政の仕組みを熟知しているわけではないが、普通に考えたら多分そうするしかないよね。

 領主家が取り潰しなわけだからね。


 そんな中、陛下が困っているのは、コバルト侯爵領内に、使える人材がほとんどいないということだ。


 領政の中心になっていた貴族や役人などは、コバルト侯爵や反乱を起こしたボンクランドに同調していた者たちで、とても今後の再生を任せられるような人材ではない。

 領政を補佐する立場であった執政官もボンクランドの側について、今回の反乱に加担していたようで、既に拘束され牢に入れられている。


 チーバ男爵から名前が上がった貴族は信用しても大丈夫なようだが、領内では少数派だったようで、僅か三人しかいない。

 その三人は、『ヒコバの街』と同規模の街の守護のようだ。

 大きな都市の守護は、皆コバルト侯爵の非道な領政に同調し、甘い汁を吸っていた者たちらしい。


 コバルト侯爵領は、ピグシード辺境伯領やヘルシング伯爵領よりも少し面積が大きく、領都を含めた五つの都市と、五つの街があるとのことだ。

 おそらく守護を務めている貴族が半数以上摘発されるから、各市町の運営も大変になるだろう。


 そんな状況なので、暫定的に第一王女のクリスティアさんが、『領政官』という役職について、管理をすることになるらしい。

 『領政官』という役職は、直轄領の特定の地域を管理する役職で、領主と同様の立場になるとのことだ。


 コバルト侯爵領内の貴族や役人の尋問を実施するクリスティアさんに、暫定的ではあるが管理も任せることにしたのだろう。


 ただ審問官としての仕事もあるし、何よりも『コウリュウの巫女』なので、なるべく領政官としての負担を少なくするために、補佐して実務を執り行う執政官を二人置くようだ。

 王都から召集するらしい。


 それとクリスティアさんの希望で、領政官補佐としてセイバーン公爵家長女のシャリアさんとスザリオン公爵家長女のミアカーナさんにも協力してもらうことにするようだ。

 彼女たちの経験にもなるし、陛下は快く許可していた。


 王都には、役職を与えられず立身出世の機会を模索している貴族の子弟がたくさんいるらしい。

 コバルト侯爵領が、一時的なものではなく正式な王家直轄領になることを期待して、活躍の場を求めて訪れる者が、多く現れる可能性があるそうだ。

 国王陛下の見立てである。


 王都を離れ他領に仕官するよりも、場所は離れても王家直轄領に仕官する方が、ハードルは低いだろうとのことである。


 そんな状況なら人材不足のピグシード辺境伯領に仕官してほしいものだが、そう単純な話ではないようだ。


 なかなか王都を離れるという決断は、できないらしい。

 それにピグシード辺境伯領は、王都から遠く離れた辺境であるとともに、悪魔に狙われて貴族が皆殺しになったので、敬遠されているのだそうだ。


 こんな状況を、ユーフェミア公爵も国王陛下も情けなく思っているらしい。


「シンオベロン卿、君が望むならこのコバルト侯爵領を渡しても良いのだが……どうだね?」


 国王陛下が、突然そんなことを俺に言った。


 それってどういうこと……?


 俺に領主になれってこと……?


 そんな面倒くさいこと、絶対に嫌だし!

 面倒くさいのが嫌で、最下級の名誉騎士爵にしてもらっているのに……。

 軽い感じで陛下が訊いてきたから……冗談だよね?


 てか……クリスティアさん……なに期待に満ちたような顔になってるわけ?

 領主なんてやるわけないから!


「と、とんでもありません。私はピグシード家の家臣ですから。ピグシード辺境伯領の復興に力を入らなければなりませんし、これから悪魔を倒すために『アルテミナ公国』にも行かなければなりませんので……」


 冗談だと思うが、一応きっぱり断っておいた。


「そうだねぇ……。貴公が望むわけはないんだよねぇ……」


 陛下が少し残念そうな顔をしている。


「そりゃそうさね。グリムは領主なんて望まないし、この国の一つの領に収まるような男じゃないさね。あんたもわかっているだろう?」


 ユーフェミア公爵が、ニヤけながら陛下の肩を叩いた。


「ええ、姉様、わかってます。ダメ元で声だけは、かけてみたのです。ただ一つの領が空いた以上、臣下の中にはシンオベロン卿に領地を持たせて、囲い込もうとする意見を主張する者もいるでしょう。まぁそれらの意見は捻じ伏せることができますけどね。ただ将来に含みを持たせる意味でも、クリスティアを領政官にしたのですよ」


「ほほう。なるほど、お前も考えるようになったじゃないか。クリスティアを嫁に出す前提ならいい作戦だね。私がグリムのために巨大な屋敷を作るのとは比べ物にならないよ。一つの領地を確保しておくんだからね。国王のやる事は、さすがに規模がでかいね! ハハハハハハ」


 なんかよくわからないが、ユーフェミア公爵が国王陛下と一緒に悪い顔で笑っている。


 なんとなく……背中にゾッとするものを感じるのだが……深く考えるのはやめておこう。



 俺が連行してきたヤーバイン将軍や特別騎馬隊、第一騎馬隊の兵士たちは、領城の牢に入れることになった。


 これにより領城の牢がいっぱいになったので、海賊たちはセイバーン公爵領で引き取ってくれることになった。


 海賊たちの船については、俺が没収しているが、証拠品などの調査の後、戦利品として俺がもらうことになった。

 船は『波動収納』にまだ何隻も残っているので、特別欲しかったわけではないが、厚意なので受け取ることにした。


 ちなみに、いつものごとく海賊を捕まえた褒賞金は、セイバーン公爵領で支払うということだった。


 それから特別騎馬隊の『竜馬りゅうま』と第一騎馬隊の『軍馬』については、セイリュウの化身獣であるオリョウが仲間にしてしまったので、できれば俺の戦利品としてもらえないかとお願いしてみた。

 陛下は、あっさり了承してくれた。


 そんな話をしているときに、『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウが近づいて来た。


「オリョウちゃんも言ってたけど、第二騎馬隊と第三騎馬隊っていうところにいる馬たちも、アタイたちの仲間にしてあげたい。アタイたちに任せてくれないかしら?」


 フォウは、なんと陛下に直接交渉したのだ。


 これを陛下が快く了承し、第二騎馬隊、第三騎馬隊の『馬車馬』合計百頭も仲間にすることになった。


 『軍馬』五十頭とあわせて、総勢百五十頭の『馬軍団』ができてしまった。

 フォウの『馬軍団』が戦場を駆け抜けて、魔物を屠りまくりそうだ……。




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