851.有名な王女の、子孫。
「こいつは驚いたねぇ……『英雄王女』……ナナリシア王女は、我々の憧れの王女さね。王族の歴史の中でも、かなりの変わり種の王女だよ。ここ数百年の中では、一番だろうね……。私も陛下も大ファンさね。まさかその子孫が……『怪盗イルジメ』とはね……。すごく不思議だよ……。でもある意味納得でもあるけどね……」
ユーフェミア公爵はそう言うと、少し目を潤ませた。
かなり感動しているようだ。
「まったく驚きです。私も姉様もそうだし、王族に、第十二王女……ナナリシア王女の名前を知らない者はいない。『英雄王女』という二つ名の国民の英雄だからね。『天翔る十二王女』とか『天翔王女』なんて呼び名もあるんだよ」
そう言いながら、国王陛下も目を潤ませた。
そして……涙が頬を伝った。
陛下……泣いちゃってるじゃないか……。
ユーフェミア公爵といい、そんなに感動してるわけ……?
『シルバーの攻略者』ということだから、それだけで国民的な英雄だろうし、それがさらに王女なんだから、その当時の国民的な大英雄であったことは想像に難くない。
そして、今でも王家の人間にとっては、特別な存在のようだ。
「私は、母に少し話を聞かされただけなので、詳しくは知らないんです。それと……これを母から引き継いでいます」
オカリナさんはそう言いながら、二つのメダルを出した。
一つは、金色で龍が描かれている。
もう一つのメダルはシルバーで、三角形と逆三角形が連続して菱形のようになった紋様が描かれている。
「これは……『王族のメダリオン』だね。それと『シルバーの攻略者』が与えられるメダリオン……『シルバーメダリオン』か……。この二つを引き継いでいるということは、間違いなくナナリシア王女の血を引いているということだね……」
「まさか……ナナリシア王女の血が、受け継がれていたとはね……。公式の記録じゃぁ……行方不明になっていたからね。まさか子供を残していたとは……」
国王陛下とユーフェミア公爵は、感慨深げに話している。
金色の龍が描かれたメダルが『王族のメダリオン』のようだ。
王族に渡されるメダリオンらしい。
銀色の菱形紋様が描かれたメダルは、『シルバーの攻略者』に渡されるもののようだ。
「ナナリシア王女は、一体どこで暮らしていたんだい?」
陛下が、涙を流しながら質問した。
「すみません。詳しいことは、聞いていないんです。母は、あまり詳しく話してくれませんでした。もしかしたら、母も詳しく知らなかったのかもしれません。ただ、成人したら伝え聞いている話を、すべて教えてくれるとは言っていたのですが……その前に亡くなってしまいましたので……。私は、迷宮都市で生まれ育ったのですが、母は違う国にいたみたいです。結婚前の若かりし頃、恋人だった父とともに迷宮都市にやって来たみたいです。そして攻略者となり、引退後も迷宮都市に居着いたようです。私は、祖母にも曽祖母のナナリシア王女にも会ったことはありません」
オカリナさんが、申し訳なさそうに答えた。
詳しいことを伝え聞いておらず、期待されているような答えができないのが申し訳ないようだ。
さっきから気になっていたのだが……このオカリナさんの一連の話を聞いて……めっちゃ号泣している人がいる。
話に入ってくるでもなく、ただただ声を上げて号泣しているのだ。
その人は……御年九十五歳のツクゴロウ博士だ。
みんな号泣しているツクゴロウ頃博士には、気づいているが……微妙に放置状態だ。
しょうがないので、俺が声をかけることにした。
「ツクゴロウ博士、どうかしたんですか?」
「うおぉぉぉぉ、ぐがぁぁぁ、びじょょょょ、どばぁぁぁ、あ、あ、ひっ、ひっくっ」
相変わらず号泣しているだけだ。
「あの……もしかして……ナナリシア王女のファンだったのですか?」
ちょっとだけ号泣度合いが緩くなったところで、尋ねてみた。
「ワ、ワシは……ナナリシア様の従者団の一人じゃったのじゃ……。ナナリシア様をお慕いする王立研究所の生徒が作った『勝手に従者団』の副団長だったのじゃ。みんなで、役に立ちたいとナナリシア様を追いかけ回したから、酷くウザがられたがのう……。ただ、きつく突き放すことはしない、とても優しい方だったのじゃ。口にするのも不敬じゃが……ワシの初恋なのじゃ……。あの方が女子の基準になってしもうたゆえに、かなりモテるワシが独身でいる羽目になったのじゃ。少しだけ恨んでおるのじゃ……。消息不明になって、当時は悲観に暮れておったが、お子を残しておったとは……。うおぉぉぉぉ、ぐがぁぁぁ、びじょょょょ、どばぁぁぁ」
ツクゴロウ博士は、一方的に話すと最後にはまた号泣してしまった。
それにしても言ってる内容は……ツッコミどころ満載だ。
『勝手に従者団』ってなに!?
それって……絶対、迷惑な追っかけ集団だよね。
そして初恋だったわけか……。
初恋の人が凄すぎて、他の女性が好きになれなかった的なことを言ってるけど……絶対に、ただモテなかっただけだよね……スルーしてあげよう。
消息不明になった憧れの人が実は生きていて、子供を産んで子孫を残していた。
そして、その子孫と対面できたというのは、基本的には嬉しいことだろう。
だが……なんとなく……それだけではない複雑な気持ちもあるような泣き方だ……。
と思っていたら……やはりただ嬉しいだけでなく、ちょっと複雑な気持ちもあるようで……
「ナナリシア様が生きていてくださったのは嬉しいが、まさか結婚して、子供までいたとは……。ナナリシア様を娶ったのは、どこのどいつなのじゃ……くそ……くそがぁ! うおぉぉぉぉ、ぐがぁぁぁ、びじょょょょ、どばぁぁぁ」
ツクゴロウ博士には、嫉妬の感情も湧き上がってきてしまったようだ……。
そしてまた泣き出した。
相変わらず……感情の起伏が激しいが……この人、大丈夫だろうか?
本当に、情緒不安定なヤバい爺さん状態だ。
「よく見ると……確かに……ナナリシア様の面影があるの……」
ツクゴロウ博士はすぐに泣き止むと、今度はオカリナさんを見つめながら、ぶつぶつ言いながら迫って行っている。
このパターンだと、いつものように抱きつこうとするのだが……これまたいつものように、付喪神たちに全力で阻止された……残念! というか自業自得だね。
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