721.合同訓練の、はじまり。

 翌日の午前、俺たちは公式秘密基地『竜羽基地』に来ている。


 今日から、『神獣の巫女』と『セイリュウ七本槍』と『セイリュウ騎士団』による合同訓練が始まったのだ。

 初日なので、俺や仲間たちも見学させてもらうことにした。

 訓練のパートには、『神獣の巫女』による『念術』系スキルの練習会も入っている。

 それに参加する目的もあるのだ。

 これによって、『念術』系のスキルが身に付く可能性があるからね。



 そういえば、昨日コウリュウ様がスキルとして構築してくれた『コウリュウド式伝承武術』が、『セイリュウ七本槍』と『セイリュウ騎士団』全員に発現していた。

 もちろん他にも、アンナ辺境伯やビャクライン公爵など『コウリュウド式伝承武術』の達人級の腕前の人には、スキルとして発現していた。

 そして何故かリリイとチャッピーにも、発現していた。


 なんとなくだが……その理由には察しがつく。

 この子たちは前に、『領都ピグシード』の領城で、セイバーン軍の近衛隊長のゴルディオンさんに『コウリュウド式伝承武術』の基本の型を教えてもらっていたのだ。

 それで発現したのだろう。


 リリイたちは、奥義技は取得していないんだけどね。


 『神獣の巫女』たちも、ハナシルリちゃん以外は発現していた。


 ハナシルリちゃんは、さすがに四歳児だからまだ『コウリュウド式伝承武術』を習っていなかったんだよね。


 リリイとチャッピーにスキルが発現してくれたお陰で、『波動複写』でコピーして俺のスキルにすることができる。

 そしてそれをもとに、『共有スキル』にセットできるから、ハナシルリちゃんも使うことができるのだ。


 ただ『コウリュウド式伝承武術』スキルは、スキルレベルが上がっても、基本の剣技などが高度になり、達人級になっていくだけのようだ。

 従来の奥義技と言われていたものは、『技コマンド』として発現するようになったみたいだが、それはスキルレベルを上げただけでは発現しないらしい。

 練習によって、熟練度のようなものが上がらないと発現しないようなのだ。


 だから現時点では、『共有スキル』にスキルレベル10の『コウリュウド式伝承武術』をセットしても、ただ単にこのスキルの中に含まれている『剣術』『槍術』『斧術』『弓術』『盾術』スキルが、レベル10の状態になっているというだけになってしまうのだ。



 実は、こういうタイプのスキルは結構あるようだ。

 スキルレベルが上がっていても、そのスキルの基本的な能力が高められているだけで、特別な技コマンドは、実際に努力して熟練度を上げないと発現しないという……いわば修練型のスキルだ。


 ただ普通は、スキルレベルを上げるためには、そのスキルをかなり使いこまなければいけない。

 だから、その中で自然と『技コマンド』も発現するということになるはずである。


 俺のように、無理矢理スキルレベルを上げることができる人はほとんどいないだろうし、『コウリュウド式伝承武術』のように一つのスキルの中に、いくつかスキルが含まれているのは稀なケースだろう。


『コウリュウド式伝承武術』の剣技を中心に修練を積んでいる者は、剣技系の『技コマンド』は発現するが、全く練習していない弓技系の『技コマンド』は発現しないということになるのだろう。



 訓練自体は、皆楽しそうに、そして真剣に取り組んでいた。

 ただ……訓練で一番張り切っていたのは、コーチ役のビャクライン公爵だった気がする。


 ちなみにハナシルリちゃんは……(これは特訓パートね! やっぱりスーパーヒロインになるためには、特訓が必要よ! いくらチートでも特訓パートは燃えるもの!)……というわけのわからない念話を入れてきて、頑張っていた。

 まぁ楽しそうだからよかったけど。



 ビャクライン公爵一家や『セイリュウ騎士団』のみなさんは、『竜羽基地』に来るのははじめてなので、少し案内してあげたのだが、予想していたよりも大きかったようで驚いていた。


 国王陛下と王妃殿下とその護衛のタングステン近衛騎士団長と格付け第二位の騎士ミチコルさんも、一度秘密基地を見てみたいということで一緒に来ていたのだが、かなりハイテンションになっていた。

 そして何故か、この基地の設備や備品をもう少し充実させる計画を立てていた……まぁいいけどさ。

 ありがたく受け取っておくことにしよう。


 そして初めて来た皆さんが一番驚いていたのは、この秘密基地の維持管理をしているのが、綺麗好きなオケラ型虫馬『ケラケラ』のケラリンだったことだ。

『ケラケラ』自体が、かなり珍しい虫馬だからね。



 それから俺は、今日の早朝に、ケラリンにも手伝ってもらって巨大な格納庫を増設した。


 『正義の爪痕』から没収した通称『べつじん28号』二体と通称『メカヒュドラ』を格納するためだ。


 ここで『ドワーフ』の天才ミネちゃんと、人族の天才ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんに、解析をしてもらおうと思っている。

 そしてできれば、壊れている操縦システム『ムーブトレースシステム』を直してもらいたいと考えているのだ。


 またこの大格納庫は、巨大な空間を作っただけで、上部ハッチの開閉ギミックなどは作れていない。

 ここについても、お願いしようと思っている。


 本当は、巨大なプールもとい池が割れて、中から浮上してくるとか……そんな格納庫を作りたかったのだが……今の俺では無理だった。


 将来的には……『キョジィィン、ゴー!』というような発動真言コマンドワードで、水面が割れてメカが浮上してきて、そこに小型メカが合体するみたいなギミックを見たいが……。

 できればいずれ……かっこいい巨大ロボットのような『操縦型人工ゴーレム』が作りたい。

 名前はもう決めてある……『キョジンガー』だ!

 いかんいかん……勝手な妄想が膨らんでいる……完全に趣味に走ってきている……自重しよう。

 でもやっぱり……ミネちゃんに今のイメージを話してみようかなぁ……もしかしたら作れちゃうかもしれないし……ムフフ。


 まぁそれはともかくとして、とりあえず『べつじん28号』と『メカヒュドラ』を格納しておいたので、それを改めて見た皆さんは、本当に驚いていた。


 『べつじん28号』も巨大だし、『メカヒュドラ』はもっと巨大だからね。



 そういえば、この三体の『操縦型人工ゴーレム』がもともと格納してあった『正義の爪痕』の首領のアジトだった場所は、俺に対する戦利品として与えられてしまった。

 王国で管理するのも大変だし、俺の方で悪用されないように管理してもらいたいというのが実際のところだと思う。

 不可侵領域でかつ魔物の領域にあるからね。

 俺も、今のところ特に使い道はないが、悪用されると困るので、今まで管理下に置いたアジトと同様に管理することにした。


 そしてもう一つ『魔物の博士』と『酒の博士』がアジトにしていた『領都セイバーン』近郊にある地下アジトも俺に与えられてしまった。


 ここについては、領都から近いので何か使いようがあると思うのだが、俺に対する褒賞という意味で与えてくれたようだ。

 この地下アジトの地上部分は、広い草原になっているのだが、その草原を俺の土地として与えてくれたのだ。


 草原には『フェアリー商会』の牧場を作ってもいいし、地下は加工品などを作る場所にしてもいいだろうという提案までされてしまった。

 無理に使う必要はないが、とにかく俺のものとして収めるようにと、半ば強引にユーフェミア公爵とマリナ騎士団長に与えられてしまったのだ。


 当面は余裕がないから、そのまま放置状態になるかもしれないが、ありがたく頂戴することにした。

 というか……頂戴する以外の選択肢は……事実上ないのだ。



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