674.人造迷宮の、中核技術。

 約三千年前に滅んだとされる古代文明『マシマグナ第四帝国』が、滅亡間際に開発した……当時の最新型である移動型ダンジョン『シェルター迷宮』。

 その生体コアにされていた『人造生命体 ホムンクルス』の幼女ニコちゃんは、まだ目覚めていない。


 目覚めを待ちつつ心配そうに見守る『魔盾 千手盾』の顕現精霊『付喪神 スピリット・シールド』のフミナさんと一緒に、俺も見守っている。


 そして引き続き、彼女から話を聞いている。


『ホムンクルス』の製造技術は、人造迷宮の中核技術である魔物の生産技術と同系統であるらしい。


 そもそも『マシマグナ第四帝国』が人造迷宮の開発に成功し、可動させたのは、フミナさんがいた当時より約五百年ぐらい前だったそうだ。


『ホムンクルス』の製造技術も、魔物の生産技術も迷宮稼働当時の五百年前に……今を起点にすれば三千五百年前に……基本的には確立されていたのだそうだ。


 魔物の生産技術は、五百年の間に少しずつ改良されてきていたらしい。


 ただ『ホムンクルス』の製造技術については、様々な問題と人道的な側面から暫く中止されていたらしい。

 何百年もの間、研究が行われず、事実上破棄された技術だったようだ。


 それがフミナさんがいた帝国の末期には、再開されていたらしい。

 その時には、改良されていた魔物の生産技術をもとに、製造技術が再構築されたようだ。

 フミナさんの知り合いの科学者が言っていたらしいが、当初の『ホムンクルス』の製造技術は破棄されて資料が残っておらず、失われた技術となっていたらしい。

 だから再構築といっても、ほとんどゼロから作り上げるのと同じだったようだ。

 それゆえに、フミナさんがいた頃の帝国の『ホムンクルス』製造技術と、五百年前に持っていた当初の『ホムンクルス』製造技術は、似たところがあっても違う技術と認識されていたそうだ。


 帝国の末期には、『ホムンクルス』の製造技術の再開発が行われたわけだが、強化人間として強い人類を作るという目的で再開されたようだ。


 末期の帝国は、『千年の呪い』に打ち勝つために、様々な分野で躍起になっていたらしい。


『千年の呪い』というのは、『マシマグナ帝国』の名を継ぐ文明が千年で滅びてしまうという迷信めいたものだ。


 ここで俺は、以前にユーフェミア公爵から教えてもらった『魔法機械文明』についての情報を思い出した。


 その情報は…………


『マシマグナ帝国』といわれた超巨大文明が存在し、約一万五千年前に滅亡している。

 一万年近く続いた超文明だが、現存する遺跡や遺物はほとんど無いといわれている。


 その三千年後に『マシマグナ第二帝国』という新たな魔法機械文明が現れた。

 失われた『マシマグナ帝国』の再興を目指して、それを成し遂げたといわれている。

 ただこの帝国も千年ほどで滅亡した。


 その更に三千年後に、今度は『マシマグナ第三帝国』を標榜する勢力が国を起こし、魔法機械文明を築き上げたが、これも千年ほどで滅亡した。


 そして更に三千年後に『マシマグナ第四帝国』を名乗る国が出現し、同じく千年ほどで滅亡した。


 最初の『マシマグナ帝国』は別にしても、その後の模造品みたいな帝国は三千年周期で出現しては千年で滅亡というのを繰り返している。

『呪いの千年』とか『千年の壁』とかいわれているらしい。

 本家の『マシマグナ帝国』の呪いという者もいるとのことだ。


 …………という内容のものであった。


『マシマグナ第四帝国』の末期にも、この千年での滅亡ということが認識されていて『千年の呪い』と言われていたということだろう。


 実際、魔王や悪魔との戦いが起こっているのだから、当時の人たちとしては、滅亡の恐怖を現実味のあるものとして感じていたのだろう。

 だが、『九人の勇者』たちが勝利したことで、『千年の呪い』を回避したと皆思っていたらしい。

 ところが実際には、目に見えない悪魔の介入などもあり、自滅するかたちで文明が滅んでしまったという事のようだ。



『千年の呪い』を回避するためにも、強い人類を作り出すという理想の下に再現された『ホムンクルス』の製造技術だったが、直面している危機にも影響を受け、いつしか完全に軍事転用されてしまったのだろう。


 当初十人ほどいた『ホムンクルス』の子供たちが、戦いなどに巻き込まれて二人しか残らなかったとフミナさんが言っていたが、なんとなく……戦いの道具として使われたような嫌な感じがする。


 それについては、あえてフミナさんには尋ねていない。

 もし俺の予想が合っていたとしたら、思い出したくないことだろうからね。



 それから、人造迷宮が製造されだした年代の話は、前に『ミノタウロスの小迷宮』のミノショウさんから聞いた話と一致する。


 ミノショウさんが言っていたのは、今から約三千五年以上前に『マシマグナ第四帝国』の人間に天然の迷宮の仕組みを解析するヒントをあげたということだった。


 そのヒントをもとに、その人が自力で仕組みの一部を解明し、人造迷宮が作られるようになったとのことだった。


 ミノショウさんがヒントをあげた理由は、その人が迷宮の恵みで人々を豊かにしたいと理想を語り、迷宮を争いに利用しないと約束したからだったそうだ。

 実際その約束は守られていたようだが、その人も亡くなり世代を重ねるごとに忘れ去られたらしい。

 結局、約束は破られ、自滅するかたちで文明は滅びてしまったと嘆いていた。


 今にして思えば……最新型の移動型ダンジョンは、完全に兵器に転用され、それが悪魔のハッキングによって暴走し、自らの文明を滅ぼしたわけで、ミノショウさんはこのことを言っていたのかもしれない。



 それからフミナさんは、人造迷宮が作り出す魔物の特性についても教えてくれた。


 人造迷宮内での魔物の生産については、コピー生産というか……クローン技術的な仕組みで生み出されているらしい。


 元となる魔物を捕まえて、その魔物と同じような個体を作り出すということのようだ。


 ただ通常の魔物と違うのは、常に多くの魔素を吸収しないと活動が維持できないということらしい。

 迷宮内にいるときは、潤沢に魔素が供給されてるから問題ないが、迷宮外に出た場合は、余程魔素が濃い場所でない限りは、活動停止に陥ってしまうようだ。

 通常の魔物と違い、常に魔素を取り込み続けないと活動できない体質になっているのだそうだ。


 技術的にそうなってしまうのか、意図的にそうしているのかはわからないが……結果的に保険のようなかたちになっているのかもしれない。


 もし魔物が大量に迷宮の外に出てしまっても、しばらくすれば活動できなくなるということだからね。


 そう考えると、今日の移動型ダンジョン『シェルター迷宮』からの魔物の放出も、いずれはほとんどの魔物が活動できなくなったということだろう。


 ただそんな事は待っていられないから、速攻で倒して正解だったわけだが。


 実際問題として活動停止に至るのが、数時間なのか、数日なのか、数ヶ月なのかはわからない。

 その間の被害が、甚大になってしまうから倒すのが最善策だったのである。


 迷宮内の魔物がコピー生産のような形で生み出されているということと、迷宮外に出ると活動できなくなるという話は、俺がダンジョンマスターをしている『イビラー迷宮』の迷宮管理システムのダリツーから聞いた情報とも符合する。

『イビラー迷宮』は、マシマグナ第四帝国のテスト用第二号迷宮だ。


 迷宮で生産された魔物を『鑑定』すると、元となったオリジナルの魔物と同じように表示されるらしい。

 やはりクローンということなのだろう。


 厳密には、オリジナルの魔物より環境適応能力などが劣るようだが。


 前に、迷宮管理システムのダリツーが言っていたが、細胞培養し魔物の形を成してくると、ある時点で魂が宿るらしい。

 そして、その仕組みについては、解明できていないということだった。

 生命の神秘ということなのだろうか。


 人造迷宮で作られる魔物は……本来的にはコピー魔物とでもいうべき存在だろうが、オリジナルの魔物と同様に、パーツも使えれば、肉も食べれるし、『魔芯核』も取れるとのことだ。

 それを活かせば、確かに人々の生活を豊かにすることが可能だ。

 変な話だが、魔物を養殖したみたいなものだよね。

 もちろん飼い馴らすことは、できないわけだが。


 やはり技術自体には善も悪もなく、使い方次第ということだろう。


 今回のように人々を襲う道具として考えたら恐ろしいが、正しく運用できれば人々を豊かにできる道具でもあるのだ。


 革新的な技術というのは、必ず光と影があって、使い方が重要なのだとつくづく思った。

 例えば自動車は人々の生活を豊かにする道具ではあるけど、人々の命を奪ってしまう危険を常にはらんでいるわけだからね。


 人造迷宮についても、全く同じだと思うんだよね。

 多くの人造迷宮のダンジョンマスターとなっている俺としては、肝に銘じなければならないことだ。



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