672.交換リストに、載っている!

『コウリュウド王国』の生ける伝説と言われている伝説の騎士……『近衛騎士団』団長のタングステンさんとの変則的な模擬戦が終わった。

 変則的というのは……お互いまともに立ち会ったのではなく、それぞれが順番に攻撃を受けあったというかたちだったからだ。


 俺は『鉄壁のタングステン』という二つ名の意味を体感し、スキルを超えた凄みを、まさに肌で感じた。


 すごくいい経験になった。


 タングステン騎士団長は、一歩も引かず俺の攻撃を受けていた。

 まさに鉄の壁だったのだ。

 だがその頑強さと凄みとは裏腹に、柔らかい感じの動きでもあった。

『柔よく剛を制す』いう動きでありながら、存在そのものは『剛』という不思議な感じだった。


 この人に教えを乞いたいと思ってる人は、おそらく相当いると思うんだよね。

 そういう意味では、王族を守る『近衛騎士団』よりも、もっと適した役職があるような気がするが……。

 俺が口を挟むようなことでもないし、何か事情があるのかもしれないから、あえてそこには触れなかった。



 そして、今度こそお開きにしようと思ったのだが……


 ビャクライン公爵家長女で、見た目は四歳児、中身は三十五歳のハナシルリちゃんが、声を上げた。

 俺の早く終わりたいという空気を全く読まず……というか読んでいるのにあえて無視して、声を上げたに違いない……。


「グリムにぃに、ははうえは、すごい火の魔法が使えるの。にぃにが受けてみて」


 ハナシルリちゃんは、みんなの前で大きな声でそう言うと、密かに念話も繋いできた。


 (母上はね、中級の火魔法が使えるから! グリムが持ってないやつよ。やっちゃえばいいじゃん。一度にやったほうが効率的でしょ!)


 そんな効率厨のようなことを言ってきた。


 彼女的には、俺のことを思ってのことらしいが……。


「それじゃぁ、私も協力しようかしら。私の火魔法は中級に属するもので『火花』って言うんだけど、初見よね?」


 なぜか嬉しそうな感じで、アナレオナ夫人が前に進み出てきた。


 やはりこの人も密かにバトルジャンキーなんだろうか……。


「はい。その火魔法は、はじめてみます」


「なら……しょうがないわね。私も協力するわ!」


 アナレオナ夫人は、嬉しそうに言って、俺と向き合った。


 俺に一切の拒否権はなく……ありがたく魔法を受けることになった……。


 まぁ魔法を一、二回受ければいいから、すぐ終わるだろう。

 気持ちを切り替え、お願いすることにした。


 ちなみに、アナレオナ夫人は元々スザリオン公爵家の次女だった人だが、スザリオン公爵家は火魔法が得意な家系で発現する者が多いらしい。

 そういえば、現スザリオン公爵家長女のミアカーナさんも火魔法を使っていた。


「じゃあ、よろしいかしら? 行きますわよ……火魔法——火花!」


 アナレオナ夫人はそう言うと、右手を肩から振り下ろした!


 手の先から炎の球体が投げ出され、途中で蕾が開くように花の形になった。


 俺は、火傷を覚悟の上で、その火の花を手で受け止めた。


 するとその瞬間、火の花から無数の小さな火花が散った。

 範囲は狭いが、爆発みたいな感じになっている。


 おそらく……本体の火の花で焼き、同時に飛ばした火花で追加ダメージと目くらましをするのだろう。

 集団を相手にする場合には、有効だと思う。

 ただ住宅などが多い場所では、延焼して火事になる可能性もあるだろう。

 市街地での戦闘では、使いにくいかもしれない。


 今思ったが……夜空にこの『火花』を射出して、途中で敵に当たった時のように火花を散らせたら、花火みたいになるんじゃないだろうか……。


 中級の火魔法というだけあって、それなりに威力があるので、俺は火傷してしまっている。


 大火傷じゃないから、自然回復力で治ると思うが……


「まぁ……ほんとにまともに受けたんですのね。ほとんどダメージを受けていないなんて……さすがグリムさんね。普通なら私も自信を失くすところですけど、あなただったらしょうがないものね。ちょっとは、お役に立てたかしら?」


 悪戯な笑みを浮かべながら、アナレオナ夫人が俺に声をかけてくれた。


「はい。ありがとうございます。勉強になりました」


 俺は、アナレオナ夫人にお礼を言って、今度こそお開きにしようと思ったのだが……


「どうせなら、我々も汗を流すか! なぁみんな!」


 出たよー……まったく場の空気が読めない男……脳筋溺愛オヤジことビャクライン公爵が、愉快な脳筋たちのセイリュウ騎士たちに声をかけた。


 セイリュウ騎士たちも、楽しそうに体を動かし始めた。


 どうも彼らは、ここで修練のようなことをはじめるようだ。


 俺を巻き込まないでくれるなら、いいけどさ。


 ということなので、なし崩し的なこの流れに任せ……俺はひっそりと退場することにした。



 庭の隅のほうに移って、早速『固有スキル』の『ポイントカード』の『ポイント交換』コマンドを確認する。


 ……よし! やった!


 狙い通り、『交換リスト』に、俺が受けたスキルが表示されている。


 エレナ伯爵が持っていた『空手術』『拳法——光輝拳シャイニングフィスト』『双棍術』『武器破壊ウェポンブレイク』、タングステン騎士団長が持っていた『長柄斧術』、アナレオナ夫人が持っていた『火魔法——火花』が見事に表示されていた。


 これで『ポイント交換』で、スキルを手に入れることができる!


 攻撃系のスキルや魔法攻撃系のスキルについては、これで『交換リスト』に載せる方法が判明したと言える。

 非常に大きな意味がある。

『ポイント交換』でスキルを手に入れるという機能は、今まで活用できていなかったが、今後は大きく活用できそうだ。


 あとは……攻撃型以外のスキルを、『交換リスト』に載せる方法がわかればいいんだけどね。

 どうすれば俺が体感したと言える状態になるのかが、わからないんだよね。



 例えばエレナ伯爵は、今回俺に体感させてくれたスキル以外にも、俺が持っていない『通常スキル』をいくつか持っている。


『挑発』『加速』『水泳』『暗示耐性』『運搬』などだ。


 これらのスキルについては、どうやったら『交換リスト』に入るのかがわからない。


 スキルを使っているところを、俺がそばで注意してよく見れば、もしかしたら『交換リスト』に載るのかもしれない。

 ただ、実際に一つ一つやってみないと、わからないんだよね。

 今度時間があるときに、ゆっくり一つ一つ試してみるしかないね。


 すぐに必要と思えるスキルもないし、いずれエレナさんを含めたユーフェミア公爵たちにも『絆』メンバーに入ってもらおうと思っているので、その時が来れば『波動複写』で入手することができるんだよね。


 焦る必要はないのだ。


 ちなみに同じく『ヴァンパイアハンター』のキャロラインさんは、俺の眷属なので『絆』メンバーだが、スキルとしては『加速』や『暗示耐性』を持っていないんだよね。


 『ヴァンパイアハンター』としての適性や訓練で高速移動ができたり、暗示に対して強くなっているということのようで、スキルとしては持っていないのだ。



 なにはともあれ……ほとんど使いこなせないでいた『ポイント交換』で、新スキルを手に入れる機能を、少しだけ使えるようになった。

 俺にとっては、大きな前進だ!



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