670.技を、受ける。

 俺の『固有スキル』の『ポイントカード』の『ポイント交換』コマンドで、スキルを取得する為の『交換リスト』に載る条件を探るために、エレナ伯爵に協力してもらうことにした。

 若干人選をミスった感じはあるが……今さら後悔してもしょうがない。


 ここは、早々に『空手術』の技を叩き込んでもらっておしまいにしよう。


 自分で体感することによって、そのスキルが『交換リスト』に載ることを確かめる為なので、避けないで真正面から技を受ける予定だ。


 早速……はじめようと思ったのだが……


 いつの間にか、ギャラリーが集まっている。


 一緒に飲んでいた大人女子たちが、みんな来ちゃってるんだよねぇ……。

 なぜか若い女子たちは……微妙に不安そうな顔をしているが……。


「みなさん、気にせずに飲んでいて下さい。少しだけ確認したいことがあって、エレナ伯爵に協力してもらうのです。『空手術』の技を見せてもらうだけですから、すぐ終ります」


 俺がそう言うと、なぜか若手女子たちは、皆ホッとしたような顔になった。


 そして何故か……部屋に戻って飲み直すどころか、飲み物を持って観戦する体勢になっている。

 しかも、めっちゃ楽しそうな雰囲気になっている……なぜに?


 楽しそうなのはいいんだけど……そんなに集まられると……模擬戦みたいになっちゃうから嫌なんだけど……。


 そんな不安が的中し……バトル臭に敏感なバトルジャンキーな男たち……『ビャクライン公爵と愉快な脳筋たち』が集まってきた。

 脳筋たちとは、『セイリュウ騎士団』の男連中だ。

 なぜか国王陛下も入ってるし……。


 やばい……空手の技を何発か入れてもらうだけの予定だったのに……大事になってきている……。


 こうなったら、ある程度の時間やらなきゃいけないかも……。

 でも模擬戦っぽくなるのは、面倒くさいんだよね。

 技を受けるだけにしたいんだけど……。


 そうか! みんなにそう説明すればいいか!


「皆さん模擬戦をするわけではありません。エレナさんが持っている戦闘系のスキルを出してもらって、それを受けるだけです。私からは攻撃しませんので、見ても面白くないと思います」


 俺はそう言ってみんなに解散してもらおうと思ったのだが……みんな気にせずに普通に観戦しようとしている。


 どうしてよ?


 まぁしょうがない、やるしかない。


 どうせなら効率よくやろう。


 俺は、エレナ伯爵に『空手術』だけでなく、『拳法——光輝拳シャイニングフィスト』も繰り出してもらうように耳打ちした。

 そして、途中からいつも使っている二本の棍棒を出して『双棍術』の技も出してくれるように頼んだ。


 それはいいのだが……なぜか彼女は、また真っ赤になってガチガチに固まっている。

 あれ……俺何かしたかなぁ……?


 そして、始まるのを見守っていた女子たち、特に若手女子たちが微妙にざわついている……はて?


 『ビャクライン公爵と愉快な脳筋たち』は、めっちゃワクワクした顔してるし……。

 技を受けるだけだって言ったのに……理解してないのかなあ……ただの酔っ払いか!


「グ、グリムさん、あの……私……先日の模擬試合の後に、『武器破壊ウェポンブレイク』というスキルも取得したのですが……それも使いますか?」


 おお……エレナさんは、新たなスキルを取得していたらしい。

 確かにこの前の模擬試合の時、対戦相手の武器を狙って破壊していたけど……あれがきっかけでスキルが発現したのか……。


「ぜひお願いします。では始めましょう!」


 俺はエレナさんに返事をして、早速、技を受けることにした。


 ——ズバンッ


 ————ズズズズズズーー


 エレナさんがボディーに蹴りを入れてきたので、一応腕でガードしたのだが……俺はその体勢のまま大きく後方に下がった。

 地面を削りながらだ。


 攻撃がくるとわかっていたので、足を踏ん張っていたから蹴り倒されることはなかったが、足で地面を削りながら大きく下がってしまったのだ。


 そうなるぐらいの本気の蹴りだった。


 そして結構痛いんですけど……。


 もちろん『限界突破ステータス』だからダメージは無いけどさぁ……痛覚はあるから痛いんだよね。


 ていうか……普通の人だったら即死ですから!

 まぁ普通の人には、やらないだろうけどさ。


 俺は戻って、再度構える。


 ——ズバンッ、バンッ

 ——ボン、ボン、バンッ

 ——ズバンッ、スッ


 今度はエレナさんは、蹴りとパンチの連続攻撃を仕掛けてきた。


 もちろん俺はガードしながら全て受けたが……最後に金的に向けて蹴りが飛んできた。

 俺は敏感に反応し、スッと避けた……。


 事前に金的は狙われないでって、お願いしといたのに……。


 そして本人に悪びれた様子は、全くないし……。

 おそらく、いつもやってる連続攻撃の中に組み込まれているのだろう……。

 体が反応して、いつも通りに出してしまったということのようだ。

 本人の様子を見る限り、金的攻撃をしたという自覚はないみたいだし。


 次にエレナさんは、手刀を作り構えた。

 『拳法——光輝拳シャイニングフィスト』を出してくれるらしい。


「私のこぶしが光で燃える! 悪を倒せと轟き叫ぶ! 必殺! シャイニングフィストォォォォーーーー!」


 エレナさんがそう叫ぶと手刀が光り輝き、次の瞬間には両手の手刀が俺の胸の前にあった!


 俺は慌てて、両手を掴んで止めた。


 そしてエレナさんの光る腕が熱い……


 てか……俺が手を受け止めるのがもうちょっと遅かったら、ほんとに俺の体に手刀が突き刺さってたと思うんだけど……。

 どういうこと……?

 俺が受け止めるって、見越してたんだよね……?

 ……そうであることを祈りたい。


 そして見ていた皆さんからは、歓声が沸き上がった。


 エレナさんの手刀が光るというレアな拳法と、それを俺が掴んで受け止めたことで盛り上がっているようだ。


 確かに、『限界突破ステータス』の俺だから受け止められたけど、そうじゃなかったら厳しいよね

 俺も本当は躱せばよかったんだけど、スキルを体感して『交換リスト』に載せる為には、避けちゃダメだと思うんだよね。

 その為、止むを得ず掴んでしまったのだ。


 あくまで腕が光っているというだけで、燃えているわけではないんだけど、かなり熱いのだ。

 火傷しちゃいそうだ……てか多分火傷してるし……。

 重症じゃないから、自然回復力で治るだろうけどさぁ……。


 そしてエレナさんは、今度は愛用の短棍二本を取り出した。

 約束通り『双棍術』を使ってくれるようだ。

武器破壊ウェポンブレイク』スキルも使ってくれると思うので、俺は破壊されてもいい武器を使うことにした。


 そうは言うものの、何を使うか思いつかなかったので、とりあえずバロンくんに与えたのと同じ『魔竹のトンファー』を取り出した。


 このトンファーも持ち方によって、短棍みたいになるし同じ二本なので、技が受けやすいんじゃないだろうか。


 エレナさんの打ち込みが始まった。


 ——バンッ、バンッ、バンッ

 ——バンッ、バンッ、バンッ

 ——バンッ、バンッ、バンッ

 ——バンッ、バンッ、バンッ


 すごい技の切れで打ち込んでくる。

 それを受けるだけでも、白熱の攻防戦みたいになっている。


 攻撃を受けながら、ちらっと覗くと、案の定、『ビャクライン公爵と愉快な脳筋たち』は、目を輝かせて観戦している。

 そして酒が進んでいるようだ。


 この人たちにとっては、何よりの酒の肴かもしれない。


 エレナさんは時折『武器破壊ウェポンブレイク』スキルも混ぜ込んでくれているようで、武器に伝わる振動が大きい打ち込みが何回かある。


 おそらくスキルの力で、武器の弱い部分などを感知して当てているんじゃないだろうか。

 そう考えると、このスキルって……武器を破壊するスキルだけど……武器を作るときにも役立ちそうだ。

 武器の弱いところや、品質のばらつきみたいなものを感じ取れるかもしれないからね。


 今のところ『魔竹のトンファー』は、ほぼダメージを受けていない。


 俺が魔力を流してるから、めっちゃ強化されているのだ。

 武器に流す魔力の調整ぐらいは、問題なくできるようになっているのである。


 しばらくエレナさんの打ち込みを受けて、エレナさんと目があったタイミングでやめた。

 以心伝心だった。

 同じタイミングでやめたので、エレナさんはすごく嬉しそうな顔になっている。

 アスリート同士のアイコンタクトというやつだと思うが、やけに嬉しかったようだ。


 そして観戦していた人たちからは、大拍手が起こった。


 いろんな声をかけてくれている。


 女性陣の意見は……剣舞を見ているようで綺麗だったという嬉しい意見が多かった。


 俺はエレナさんの打ち込みを受けていただけなのだが、エレナさんの流れるような攻撃に合わせていたので、自然と二人で剣舞を舞っている感じになっていたようだ。


 男性陣というか……『ビャクライン公爵と愉快な脳筋たち』は……いい打ち込みだったとか、打ち込みのときの音が良かったとか、受け流しがきれいだったとか、通な感じの意見を楽しそうに述べている。

 そして更に酒が進んでいるようだ。




 

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