624.付喪神化の、不思議。

 『魔盾 千手盾』の精霊集合体ともいえる『付喪神 スピリット・シールド』となったフミナさんは、自分のステータスの確認が終わったようで、恥ずかしそうに俺に顔を向けた。


 俺も出会ったばかりで、しかも衝撃的なハードなシーンの後で、突然眷属という関係性になって……微妙に気まずい感じだ。


「よ、よろしくお願いします。あ、あなたの盾になります……。一生守ります! 幸せにします! って、違います、わあー、ま、間違えました、とにかく、よろしくお願いします!」


 フミナさんはそう言うと、自分の本体である盾の後ろに隠れてしまった。


 緊張していたのか、途中からプロポーズみたいな感じになっていて……俺もちょっとだけ焦ったが……。

 もしかしたら彼女は、もともとはちょっと天然なキャラなのかもしれない。


 それはいいのだが……盾の後ろに隠れた彼女が消えてしまっている。


 盾の中に戻ってしまったらしい……。


『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナも、『マグネの街』にある本体である家やその付属物と見なされている『家馬車』の中に入り込むというか、戻ることができる。フミナさんも同じように、盾の中に戻れるらしい。


 少し気になったので、『魔盾 千手盾』を『波動鑑定』してみた。


 ところが……各種の表示やステータスに変化はなかった。


 付喪神化してたのに、変化がないのは不思議だが、思い返してみるとナーナの本体である家やその付属物扱いの『家馬車』も、変化はなかった。


 何か特別な理由があるのだろうか……。


 過去の歴史の中では、色々な物が付喪神化していて物語として語り継がれているらしい。

 魂を宿し、言葉を話すようになる道具の面白い話が結構あるようだ。

 前に、本の虫であるニアが、ちらっとそんなことを言っていた。


 もっとも、付喪神化すること自体がかなり珍しいことで、普通ではお目にかかることができないらしい。

 しかも通常は、その物のまま魂を持つので、ナーナやフミナさんのように人間型の実体を持つことは極めて珍しいようだ。


 これは、それぞれの物が付喪神化するときに、精霊たちによって特殊な影響を与えられたからだろう。

 彼女たちの残留思念が一緒になって凝縮され、しかも主人格を与えられたから特別な顕現体となって現れることができていると考えられる。


 やはり精霊たちの力添えが大きいのではないだろうか。


 あと、この二人の特別な付喪神化の要素として考えられるのは、二人の想いがかなり強かったということだろう。

 残留思念は、色々な物に無数についているはずだが、通常の付喪神化はそれには影響されないらしい。

 それらを全て巻き込んで融合するようだが、その物に付いている元々の精霊が主体となって、魂となり、人格を構成すると考えられているようだ。

 これもニアが本で得た知識だ。


 実はニアは、付喪神の話が好きらしい。


 残留思念の強い想いが、精霊たちの後押しを受けて、主体となって付喪神がするというのが特別な付喪神化なのではないだろうか。


 ナーナの場合は、親友のサーヤとともに、また旅に出たい。一緒にいたいという強い想いがあった。

 フミナさんの場合は、悪意を暴走させて『正義の爪痕』の首領となっていたニト君を救いたいという強い想いがあったと考えられる。


 特別な付喪神化を二回も経験できるのは、精霊たちのお陰としか言いようがない。

 俺は心の中で、二人を助けてくれた精霊たちに深い感謝を捧げた。


 よく考えると……特別な付喪神化は二回も経験しているが、通常の付喪神化は経験してない。

 付喪神化した道具や武具にも出会ったことがない。

 できれば会ってみたいものだ。


 ニアによれば、付喪神化した道具の面白い話が結構あるらしい。

 何代にもわたって、一族で長く使われていたクワが付喪神化して、話をするようになり、説教したり、勝手に畑を耕したりする笑える話が多いようだ。

 そんなクワがあったら、超便利だよね。

 魔法で土作をすることには比べられないだろうけど、普通の作業に比べたら夢のような話だ。


 ふと思ったが……そういう昔話に出てくる付喪神化した道具たちは、今どこにいるんだろうか。

 付喪神化したら、多分寿命がないと思うから、どこかにいるんじゃないかと思うが……。

 ただ、本体が完全に破壊されると、付喪神が消滅することがあるようだから、消滅してしまっている付喪神もいるかもしれないけどね。


 もしかしたら……あまり身近に付喪神がいないのは、さっきのステータスが表示されないことと関係があるかもしれない。

 もっとも、あれは特別な付喪神化をしているナーナとフミナさんだけに起きている現象かもしれないけどね。


 道具がそのまま話をする通常の付喪神化の場合は、付喪神としてのステータスが普通に表示されている可能性はある。

 それについては、今の時点ではわからないけど。

 ちょっと気になったので、ニアに尋ねてみたら……「ステータスが表示される場合とされない場合があったような気がする……なんかそれが付喪神化の謎の一つだとか書いてたような気がするけど。あんまり気にしてなかったから、わからない」とのことだった。


 まぁいずれにしろ、今後どこかで出会うことを祈ろう。

 話す道具って楽しそうだし。


 そういえば……なんとなく思い出したが……俺の『波動』スキルのコマンドの中に、付喪神化を促進できるコマンドがあったような気がしないでもない……。

 まぁ今はいいか、これ以上の脱線はやめておこう。

 いつでも確認できるし、今度ゆっくり確認してみよう。

 そう言って忘れるパターンが……いつものパターンだったりするが……。



 それから……『魔盾 千手盾』が付喪神化したことによって、ステータスには現れない重要な変化が一つあった。


 それは、今までのように『波動収納』や『アイテムボックス』、『魔法カバン』などに収納できなくなったということだ。

 魂のあるものは収納できないから、もう持ち歩くしかないのだ。

 でかい盾だし、朱色に金の縁取りだしかなり目立つんだよね。

 常に持ち歩くのは、結構ハードルが高い。


 でもよく考えたら、フミナさんが常に顕現体となって実体化して、本体である盾を自分で持って移動すればいいんじゃないだろうか。


 リリイとチャッピーが最近はあまりやってないが、前はよく丸盾を背中に背負って、可愛いカメさんのように歩いていた。

 あんな感じで、背中に大盾を背負って歩けばいいんじゃないだろうか。

 ウミガメみたいな感じにはなるけどね……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る