602.黒から白へ、ひっくり返す!
「皆さん、『吸血鬼』が『吸血魔物』に変性しました! 吸血魔物は、灰も残さないほど焼き尽くさないと再生してしまいます! 後で私が焼き尽くすので、切り刻んでおいてください!」
我ながら無茶苦茶なことを言っているのはわかっているが、俺は戦ってくれている『セイリュウ騎士団』や『
ユーフェミア公爵もマリナ騎士団長もビャクライン公爵も、微妙な苦笑いをしつつ首肯してくれた。
「大丈夫なのです! 燃やし尽くすのは、ミネたちにお任せなのです! ギリギリ間に合ったのです! 試作品が四つだけあるのです! 『燃やし隊』集合なのです!」
場違いな感じの明るい声が響いた。
『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんが、大きな声を出したのだ。
そして魔法ポケットから、ランドセルのようなものを四つ出した。
あれは……どうやら依頼していた『吸血魔物』を燃やし尽くす『火炎放射器』が完成したようだ!
纏わりついて燃やし尽くす炎の再現にかなり苦労していたが、ギリギリ試作品ができていたようだ。
火の属性の魔法石『魔火石』と風の属性の魔法石『魔風石』を使って、火と風を同時に射出する魔法道具を作って、そこに特別な油を同時に噴射する構造にしたようだ。
調整が難航していたが、うまくいったらしい。
特別な油というのは、『イビル・ファイアーフロッグ』という火を吐く珍しいカエルの魔物の油を使ったのだ。
人族の天才ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんが、古い資料で見つけて、使えるかもしれないと提案してくれたのだ。
それを俺たちで探したのだ。
実は、結構探すのに苦労したのだが、なんとか見つけて油を抽出することができたのだ。
火炎放射器は……『名称』が……『魔法の火炎放射器 焼却くん』となっている。
ミネちゃんの命名らしい。
すごい武器というテンションが全く伝わってこない名前だが……まぁ名付けのセンスについては、人にとやかく言えないのでやめておこう。
『階級』は『
かなり調整に苦労したし、発想も斬新だと思うので、なんとなく……『
まぁ、いつもこの『階級』システムはよくわからないから、深く考えるのはやめよう。
ミネちゃんの周りに、ドロシーちゃんと、なぜかピグシード辺境伯家の姉妹ソフィアちゃんとタリアちゃんが集まってきた。
もしかして『燃やし隊』とは……彼女たちのことか……。
四人は、ミネちゃんの魔法ポケットから追加で出した銀色のローブのようなものを着込んだ。
どうも耐熱仕様のローブらしい。
次に、ランドセルのようなものを背負った。
そして接続されている火炎放射器を手にした。
戦闘準備完了といった感じで、四人が何故か決めポーズみたいなのを取っている。
まぁ、可愛いからいいけどさ。
「アンナ辺境伯とクリスティアさんとエマさん、それにユミルさんは、ミネちゃんたち四人の護衛をしてください! 他の戦えるメンバーは、できるだけ切り刻んでください。その肉片をミネちゃんたちが焼き払います!」
俺は、ソフィアちゃんたちの母親であるアンナ辺境伯と、第一王女のクリスティアさんとその護衛官のエマさん、『セイリュウ騎士団』格付け第七位の弓士ユミルさんに、護衛を頼んだ。
このメンバーの護衛なら、ミネちゃんたちに任せても大丈夫だろう。
そして俺は、すぐに戻ると伝えて、リリイとチャッピーを両脇に抱えて『ハイジャンプベルト』を起動し飛び立った。
リリイを『西ブロック』、チャッピーを『南ブロック』に送る為だ。
俺が『ハイジャンプベルト』を起動して、すごい勢いで空に舞い上がったのを見て、人々が驚いていたが……。
また微妙にチートなことをしてしまった気もするが……今考えるのはやめておこう。
俺は、あっという間にリリイとチャッピーを送り届けて、すぐにこの『コロシアムブロック』に戻ってきた。
ちょうどその時、ヘルシング伯爵領執政官で俺の眷属『聖血鬼』でもあるキャロラインさんが、『聖血生物』たちを連れて戻ってきた。
もちろん転移でだ。
『
そしてキャロラインさんの指示で、すぐに『
『
これに、『
最後にキャロラインさんが、俺の血を飲ませて『聖血生物』に変性させている。
流れ作業のようなかたちで、瞬く間に変性させていっている。
そして……この『コロシアムブロック』の全ての『吸血生物』を『聖血生物』に変えてしまった。
キャロラインさんは休む間もなく、新たに味方にした六十体を加えた八十体で、次のブロックへと飛び立っていった。
ここにいた人たちも、最初に白い巨大な蝙蝠と白い巨大な蚊が現れたときは驚いていたが、蝙蝠に乗っているキャロラインさんを見て味方と分かったらしく、大きな混乱は起きなかった。
キャロラインさんが今のペースで吸血生物たちを変性させてくれたら、残り四ブロックを回って戻ってくるときには、大部隊になっているかもしれない。
なんか逆に……いい戦力補強になっている感じだ。
オセロゲームで、黒をまとめて白にひっくり返している気分だ。
結構、嬉しい!
まぁ喜んでる場合じゃないけどね。戦いの最中だし。
でもこの『吸血生物』は、『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』の『種族固有スキル』でしか作れないから、俺が増やそうと思っても無理だったんだよね。
なんか凄くラッキーな気分だ。
そんなことを考えつつも、俺もみんなと一緒に吸血魔物を切り刻んでいる。
本当は『魔力刀
これ以上、チートな姿を見られたくないというのもあるし……。
なんとなく……手遅れなような気がしないでもないが……。
『吸血魔物』は、『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』が基になっているので、かなり手強いはずだ。
だが、『セイリュウ騎士団』、『
改めて感じたのは、この人たちはやっぱり強いということだ。
さすがという感じだ。
だがここでも、俺はちょっとやりすぎたみたいだ。
斬れ味抜群の『魔剣 ネイリング』で、瞬く間に三体の『吸血魔物』を細切れにしていたので、近くで戦っていたビャクライン公爵とマリナ騎士団長に、二度見されてしまったのだ。
あとで何か言われたら……妖精族から借りた剣が凄すぎるということにしておこう。
実際は妖精族から借りてるわけじゃないけどね。
ただ、この『魔剣 ネイリング』の性能がすごいというのは本当だし。
ミネちゃんたちが開発してくれた火炎放射器の『焼却くん』の威力は絶大だった!
高火力で、肉片を燃やし尽くしてしまった。
予定通りの性能とは言え、本当に素晴らしい!
「『燃やし隊』は、いつでも燃やしたいのです! 焼却処分は任せなのです! 食べるお肉さんは、燃やし過ぎちゃダメだけど、食べないお肉さんは燃やし尽くしちゃうのです! 食べられないお肉さんは、決してミネと同じ土俵には立てないのです。ご愁傷様なのです」
「やっぱり、この魔法道具は素晴らしい出来ですわ! なんて素晴らしいものを作ってしまったのかしら。でもこの火炎を放射するというアイデアは、グリムさんが出したのよね……。やっぱりグリムさんの研究をすべきね! 一生の研究対象だし!」
「これはすごいです。こんなに良く燃えるなんて。炎って綺麗……。そして燃やし尽くすのって気持ちいい」
「私も、また燃やしたい。『火魔法』が使えるようになりたい!」
シリアスな戦闘なのに……なぜかこの四人……全然緊迫感がないんですけど……。
ミネちゃんは相変わらず面白いこと言ってるし、ドロシーちゃんは最近ちょっとおかしくなってきてるんだよね……少し心配だ。
そしてソフィアちゃんとタリアちゃんも……ちょっと微妙な発言な気がするが……。
変なものが目覚めないことを祈りたい。
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