490.操魚の矢と、魚使い。

『ヴァンパイア』たちは百体以上いたが、俺たちは瞬く間に制圧した。

 だが肝心の『正義の爪痕』の構成員らしき『ヴァンパイア』が見当たらない。


 そんな時だ……『飛竜船』の近くで待機していた飛竜のフジから念話が入った。


(ご主人様、海から魔物が攻めてきました。海岸には『正義の爪痕』の構成員と思われる者が現れています。笛を吹いて、海の魔物を操っているようです。魚の魔物が陸に上がってきています)


 なんと……ここを襲った『正義の爪痕』の構成員たちは、すでに外に出ていたようだ。

 俺たちが来たのを察知して、魔物を呼んだのか……。


 おそらく……蛇魔物の時と同じだろう。

『操魚の矢』を射って、『操魚の笛』で操っているに違いない。


「みんな、外だ! 海から魔物が押し寄せているみたいだ。急ごう!」


 俺はみんなに声をかけてすぐに外に出て、入江に向かった。


 そして唖然とした……


 あれは……カジキの魔物なのか……鼻先が剣のように尖った五メートル以上の大きさの魔物が、砂浜をうねりながら進んでいる。

  八体いるようだ。


 魔物になっているだけあって、陸でも動けるのか……

 さすがに空は飛べないようだが、うねりながら進んだり、飛び跳ねながら進んでいる。


 カジキ魔物はレベル20程度なので、今の俺たちには敵にならない。

 倒してしまうのは簡単だが……俺の予想通り『魚使い』ジョージの血で作った『操魚の矢』を打ち込まれているなら、『操魚の笛』を吹きながら念じれば仲間にできるはずだ。

 蛇魔物を仲間にした時と同じやり方が通じるはずだ。


 そして俺は、『正義の爪痕』から没収した『操魚の笛』を持っている。


 すぐに実行しようかとも思ったが…… 一つ思いついたことがある。


 ジョージの血で作った『操魚の矢』が打ち込まれているのなら……ジョージが『操魚の笛』を吹いても仲間にできるかもしれない。


 もしくは……ジョージが『魚使い』スキルを発動すれば、仲間にできるかもしれない。

 通常、魔物は『テイム』して仲間にすることはできないが、ジョージの血が入っている状態の今なら、『魚使い』スキルで仲間にできる可能性があると思うんだよね。


 これは試してみるべきだろう!


 俺は簡単にジョージに説明し、『魚使い』スキルで仲間になるように命じてもらうことにした。


 ジョージは、意識して『魚使い』スキルを使ったことがないらしく、使い方がわからないと戸惑っていたが、“全力の気合で「仲間になれ」と念じてみろ”という……我ながら無茶苦茶なアドバイスをしてしまった。

 そして駄目だった時は、『操魚の笛』を吹きながら念じるようにとも言っておいた。


 それでも駄目な時は、俺が『操魚の笛』を吹きながら念じれば、蛇魔物の時と同じように仲間にできるだろう。


 万が一できなかったときは、倒して……美味しい寿司ネタになってもらうけどね。


 ジョージは向かってくる一体に対して、立ちふさがり睨みつけた。


「な、仲間になれれれれーー!」


 ジョージは念じるのではなく、全力の気合で叫んでいた!


 だが……逆にそれが良かったのかもしれない。


 ジョージの体から……目に見えないエネルギーのようなものが発したように感じた。


 そして、カジキ魔物は、一瞬、目を光らせ動きを止めた。


 その後……ガタガタ震えだし、もう一度、目を光らせた。


 今は、同じようにガタガタ震えている。


「ジョージ、もう一回だ!」


 俺は、ジョージに向かって叫んだ。

 確実に効果を表しているので、もう一度やればいけるはずだ!


「仲間になれれれれーー!」


 ジョージが、全力の気合で再度叫ぶ!


 すると……カジキ魔物の目が三度光り、次に体全体が一瞬発光した!


 そして……動かなくなって、倒れてしまった。


 だが、死んではいない……この感じは、俺が蛇魔物を仲間にした時と同じ状態だ。


 多分うまくいったはずだ。


 『波動鑑定』してみると……


 やはり上手くいったようだ。


『種族』が『イビル・ソードフィッシュ』から『マナ・ソードフィッシュ』に変わっている。

 以前、蛇魔物を仲間にした時と同様に、『浄魔』状態に変わったようだ。


『種族』が変わり、一時的に気を失ったのだろう。


 俺は残りの七体も仲間にできるように、みんなに殺さないで無力化するように伝えた。


 そして、ジョージに気合の『魚使い』スキルを発動してもらった。



 こうして見事に新たな戦力として、『マナ・ソードフィッシュ』八体を手に入れることができた。

 この『マナ・ソードフィッシュ』たちは、ジョージの『魚使い』スキルによって仲間になっているので、俺の『使役生物テイムド』にはなっていなかった。

 そこで『心の仲間チーム』メンバーとして登録してあげて、『共有スキル』が使えるようにしてあげた。



 ホッとしたのもつかの間、今度は大型船の方から『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』が、群れを成して飛んできた。


 ヘルシング伯爵領を襲った『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』は、人間くらいのサイズの巨大蝙蝠だったが、今回のものはもう一回り大きいようだ。

 二メートルを超えている感じだ……当然翼を広げるともっと大きい。

吸血ヴァンパイアモスキート』も以前見たのはカラス程度のサイズだったが、ここに現れたのは、その二倍くらいの大きさがある。

 そしてレベルも、ヘルシング伯爵領に大量に現れたものは35程度だったが、ここに表れているのはレベル40だ。


 それぞれ、十体づついるようだ。


 戦力として、船に積んできたのだろうか……。


 だが今更こいつらを出したところで、俺たちの敵ではない。

 瞬殺で殲滅してしまおう。


「グリムさん、私に考えがあるのですが……」


 倒すために動き出そうとしていた俺たちを、制止するようにキャロラインさんが突然話し出した。


 キャロラインさんからの話は、『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』を殺さずに無力化してほしいというものだった。


 そして、この吸血生物たちに俺の血を飲ませてみたいという提案だった。

『吸血鬼』が俺の血を飲んで『聖血鬼』になったように、吸血生物も変性するのではないかというのだ。


 確かに……言われてみれば、それもあり得る話だ……。

 いい着眼点かもしれない……俺は全く思いつかなかったが……。


 そんな話を聞いていたエレナさんやニアたちも、面白いのでやってみようと賛同した。

 てか……戦いの最中に、面白いも何もないと思うんだが……。

 この人たち……余裕こきすぎだと思うんだけど……。

 まぁいいけどね。


 俺たちは、一斉に動き、殺さないように制圧した。


 ちなみにこの吸血生物たちは、『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』の『種族固有スキル』の『吸血眷属強化』により、無理矢理強化され巨大化されているのだ。

 魔物ではないが、魔物に近い状態になっているのである。

 そしておそらく『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』のもう一つの『種族固有スキル』の『吸血眷属支配』により、吸血鬼の指示に従うように命じられているのだろう。


 冷静に考えてみると……魔物に近いとは言いつつも魔物そのものではないので、『吸血眷属支配』の効果を解除すれば、もしかしたら『テイム』もできるかもしれない。


 だが今は、俺の血を使った実験が優先だ。


 俺は、一体の『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』の口を開けて、俺の血を飲ませてみた。

 ちなみに俺の血は、事前に採血してあるものを『波動収納』にストックしてあるのだ。


 すると……激しく苦しみだした……。

 体をびくつかせている。

 なんとなく……このまま死んでしまいそうな雰囲気がしたのだが……大丈夫な感じになった。

 赤黒い靄が全身から吹き出し、黒い繭に包まれたのだ。

 これは、『吸血鬼』の人たちが『聖血鬼』に変性するときに起こる現象と同じものだ。

 そして繭もすぐに弾けた!


 そして現れたのは……



 

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