437.技術力の、秘密。

 第一王女で審問官のクリスティアさんによる尋問結果の報告は、引き続き行われている。


『正義の爪痕』の活動資金については、やはりヘルシング伯爵領の運営資金や伯爵家の資産、その他貴族たちの資産を『暗示』で提供させていたらしい。

 他にも捕まえた人たちを奴隷として販売したり、犯罪行為などで資金を得ていたようだ。


 そして、どうもメインのアジトの中に、資金の隠し場所があるらしい。

 だが、『ヴァンパイアハンター』で領主妹のエレナさんが倒した『血の博士』のみが管理していたらしく、『謎の博士』からは聞き出すことができなかったとのことだ。

 もしそれを見つけることができれば、失われたヘルシング伯爵領の運営資金や伯爵家の資産が少しでも回収できるので、俺も見つけるのに協力しようと思っている。

『財宝発掘』スキルの威力で、発見できないか頑張ってみようと思う。


 組織の異常な技術力については、『血の博士』が主導していて、『道具の博士』『薬の博士』『武器の博士』に提供していたらしい。

 その大元は『マシマグナ第四帝国』の遺物によるものらしい。


 それらの技術と『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』である『血の博士』たちの血を操る特殊能力を活かし、『死人薬』を完成させたようだ。

『死人薬』の完成に、なぜ若い女性の血が必要なのかについては、『謎の博士』も消滅した『血の博士』『魔導の博士』も明確には分かっていないらしい。

 実験結果として、一番親和性が高かったからではないかと考えていたようだ。

 また少しふざけた感じで、若い女性の血が美味しいからではないかとも証言したらしい。


 『死人薬』の元となる魔物の血と生命エネルギーを抽出、凝縮、固定化した『魔物錬成物』については、『血の博士』や『謎の博士』たちが作っていたわけではなく、首領の下から送られてきていたとのことだ。

『マシマグナ第四帝国』の技術を使って作られているのではないかと博士たちは考えていたようだ。


『魔物錬成物』に人間の若い女性の血を混ぜて、更に圧縮して固定化し『死人薬』として完成させる技術は、『血の博士』たち『ヴァンパイアロード』の能力を応用させたものらしい。

 ただ実際の製造工程を担当していたのは、『薬の博士』だったようだ。


 『正義の爪痕』の首領の存在は、謎に包まれていて、大幹部というか……事実上の活動のリーダーだった『血の博士』『魔導の博士』『謎の博士』たちですら、正体はわかっていなかったらしい。

 首領とおぼしき覆面の男には何度か会ったことがあるが、大体は使いの者とのやりとりが多かったようだ。


 そして首領は、セイバーン公爵領内のどこかにある誰にも知られていない迷宮の中にいるらしい。

 大幹部であるはずの『謎の博士』も、そこまでの情報しか持っていなかったそうだ。

『謎の博士』の予想としては、ダンジョンマスターであるため表立って活動できないのではないかと考えていたようだ。 

 連絡を取る必要性があるときは、なぜか首領の方が使いを送ってきたらしい。

 おそらく何かの装置で監視をしているのではないかと、博士たちは考えていたそうだ。



 『洗脳』と『人格書き換え』に使っていた『洗脳薬』と呼ばれている薬は、『血の博士』が作ったものではなく『マシマグナ第四帝国』の遺物だったようだ。

 それ故に、数に限りがあって、試験的に『死霊使い』だったジョニーさんに使って成功したので、ヘルシング伯爵にも使ったらしい。

 残りは数人分ぐらいしかないようだが、『血の博士』が管理していたので、保管場所はおそらく隠し資金と同じ場所ではないかとのことだ。


『認識阻害薬』については、前に得た情報の通り『血の博士』が作っていたようだ。

 だが完全にオリジナル技術と言うわけではなく、首領と思われる人物から提供された『マシマグナ第四帝国』の遺物である魔法道具を使っていたらしい。

 その装置を使って、モデルとなる人間の血液と生命エネルギーを吸収し凝縮して、トローチ状の薬にしたようだ。

 それによって、通常の情報に特定の偽装情報を纏わせて表示させることができるのだそうだ。


 だが途中でその魔法道具が壊れてしまい、新規生産ができなくなってしまったとのことだ。

 以前に押収した白色、水色、茶色、黄色、オレンジ色の五色以外の『認識阻害薬』は、作れていないらしい。

 それ故、五種類の人間の偽装情報しかパターンがないようだ。

 ただその五種類については、ある程度の数を作っていたようで、通常の活動で使用する分には十分だったらしく、特に困ってはいなかったとのことだ。



 死んだ『道具の博士』が作っていた『操蛇の矢』の製造技術も、やはり『血の博士』たちからもたらされたものだったようだ。

 これは『血の博士』たちのオリジナル技術らしい。

『蛇使い』の少女ギュリちゃんから奪った血を凝縮させたものを矢尻に使って、蛇系の魔物に打ち込む。

 すると、『操蛇の笛』が放つ特殊な旋律で、影響を与えることができるという仕組みのようだ。

 ただ細かな指示を出すことは出来ず、ある程度の誘導という効果しかなかったそうだ。


 ギュリちゃんと同じように、囚われていた『魚使い』のジョージ君も血を採取されていた。

 その血を使って『操魚の矢』が作られていたようだ。

 それに伴って、魚に音波や振動で影響を与える『操魚の笛』も作られていたらしい。

 これを実際に製造していたのは『血の博士』だったらしく、生き残った『謎の博士』には、実際に魚系の魔物に効果があったのかはわからないようだ。

 この『操魚の矢』と『操魚の笛』も発見されていないので、おそらく『血の博士』の隠し資金と同じ場所に隠してあるのだろう。


 ただ普通に考えると、魚系の魔物は基本的には水の中にいるし、地上で暴れさせることは難しいはずだ。

 それに『操魚の笛』が水中まで届くのかは微妙だと思う。

 もしかしたら……作ってはみたものの実用性がなくて、活用していなかったのかもしれない。


 メインのアジトには、『道具の博士』のアジトにあったような『操魚の矢』を作るための装置はなかった。

 やっはりどこかに隠し部屋があって、製造装置が置いてあるのかもしれない。

 それとも、どこか別の場所にまだ発見していないアジトがあるのかもしれない。

『血の博士』しか知らない秘密の場所なら、『謎の博士』に『強制尋問』スキルを使っても情報は引き出せないからね。


 いろいろ考えると……やはりモヤモヤする。

 スッキリさせるには、『血の博士』の隠し部屋を見つけるしかないようだ……。


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