397.ナビーさん、大活躍。

 風呂から上がってきた子供たちには、きれいなタオルと新しい洋服をプレゼントした。

 ちなみに洋服はリリイとチャッピーの着替えように、『領都ピグシード』で大量調達していたものだ。


「スカイさん、これからはここを自由に使ってください。皆さんもいつでも来てください。なんなら住んでもらってもかまいません」


 俺はスカイさんと『チーム義賊』の皆さんに、改めてそう声をかけた。


「グリムさん、本当にありがとうございます。ここで、子供たちをしっかり守ります」


 スカイさんは目をうるうるさせながら、俺の手を握った。


 そんなうるうるした瞳で見つめられると……と思っていたら、やはり発動されてしまった……。

 ニアさんの『頭ポカポカ』攻撃が、俺の頭上に炸裂していた……トホホ。


 それから俺は、『チーム義賊』の皆さんに、スライムやこの屋敷の近辺にいる動物たちについて説明した。

 妖精女神の御業で友達になって、ここを守ってくれるから安心してほしいと説明したのだ。


 入り口の門の左右に座っていた子犬サイズのトノサマガエルを見て、ギルド受付嬢のジェマさんが気絶しそうになっていたが、友達になったと聞いてさらに驚いていた。

 なんとなく……顔に斜線が入っているような感じになっていたが……大丈夫だろうか……。


 ヤギとロバについては驚いていなかったが……鵜が毎日魚を届けにくるという話をしたときには、元漁師のマックさんと現漁師のレオさんの目が点になっていた……。


 二人は一瞬固まった後に、顔を見合わせて大笑いしていた。

 全く信じてくれなかったので、試しに鵜たちに魚を獲ってきてもらった。

 ここは港に近い場所なので、すぐなのだ!


 鵜が獲ってきた魚を口から出したときには…… 二人とも口をあんぐりさせ、再び固まっていた。

 特にレオさんは、「俺が魚を獲る意味って……、鳥に負けてるって……」と 一人でぶつぶつ言っていた……大丈夫だろうか……。


 ちなみに、この鵜たちは俺の仲間になったことによって『共有スキル』で『アイテムボックス』が使えるので、それで運ぶこともできる。

 だが、普通の鵜が『アイテムボックス』から魚を取り出したら、そっちの方がやばいので、いつも通り口から出してもらうことにしたのだ。


 俺は、鵜の件で衝撃を受けているマックさんとレオさんを放置しつつ、『アシアラ商会』のアシアさんに鶏が購入できるところがないか相談した。

 子供たちに栄養つけさせるために、ここで鶏を飼って卵を獲るようにしたいのだ。

 アシアさんは、二つ返事で鶏の調達を引き受けてくれた。


 あと、せっかくなのでこの屋敷でもトマトを育てたい。

 さっき食べたいろんなトマトの苗を譲ってくれるところがないかも、アシアさんに当たってもらうことにした。

 難しいようなら、実に入っている種を使えばいいんだけどね。

 トマトは完熟しているから、そこから種を取ることができるのだ。





  ◇




 少しみんなでゆっくりした後、俺たちは屋敷から南に移動して、下級エリアにある倉庫に向かった。


 これから炊き出しをやってもらう場所を、『チーム義賊』の皆さんに知ってもらうためだ。


 ただここは、チンピラ連中が不法占拠して溜まり場にしているので、追い出さなければならない。

 本来はその後の方がいいのだが、せっかく集まっているので場所だけでも知ってもらおうと思ったのだ。


 チンピラたちは、後で俺がどうにかしようと思っている。


 だがその倉庫に着くと……


 不法占拠しているはずのチンピラたちが…… いなくなっていた。


 かわりにそこにいたのは、なんと『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーだった!


 ナビーは、この街の浮浪児たちを集めるという任務についてくれていたのだ。

 ナビーの後ろには、子供たちが四、五十人いる感じだ。

 そして一部の子たちは、リヤカーのようなものに乗っている。

 竹でできている……この前、手に入れた『魔竹』で作ったのだろうか……。

 リヤカーは四台もある。

 そして何故か……そのリヤカーをチンピラが引いている……。


 そしてナビーの近くには、他にもチンピラが十二人いる。


 これは一体どういうことなんだろう……?


「マスター、ちょうどよかったです。この街の浮浪児と思われる子供たちは、おそらく全て保護したと思います。全部で四十八人です。それから途中で絡んできたならず者は、全て捕らえておきました。この『竹棒』で二、三発入れたら、みんな素直になりました。犯罪歴や人間性で注意すべきと判断した者は、捕縛して一旦ここに入れてあります。五十二人です」


 ナビーはそう言って、俺にトランクを見せた。


 そのトランクは……この前『プランター迷宮』で手に入れた魔法道具じゃないか……。

 トランク型の魔法道具『箱庭ファーム』だ。

究極級アルティメット』階級の逸品なのだ。

 亜空間にある一時的な居住空間に、生物を移せる魔法道具だが……なるほど……そういう使い方もあるのか……。


 確かにこの街の状態じゃ、衛兵に突き出すこともできないし、捕まえた者たちを連れて歩くのも大変だからね。

 この魔法のトランクを通して繋がっている亜空間に入れておけば、簡単に持ち運べるということか……。

 ナビー凄すぎるわ……。

 そして、この半日の間に全域の子供を保護してきただけじゃなく、もれなくチンピラも捕まえてしまうとは……。


「ナビー、じゃあこの者たちは?」


 この拘束していないチンピラたちはなんなのか……尋ねてみた。


「はい。ステータスと尋問で犯罪歴や人間性を確認し、容易に更生可能と思われたものは、子供たちの面倒を見る要員として教育いたしました。この『竹棒』の威力で、みんな素直に働く気持ちになっています」


 ナビーは、少しドヤ顔でそう言った……。

 ……なにそれ!?

 更生の見込みのあるチンピラを矯正したってこと?


 まぁ犯罪歴が酷い人間は、『称号』にそれっぽいのがつく場合もあるし、尋問で「人を殺したことがあるか」などいくつか尋ねれば、『共有スキル』の『虚偽看破』で見破ることができるからね。

 それで危険な人間は排除したわけね。

 短期に更生可能と思われるチンピラを残したわけか……


 ただ……彼らのナビーを見る目は……少しの恐れと……愛情というか……愛犬が飼い主を見るような嬉しい、かまってほしいという感じの眼差しだ。

 まるでナビーが……チンピラをテイムしたみたいな感じだ……。


 と思って俺はハッとした……まさか……本当にテイムしてないよね……?

 人間をテイムすることは、できないはずだけど……。


 念のため『絆』リストの中の『使役生物テイムド』リストを確認したが……よかった。

 俺の『使役生物テイムド』にはなっていなかった。

使役生物テイムド』の中にチンピラが入ってるなんて、絶対に嫌だからね!


 俺のそんな心の叫びも……ナビーさんには筒抜けだから……


「なるほど! そこは私でも考えが及びませんでした……。マスターが全力の気合を込めてテイムすれば、チンピラもテイムできるかもしれませんね……。今度私が代わりに試してみてもいいですが……」


 ナビーが真顔でそんなことを言っている……。

 頼むからやめてほしい……ナビーさん……それ暴走だから……。


 そんなことができたら、強制的に奴隷にするのと一緒だからね……。

 でもよく考えたら……契約魔法で『奴隷契約』というスキルがあるんだから、理論上はそういうことも可能かもしれない……。

 まぁ、テイムとは系統の違うスキルだから、人をテイムすることはできないだろうけどね。

 もしそんなことができたら、テイマーがすごい特別な存在になっちゃうからね。

 俺が全力の気合でやればとナビーが言っていたのは、限界突破している俺なら可能性があるかもしれないということなんだろう。

 絶対に試すつもりはないが……。


「ナビーのあねさん、一応片付け終わりました」

「次は何をいたしましょう?」


 チンピラたちが、ナビーに褒めてほしそうに寄ってきた。


「周りに生えている雑草を取りましょう」


 ナビーが無感情に、澄まし顔でそう言うと……


「「「はい! あねさん!」」」


 ナビーに除草を指示されたチンピラたちが、一斉に喜びの表情になった。


 なにそれ……!?

 もう……全然ついていけないんですけど……。

 なんか……ナビー組みたいになってるんですけど……一家の女親分か!


 そして、俺とナビーのやりとりを聞いていた『チーム義賊』の皆さんは……


 全員固まっている……。

 まぁそうなるよね普通……。


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