365.秘密基地と、秘密の地下街。
アジトの中には、大きな倉庫となっている空間があった。
中には大量の食料と、構成員が使う武具が数多くストックされていた。
ただ訓練用のアジトということもあって、『階級』が『
剣、槍、斧、鉈、弓、クロスボウ、盾、丸盾、など一通り揃えてあった。
お約束の『連射式吹き矢』『連射式のクロスボウ』も置いてあり、各二十個もあった。
幹部以外にも使わせる予定だったのだろうか……。
そして、なぜかここには『死人薬』や『認識阻害薬』は置いていないかった。
魔法カバンは、『中級』が一つと、『下級』が三つあった。
おそらく食料の運搬用なのだろう。
カバンには、なにも収納されていなかった。
どうも……あまり重要なアジトではないらしい。
『薬の博士』から没収した転移の魔法道具に、緊急避難先として登録されていたわけだが、一時的な避難場所という程度のアジトなのだろう。
考えてみれば、縦割りにして情報漏れを防いでいる組織の用意周到さから考えれば、緊急時の避難先にアジトの本部とかは、絶対に登録しないよね。
家畜も飼育されていた。
牛が四十六頭、鶏が九十七羽、馬車馬が五頭いて、状態はいいようだ。
『暗示』が解けた構成員百五十三人を保護する場所で、引き続き飼育しようと思っている。
『適応体』状態にされ捕虜になっていた百三人についても、しばらくは同じ場所で保護するしかないだろう。
元々の構成員であり『暗示』状態ではなかった構成員たち『下級吸血鬼 ヴァンパイア』の三十五体と、途中で現れた幹部構成員と思われる『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』三体は、『ドワーフ銀』の武器を胸に刺され活動停止状態になっている。
ある種の封印状態と思われるが、試しに『波動収納』に回収してみようとしたところ、やはり回収することはできなかった。
活動停止しているだけで、魂が残っているようだ。
魂があるものは、収納できないからね。
さて……このヴァンパイアたちは、どうしたものか……
『魔力刀
それが一番確実ではある。
このままでは、万が一誰かが胸に刺さった『ドワーフ銀』の武器を抜いてしまったら、活動を再開し逃げられてしまうし、大きな脅威になるからね。
なによりも一番怖いのは、『死人薬』を飲まれて『吸血魔物』になられることだ。
その禍根を断つには、今燃やしてしまうのが一番いい。
ただ……しかるべき対策を取った後に、『ドワーフ銀』の武器を抜けば意識を取り戻し、尋問することができる。
第一王女で審問官のクリスティアさんの『強制尋問』スキルで、新たな情報を引き出せるかもしれない。
『血の博士』こと『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』を捕まえたいが、もう手持ちの情報は無い。
この構成員たち、特に幹部構成員と思われる『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』の三体から、有力な情報を引き出せるかもしれない。
そう考えると……滅するわけにはいかないな……。
俺は『ワンダートレント』のレントンにも手伝ってもらい、映画なんかでよく見た吸血鬼が収められている木の棺を作った。
この棺に収納して、運ぼうと思っている。
中級吸血鬼である『ヴァンパイアナイト』は、『種族固有スキル』の『闇纏い』があるから必要ないかもしれないが、下級吸血鬼の『ヴァンパイア』は棺に入れないと太陽光で燃えてしまうからね。
それに『ヴァンパイアナイト』も活動停止の仮死状態では、太陽光で燃えるかもしれないしね。
俺は、完成した棺を『波動複写』でコピーして、三十八個用意した。
そして『ヴァンパイア』三十五体、『ヴァンパイアナイト』三体を棺に納めた。
この棺は、一旦俺たち『妖精女神の使徒』の秘密基地に運ぼうと思っている。
秘密基地とは、『ナンネの街』から地下道でつながっている元『武器の博士』のアジトだった地下施設だ。
この場所は、ユーフェミア公爵、アンナ辺境伯公認の『妖精女神の使徒』の秘密基地ということになっている。
セイバーン公爵領内にあり、セイバーン公爵領とピグシード辺境伯領の領境の山脈である『
この秘密基地は、『竜羽基地』という名前にした。
秘密基地といっても、今のところ特になにもやってはいない。
実際のところは、ユーフェミア公爵もアンナ辺境伯もこの地下施設の有効利用法が思い浮かばず、褒賞という意味も含めて俺たちに使うように進言してくれただけなのだ。
俺は、特に必要はなかったのだが……その時に出た『秘密基地』という言葉がニアさんの琴線に触れてしまい、使うことになったのだ。
秘密基地は、意外なかたちで役立つことになった。
本来なら領城に棺を運ぼうかとも思ったのだが……さすがにこれほどの吸血鬼を領城に持ち込むのは気が引けたのだ。
人間ではなくなっているし……厳密には死んでいるわけでもないからね……。
少し大変かもしれないが、クリスティアさんに秘密基地に出向いてもらうのが、一番安全だと判断したのだ。
秘密基地は、こういう事態には、まさにうってつけの場所だった。
俺がそんな話を仲間たちにすると……ニアさんは、「エヘンッ」と胸を張り、自慢気な顔をしていたが……
決してこの事態を見通していたわけではないと思う。
あくまで『秘密基地』というフレーズが気に入っただけだったはずだ……。
まぁ結果オーライだけどね。
有効利用できるのはいいことだ。
早速、サーヤの転移で、『竜羽基地』に棺を運んだ。
次は、保護した構成員で『下級吸血鬼 ヴァンパイア』百五十三人と、捕虜だった人たちで『ヴァンパイア』一歩手前の『適応体』状態の百三人だな……。
俺は『アラクネロード』のケニーに念話を入れる。
(ケニー、不可侵領域の地下施設の構築状況はどうだい?)
(はい。予定通り、みんなで集合できる大きな広場は完成しております。個別の居住スペースは、現在構築中ですが、広場で休むのでよければ、来ていただいても大丈夫です)
おお、さすがケニー、仕事が早い。
依頼をかけてから数時間しか経っていないが、最低限のスペースの構築は終わっているようだ。
ケニーによれば、『マナ・ホワイト・アント』たちだけでなく、『土使い』のエリンさんも手伝ってくれているようだ。
ピグシード辺境伯領の『マグネの街』と『アルテミナ公国』を繋ぐ、不可侵領域の街道の中央付近の地下に構築している施設なので、一旦名称を『ピア街道地下街』にした。
呼び名がないと不便だからね。
ピグシード辺境伯領の『ピ』と、『アルテミナ公国』の『ア』で『ピア』とした。
不可侵領域の街道には、名前がないようだったので『ピア街道』と勝手につけてしまったのだ。
その街道の中央付近の地下に作る施設だから『地下街』とした。
今後もこの人たちが住み続けるのかはわからない。
だが、もし長く住むようなら街のように発展してくれたらいいと思ったのだ。
なんとなく視線を感じ……ニアさんの方を向くと……やはり……ジト目になっていた……トホホ。
やっぱりこのネーミングじゃダメだったらしい……なんの工夫もないもんね。
仮称なんだし……いいじゃないか……そんなにジト目を向けなくても……
なんとなくステータス数値が下がっちゃう気分だよ……。
そんな能力ないよね……?
早速サーヤの転移でこの人たちを連れて移動したいところだが、できたばかりの施設でサーヤの転移先として登録されていない。
サーヤには、一旦この『ピア街道地下街』に一番近い不可侵領域の俺の別荘に転移してもらい、そこからこの『ピア街道地下街』に移動して転移先として登録してもらうことにした。
その後に転移で戻ってきてもらえば、今度はすぐに転移で『ピア街道地下街』に行けるからね。
ちなみに不可侵領域の別荘とは、以前、盗賊のアジトだったところで十カ所あり、今は俺の別荘になっているのだ。
まぁ別荘といっても、ほとんど使うことがなくて、用途としては転移用のログハウスと同じような感じだけどね。
不可侵領域の南北に伸びている街道の近くに分散して十カ所あるから、その中で一番近いところを選べば、今回の『ピア街道地下街』ともそれほど離れていないのだ。
サーヤが戻ってき次第、転移でこの人たちを連れて行こうと思っている。
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