353.癒しの、女神。
俺は顕現しているナビーと共に戦闘のあった広場に戻り、セイバーン公爵家長女のシャリアさん、近衛隊長のゴルディオンさんたちと合流した。
シャリアさんたちは、かなりの数の構成員と古参の助手たちを拘束していた。
構成員たちはおそらく、死んだ『道具の博士』直轄の急襲部隊『アイテムワン』だろう。
どういう理由かわからないが、『道具の博士』の所ではなく、ここで一番弟子と古参の助手たちの警護をしていたようだ。
この部隊と戦ったセイバーン軍の兵士たちにも、かなりの被害が出ているようだ。
『身体力回復薬』を使い回復しているようだが……
手や足を失って瀕死の兵士もいる……
五名もいるようだ。
サメの『死人魔物』がかなりいたから、食いちぎられたのかもしれない。
『身体力回復薬』でなんとか、命を繋ぎ止めた感じだ。
俺は近くの山で待機したままのニアに念話を繋ぎ、すぐに来て治療をしてくれるように頼んだ。
『ロイヤルピクシー』になったニアの『種族固有スキル』の『癒しのキス』を使えば、部位欠損も治せるはずだからね。
切断された手足が残っている兵士は、それを使って接合すれば、体の負担が少なくて済むはずだ。
完全に失ってしまっても、ニアのスキルを使えば再生され生えてくるようだが、かなり体の負担が大きいらしい。
「グリムさん、また助けられましたわね。それにしても、どうしてここへ……」
一段落ついたところで、シャリアさんが俺に近づきながら尋ねてきたので、今までの経緯を説明した。
ユーフェミア公爵が王城から持ち帰ってきてくれたアジトの候補と考えられる遺跡の情報の中で、ピグシード辺境伯領の候補地を探索していたこと。
そこで、『薬の博士』のアジトを見つけ、『薬の博士』と『武器の博士』を捕縛しアジトを壊滅したこと。
そのときに手に入れた転移の魔法道具に登録されていた転移先がここであり、調査に来たということを説明した。
組織の幹部である『薬の博士』と『武器の博士』を捕縛したと言ったところで、シャリアさんは一瞬驚いていたが、なにかブツブツ言いながら頷いていた。
そして最後には、一瞬俺をジト目で見ていた……。
「それにしても……あなたって、いつもすごいタイミングで現れるんですわね。ほんと何者ですの!?」
シャリアさんは、呆れ顔をしている。
「いえいえ、たまたまです。転移したときには、戦いの真っ只中だったので少し驚きましたが、お役に立ててよかったです」
そう言うと、なぜかシャリアさんはジト目で俺を見た……なぜに……。
「いやー、本当に助かりました! 改めてグリム様の武勇を拝見させていただき……感動いたしました」
今度は近衛隊長のゴルディオンさんが、俺の前で跪いた。
「そんな堅苦しいことは、やめてください」
近衛隊長にかしこまられても、逆にいたたまれないので、すぐに立ち上がってもらった。
「ところでグリムさん、そちらの女性はどなたですか? お目にかかったことがないと思いますが……ど、どういう……ご、ご関係ですの?」
シャリアが、ナビーについて尋ねた。
なんか……問い詰められているような感じになっているのは、なぜだろう……
いつになく俺を見る目が鋭いが……
「はい、私の新しい仲間でナビーといいます。彼女は腕が立つので、先行して調査してもらっていまして、私の転移とほぼ同時にここに到着したのです。ニアたちも向かってきていて、近くまで来ています。もうすぐ着くと思います」
俺はそう説明した。
本当は、転移してからナビーを顕現させたわけだが……戦いのどさくさの中だったし、一瞬だったので誰にも見られていないと思う。
今の説明でも大丈夫だろう……。
「ナビーと申します。マスターを通してよく知って……いえ、よくお話をお伺いしております。よろしくお願いいたします」
ナビーは、そう挨拶をした。
今までは俺の中から全ての情報を把握していたわけで……思わず言葉のチョイスを間違えそうになっていた。
シャリアさんは、一瞬訝しげな顔になっていたが、その後すぐにハッとした表情になって頬を赤らめた。
「わ、わたくしのことを……よく話しているんですの?」
シャリアさんはさらに頬を赤らめ、俺にそう聞いてきた……え……そこ?
「は、はい。大切な……友人ですから……」
俺は返答に困り……微妙な感じになってしまった……。
「た、たいせつ……。やはり私も……覚悟を決めるしか……」
なぜかシャリアさんはさらに真っ赤になって、ウロウロ歩きながらブツブツ独り言を言っていた。
そうこうしている間に、ニアたちが到着した。
やってきたのはニア、リリイ、チャッピー、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『スピリット・タートル』のタトル、『
『エンペラースライム』のリンちゃんは、この周辺のスライムたちを仲間に勧誘しに行っているようだ。
『スピリット・オウル』のフウは、上空から警戒してくれている。
サーヤとミルキーと『ワンダートレント』のレントンと『ミミックデラックス』のシチミは、この周辺の探索をしながら待機してくれている。
「シャリアお姉ちゃんなのだ! ゴルおじちゃんもいるのだ! やったーなのだ!」
「わーい! シャリアお姉ちゃんなの! ゴルおじちゃんなの!」
シャリアさんとゴルディオンさんを見つけたリリイとチャッピーが、叫びながら駆け出した。
そして嬉しいそうに、二人に抱きついた。
「二人とも、よく来たわね。本当ならこんな危ないところには、来ない方がいいけど…… お姉ちゃん二人に会えてすごく嬉しいわ!」
シャリアさんはそう言って、二人を順番に抱きしめた。
「リリイは、また強くなったから、心配無用なのだ!」
「チャッピーもなの〜。ワンパンで倒しちゃうなの〜」
二人はそう言って、無邪気な笑顔を向けた。
若干……チャッピーが物騒なことを言ってるが……。
ゴルディオンさんも、イケメンマッチョモードからすっかり好々爺モードになって、二人の頭を大きな手のひらで包み込むように撫でている。
ニアは早速、手や足を失った兵士のところに行って、治療に当たってくれている。
「癒しのキス」
ニアはそう呟きながら兵士に近づき、体にそっと口づけをした……
すると……
兵士の体が薄いピンク色の……光の眉のようなものに包まれた。
そして半透明の光の繭の中で、兵士がさらにうっすら光っている。
切断された腕が、元の場所にくっついて治っていく……
すごい! 完全に元通りだ!
そして光の繭は消えた。
やはりかなり体に負担がかかるようで、兵士はぐったりしている。
そして次の兵士……
この兵士は、両足を食いちぎられたらしく、膝から下がない。
ニアがスキルを発動すると……同じように薄いピンク色の光の眉が包み込む。
繭の中では……おお……足が生えてきている!
……高速で……足が形成されていく……かなりのびっくり映像だ……。
治っていくのは素晴らしいことだが……映像自体は、かなりのグロテスク映像でもある。
少し時間がかかったが、無事に両足が修復され、薄いピンクの光の眉が消えた。
だが接合よりも再生の方がかなり体に負担がかかるようで、兵士は完全に気を失っている。
残り三人もニアは、立て続けに再生治癒してしまった。
「ニア様、ありがとうございます。このご恩は、一生忘れません!」
「「「ありがとうございます!」」」
一人の兵士が気力を振り絞ってニアに礼を言うと、残りの兵士たちも一斉に礼を言った。
大怪我をした兵士たちは、元々の近衛兵ではないようだ。
顔に見覚えがないからね。
ゴルディオンさんに聞くと、正規軍から応援で来ていた中隊のメンバーだそうだ。
装備も俺が収めた『マグネ一式標準装備』ではなく、旧式だったらしい。
「ニア様、本当にありがとうございます。セイバーン軍兵士を代表して、御礼を申し上げます。このゴルディオン、今日の奇跡……末代までも語り継ぎます!」
ゴルディオンさんは、改めてニアに礼を言って跪いた。
「ニア様、我が兵士たちをまたも救っていただき、深く、深く感謝いたします」
シャリアさんもニアに跪いた。
「別にいいって! そんなにかしこまらなくて! 私とシャリアちゃんの仲でしょ。ゴル隊長もね!」
ニアはそう言って、少し誇らしげに空中で一回転した。
周りの全ての兵士たちも、ニアに頭を下げていた。
跪き胸の前で両腕を組んで、ニアに感謝の祈りを捧げている。
兵士たちは、ニアのことを『癒しの女神』様と呼んで……深く感謝している。
涙を流している兵士もかなりいた。
いつも思うが……普段のニアを知らないで、この様子だけ見たら……完璧に女神状態なんだよね……。
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