309.世界樹と、命の樹。
「なに? ……その『魔導書』というか……『魔法の絵本』……初めて見たわ! 階級が『
ミノショウさんが、リリイとチャッピーの『魔法の絵本』についてかなり驚いている。
確かに俺も実際に稼働させるのは初めて見たが……絵本のキャラクターが飛び出して攻撃をするのは、衝撃だった。
長い時を生きているミノショウさんですら、初めて見る魔法道具みたいだ……。
かなりの掘り出し物だったようだ。
「『にじむし』は、可愛くて強いのだ! でも魔力をいっぱい使っちゃうのだ……」
「そうなの〜。魔力使いすぎるから、一回しか使えない感じなの〜」
リリイとチャッピーが、そんな感想を漏らした。
高機能なだけに、相当な魔力を消費するようだ。
チャッピーが言うように一回しか使えないなら、やはり使いどころが難しい魔法道具ということになる。
まぁ魔力は、『魔力回復薬』を飲めば回復できるけどね。
「でも『にじむし』やモグラちゃんたち……『ドリとドラ』だっけ? ……使い方を工夫すれば、かなり有効な戦力になるわね! 確かに魔力は消費するんでしょうけど、的確な指示が出せれば自動で動いてくれるわけでしょ! その間リリイちゃんとチャッピーちゃんは、他の攻撃行動がとれるもの。イメージする力が一番大事ね。いろんな戦いの場面や人の救助の場面を想定して、物語に出てくる動きの中でできることを確認しておいた方がいいわね。使いこなしたら、かなり凄いことになるわよ。自分の分身を作るようなもんですもの! 一種の『使い魔』といってもいいかもしれないわね」
『魔法の絵本』に対するミノショウさんの評価は、かなり高いようだ。
「わかったのだ! いろいろ練習してみるのだ!」
「チャッピーもやってみるなの〜。お友達になるなの〜」
リリイとチャッピーが手をつなぎながら、楽しそうにそう答えた。
「それから……レントンちゃんの『世界樹の枝』もすごかったわね。それも『イビラー迷宮』で手に入れたの? かなり貴重な素材よ! もっとも、なんの加工もしていない『世界樹の枝』であんな技は、普通出せないけどね。『トレント』のレントンちゃんだからこそね。おそらく……あの技も『世界樹』の持つ力の一端に過ぎないと思うわ。レントンちゃんもいろいろ使ってみて、なにができるか検証したほうがいいと思うわ」
ミノショウさんは、レントンにもアドバイスをしてくれた。
やはり『世界樹の枝』は、かなり貴重な素材のようだ。
そしてレントンと、相性が抜群の素材ということだろう。
「うん、わかった! ぼくがんばる! 『世界樹』の力をいろいろ使えるようになって、みんなの役に立つようになるのだ!」
レントンが目を輝かせた。
俺は少し気になったので『世界樹』について、質問してみた。
彼女なら、いろいろ知っていると思ったのだ。
ある程度の知識を持っているニアやサーヤも興味津々のようで、近くに寄ってきた。
「『世界樹』は、この世界を支え生かしている……この星の心臓もしくは核ともいえるような存在ね。もっとも、本当の星の心臓や核は別にあるけどね。『世界樹』が、この星自体、そしてこの星に息づく命のエネルギーを循環させているといってもいいわね。『霊素』の流れである『霊脈』、『聖素』の流れである『聖脈』、『魔素』の流れである『魔脈』、これらすべては、この星にいくつかある世界樹を経由して星全体に張り巡らされているの」
ミノショウさんが、そう説明してくれた。
『世界樹』は、この世界にとって非常に重要なもののようだ。
「『世界樹』はどこにあるんですか?」
「一番近いのは、この大陸のほぼ中央部にある『大霊域』にあるわ」
おお……この大陸にも『世界樹』があるようだ。
いつか見に行きたいなぁ……
もっとも……『大霊域』というところにあるということは、行こうと思っていけるようなところではないのかもしれない。
そして俺がマスターをしている『霊域』よりも、おそらく上位の場所なのだろう。
「『世界樹』にはどんな力があるのですか? 『世界樹の枝』もその力を秘めているようですが……」
俺は、素朴な疑問をぶつけてみた。
「そうね……『世界樹』の力は……計り知れないわね……。なにしろ……『霊脈』『聖脈』『魔脈』と直接つながっていて、それが満ち満ちているのよ。そのエネルギーだけで膨大だわ……。命を生み出すエネルギーそのものともいえるわね。すべての命の母ともいえる存在だし……」
ミノショウさんでも、全容はわからないのか……。
『すべての命の母』ってどういうことだろう……。
「すべての命の母というのは……どういう意味ですか?」
「うまく説明するのが難しいんだけど……『世界樹』の周辺には、『世界樹』のエネルギーを受けて育つ『命の樹』というものがあるの。正確かどうか定かではないけど……すべての種族の最初の命は、ここから生まれたとも言われているわ」
え! ……さらりとすごいこと言った気がするが……
種の起源的な話……?
ミノショウさんの説明を要約すると……
実際にすべての種族の最初の命が『命の樹』から生まれたかどうかは別にして……
少なくとも『魔物』の中の『オリジン』と呼ばれている特別な者たちや、『聖獣』も特殊な場合を除き『命の樹』から生まれるのだそうだ。
『スライム』や『トレント』などの『始原の中庸生物』は、今でも『命の樹』から生まれる個体もあるらしい。
スライムたちの多くは、分裂して自分たちで増えているわけだが、話の内容からすれば、最初の個体だけではなく、今も『命の樹』から生まれているスライムがいるということなのだろう。
『アラクネ』のケニーや『コカトリス』たち、『キマイラ』のキーマ、『ミノタウロス』のミノ太も『オリジン』だが……『命の樹』から生まれたのだろうか……。
『コカトリス』たちや『ミノタウロス』たちは、自分たちで繁殖しているようなので違うっぽいが……。
キーマも『キマイラ』の里があると言っていたから、どうも自分たちで繁殖しているっぽい。
ケニーはわからないけど……。
『オリジン』ではない通常の『魔物』は、普通の生物が『魔素』を大量に浴びて変質するものなので『命の樹』から生まれるものではないのだろう。
同様に『霊獣』も、基本的には普通の生物が『霊素』を大量に浴びて変質するので、『命の樹』から生まれるわけではないようだ。
もっとも『世界樹』や『命の樹』の壮大なスペックから考えれば、“なんでもあり”だろうから……通常の『魔物』や『霊獣』を生み出していても不思議ではないが……。
実際ミノショウさんの話では、時々思いもよらぬものが生まれると伝えられているそうだ。
ミノショウさん曰く、『迷宮とは、この星の維持管理システムの一つともいえる存在』なのだそうだ。
俺が前に予想した通り、やはりそういう性質を持っているようだ。
その迷宮自身であるミノショウさんですら、『世界樹』や『命の樹』については全てを知っているわけではないようだ。
まぁ他の迷宮の場所が『禁則事項』として情報開示できないのと同じように、全体のシステムを守るために知らされていないのかもしれないけどね……。
ニアやサーヤの話でも、人族や妖精族に伝わる古文書でも『世界樹』や『命の樹』については触れられてはいるものの、謎に満ちていてほとんど解明されていないとのことだった。
一説には、星の意志で活動しているとも言われているようだ。
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