248.道具の博士は、そこだ!

 オープン回線で、構成員の制圧を担当しているメンバーから念話が入った。

 今回も『絆通信』を使って、参加メンバー全員をオープン回線で繋いでいるのだ。


 俺が警報を作動させしまったせいで、構成員たち全員を捕縛する前に気づかれてしまったようだ。


 戦闘になっている。

 ただ仲間たちなら、全く問題にならないとは思うが……。


 ん……いや……不利と悟って『死人薬』を使った者が出たようだ。

『死人魔物』が出現して、暴れだしてしまっている。

 制圧するのに少し時間がかかるかもしれない。


 俺はニアに念話を繋いだ。


 ニアたちのチームは、幹部研究員と思われる数名を拘束したようだ。

 だが肝心の『道具の博士』らしき者は、発見できないらしい。

 一番大きな個室に、人のいた気配は残っているようだが……。


 逃げたのだろうか……。

 いや……この短時間に、この状況から逃げるなんて……転移でもない限り……

 まさか……

 転移のアイテムなどを持っている可能性もあるか……。


 もしそうだったら、もう逃げているだろうが………


 考えてもしょうがない……。

 逃げていないことを祈りつつ、徹底的に探すしかない。


 俺もすぐに地下五階層に降りて、一緒に捜索を開始した。


 俺は『波動検知』で『正義の爪痕』の『道具の博士』に焦点を当てて検知する……


 『道具の博士』を見たことがないので正確な波動情報はわからないが、多くの人に『道具の博士』と呼ばれていたのであれば、なにかしらそれに関する波動情報を本人が纏っているはずだ。

 それを検知できる可能性にかけたのだ。


 ……………………いた!


「シチミ、後方の壁に向かって投網を発射して!」


「任しとけい!」


 シチミが俺の指示に従って、すぐに振り向き三メートル後方の壁に向かって、種族固有スキル『マルチトラップ』の『投網』を発射した!


「う、うぐ……」


 よし捕まえた。

 姿は見えないが、壁から呻き声がする。


「リン、麻痺攻撃を!」


「わかった!」


 続いてリンに『状態異常付与』スキルの『麻痺』を付与してもらう。


 俺は近づき、男が着ているフード付きのローブを脱がせた!


 やっと姿を現した。


 男はリンの体色変化によるステルス状態と同様に、透明になって見えなくなっていたのだ。

 見えなくなる『魔法のローブ』を着ていたようだ。

 このローブは、気配まで遮断できるらしい。


 奪ったローブを『波動鑑定』すると……


 なんと、階級が『極上級プライム』の『隠れ蓑のローブ』という名称の『魔法のローブ』だった。


 そして捕まえた男を『波動鑑定』してみる。


 名前は……ザコク

 称号に……『道具の博士』というのがある。

 こいつで間違いないようだ!


 長身で痩せこけていて、チリジリの白髪が力なく肩までかかっている。

 六十代くらいに見えるが、鑑定によれば年齢は四十九歳だ。

 眼光が異様な感じだ。怪しく光っている。

 いかにもマッドサイエンティストという雰囲気だ。


 捕まったというのに、焦るどころか冷徹な笑みを浮かべている。

 しかも麻痺状態のはずなのに……なんて奴だ。


 俺は奴を縛り上げ、麻痺状態を解除する。

 尋問するためだ。


「お、お前らは……妖精女神とその使徒たちだな……。ハハハハハハーーーー! あゝ妖精女神が向こうからやってきてくれるとはーーー! 見たかったのだよーーー! 会いたかったのだよーーーー! あゝ……切り刻みたい! 血をすすりたいーーーー!」


 『道具の博士』が狂気の笑みを浮かべて、舌なめずりしている。


 何言ってんだこいつ……完全にイカレてる……。


「ここに囚われている人は、他にいないのか? 正直に言え!」


「羽妖精か……羽を千切ったらどうなるかなぁ……あゝ………」


 コノヤロウ!

 俺の話は無視か………


『道具の博士』の怪しい眼光にロックオンされているニアが、気持ち悪そうに体をさすっている。

 怖気がするとは、このことだろう。


 ん、『道具の博士』のヘソの辺りが突然緑に光りだした!

 シャツがめくれ上がる。


 なに! 腰になにか巻いてる!

 え……中心部分が渦巻いてる!

 まさか……変身ベルトじゃないよね?


 次の瞬間——


 回転している緑の光が、突風とともに半透明のシールド状になって大きく飛び出した!

 周りにいた俺たちは、弾き飛ばされてしまった。


 おそらく防御シールドを張る装置なのだろう。

 なにかに変身しちゃうのかと思って焦った……。


 俺はすぐに体勢を立て直し、奴を捕らえようと思ったが……


 次の瞬間——


 ベルトの左右に下がっている二つの銃の銃口から風が噴射し、後ろ手に縛られたままの奴がロケットのように前方に飛んだ!


 そのまま前方にある大きな箱型の装置に、頭から激突した!


 一瞬のことだった……

 凄い加速だったので、奴は装置に突き刺さり装置を破壊してしまった。


 多分……即死じゃないだろうか……

 とても生きてると思えない……

 いったい……なにをしたかったんだ……。

 ただの操作ミスによる自爆なのか……

 いや……あの装置を意図的に破壊したかったのかもしれない。

 自分の命と引き換えにしても破壊したいほどの重要な装置なのか……


 ————ビーーーン、ビーーーン、ビーーーンッ


『この施設は、まもなく焼却シークエンスに入ります。180秒以内に退避してください』


 突然新たな警報音が鳴り、アナウンスが流された。


 やはり操作ミスではなく、あの装置を破壊することが目的だったようだ。

 あの装置が破壊されることで、証拠隠滅のためのシステムが稼働するようになっていたのだろう。


 このままではまずい……

 組織の情報がなにも得られなくなる……。


「ニア、サーヤと合流して、さっきの転移用ログハウスに退避して! 俺はできるだけ証拠資料を集める。みんなの退避が終わったら、捕縛した構成員たちも順次転移で回収するようにサーヤに伝えて! リン、この少女を頼む。シチミ、サーヤと合流するまでの間に回収できそうな物を回収しながら行ってくれ! 大きな装置は俺が回収する」


「オッケー!」

「わかった!」

「任せとけい!」


 俺の指示に、ニア、リン、シチミがすぐに動き出す。

 オープンチャンネルになっているので、他のメンバーも状況は把握しているはずだ。


 焼却装置自体を回収できればこの状況をリセットできると思うが、どういう装置なのか分からないので、時間内に全てを回収できるか不確定だ。

 目につく物は全て回収するつもりだが、まずはこの地下五階層と地下四階層だ。

 重要設備なはずなので、その全てを回収することに全力を尽くす。




 ————ビーーーン、ビーーーン、ビーーーンッ


『この施設はまもなく焼却シークエンスに入ります。残り時間120秒です。速やかに退避してください』


 もう一分経ったのか……

 俺はまだ地下四階層にいた。


(旦那様、家畜の動物たちはいかがいたしますか? かなりの数がいますので、動物たちと残りの構成員たち両方を転移させる時間があるか微妙な状況です)


 サーヤからそんな念話が入った。


(動物たちは地下一階に誘導して、入り口から外に逃がせないのかい?)


(それが……警報が作動したときに防御壁が降りたようで、塞がれています。破壊するには少し時間がかかりそうです)


 なんと……用意周到なことだ……


(サーヤ、それでも動物たちを入り口の前まで誘導してくれ。後で俺が行って入り口を破壊して、逃げられるようにするから。捕縛した構成員たちの回収を優先してくれていいよ)


(かしこまりました)




 ————ビーーーン、ビーーーン、ビーーーンッ


『この施設はまもなく焼却シークエンスに入ります。残り時間60秒です。速やかに退避してください。

 ……………………………………

 ハハハハハッ、訂正しまーす! もう焼却処理が始まっちゃいまーーす! 退避しても無駄でーす! トラップに引っかかった人たちは、焼け死んでくださーい! ハハハハハーーーー、さようならーー!』


 なに!

 避難誘導のアナウンス自体がトラップなのか!


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