241.拉致の、防止策。
今回『正義の爪痕』のアジトに囚われていた人たちは、子供たちも含め身寄りのない者や姉妹ごと拐われていた人たちのようだ。
いなくなっても気づかれにくい人を物色して、誘拐していたのだろう。
アンナ辺境伯から、子供たちの誘拐対策の一つとして、身寄りのない子供たちを再度確認して孤児院に入ってもらうという話があった。
元々領が運営する孤児院はあったのだが、再整備し大きくして孤児たちを全て引き取れるようにするそうだ。
孤児院については、俺もしっかり整備する必要があると思っていたが、領でやってくれるのが一番いいだろう。
『フェアリー商会』で養護院を作る必要もなさそうだ。
どちらかというと孤児院に入れない十五歳以上の十代を中心とした若い人たち、特に狙われている女性の安全を確保する対策をしようと思う。
可能な限りは『フェアリー商会』で雇用すると共に、身寄りのない女性たちをまとめて同じエリアの仮設住宅に住まわせるように役所にお願いすることにした。
一番避けなければならないのは、突然いなくなってもそのことに誰も気づかないという状況だ。
近くに集まって暮らしていれば、お互いに異変に気づきやすくなると思うんだよね。
ちなみに防犯ブザー代わりの笛は、早くも試作品ができた。
俺は会議の途中で、『家精霊』のナーナに念話で依頼をしていたのだ。
ナーナは元々『武器作成』スキルを持っていて、骨の加工などが得意だったからだ。
領城に置いてある『家馬車一号』の方に出現したナーナが、すぐにサンプルを作ってくれたのだ。
ウサギ魔物の角を利用した『角笛』を作ってくれたようだ。
リンが試作品を届けてくれたのだ。
念話でナーナから説明を受けた。
削り方を工夫して、綺麗な音というよりは変わった音がでるようにしたらしい。
吹くだけだが、強く吹けない子供が吹いてもそれなりに音が出るようになっている。
俺はナーナから聞いた説明をみんなに伝え、現物を見せてみた。
角の先の方を使ってかなり小さく作ってくれたので、子供が首から下げても邪魔にならない大きさになっている。
俺は『角笛』を吹いてみる。
ビーーーーーーー、ビーーーーーーー、ビーーーーーーー、
なるほど……少し変わった音だ。
この音なら生活音にかき消されないで、よく聞こえるんじゃないだろうか。
アンナ辺境伯も、このぐらいインパクトのある音の方がいいだろうと賛成してくれた。
よし! これでいいだろう。
本当なら……ワンアクションで作動する魔法道具のようなものが作れれば一番いいのだが……
魔法道具を作ってくれる職人は、この領都にはいないようだ。
将来的に、魔法道具が手配できたら交換すればいいだろう。
本当なら、俺自身の手で魔法道具を作ってみたいけど……。
まぁ欲張ってもしょうがないから、今回はこれでよしとしよう。
量産して、すべての領民に配る手配をすることにする。
もちろん何千という数になるが……
俺には『波動複写』というチート技があるから全く問題ない。
もちろん表向きは、妖精族の職人たちが大急ぎで作ったことにするが……。
ピグシード辺境伯領の領民を示す意味で、ピグシード家の紋章を刻んで量産することにした。
アンナ辺境伯に代金を聞かれたが、今回は全て俺の負担で用意すると告げた。
そのかわりと言ってはなんだが、『角笛』に通し番号を刻むこととその番号と名前を記録した領民名簿を作ることをお願いした。
この国には戸籍のようなものはないみたいだが、この名簿を作っておけば、ある程度戸籍のように機能すると思う。
なにかあったときに、角笛の通し番号で人の特定もできるようになるはずだ。
手間のかかることを役人にお願いするので、『角笛』自体の負担は俺がして無償で提供する提案をしたのだ。
それでもアンナ辺境伯からは代金を払うと言われたので、俺はそれをこれから大きくする孤児院の運営資金として寄付すると申し出てなんとか納得してもらった。
代金に相当する金額を、直接孤児院の運営担当者に渡すようにお願いした。
孤児院の運営にも少し関わりたかったので、そのお願いもしたが喜んで了承してもらえた。
安全対策や子供たちの自立支援についても、少し協力したいと思っている。
『マグネの街』の『ぽかぽか養護院』でやっているような職業体験というか弟子入り体験なども実施したい。
また鶏の飼育のように子供たちが生活する中で、お金を稼ぐ体験をする仕組みも作りたい。
院長先生が、凄くいい体験になると言っていたし。
そんな話をしたら……
大きくする孤児院の増築のアイディア出しや、実際の工事を頼みたいと依頼された。
もちろん即答で引き受けた。
どうせなら増築の際に、なにか安全対策も組み込みたいからね。
この件についても、いつもの文官三人衆が担当になるそうだ。
俺がなにかやる度にあの三人の仕事がどんどん増えていってる気がするが………
大丈夫なのだろうか………。
気になったので少し尋ねてみたが……どうもあの三人の下に相当な数の文官が配置されているようだ。
特命チームとして編成されているらしい。
だから心配する必要はないと言われた。
俺はもう一つ、アンナ辺境伯から許可をもらうことにした。
それは『マグネの街』に作った子供たちや希望する人に読み書きを教える『ぽかぽか塾』を始めることについてだ。
『フェアリー商会』でやるので特に許可は必要ないと思うが、一応事前に話しておきたかったのだ。
この国には小学校のような施設はなく、王都に王立学院があるだけのようだ。
王立学院に通うのは、貴族の子息や特定の能力のある者、裕福な市民の子供のみのようだ。
文字の読み書きは親が教えたり、街の長老が教えたりという感じで整備されていないようだ。
親が読み書きできないと、その子供たちも必然的に読み書きができない可能性が高くなるらしい。
無償で文字の読み書きを教える塾についても、アンナ辺境伯は賛成してくれ、協力を約束してくれた。
ついでに魔物狩りをする『ハンター』を養成するための『ハンター養成学校』の設立も計画しているので、そのプランも説明し了承を得た。
すでに教員候補が決まっているという話もした。
『マグネの街』で出会った冒険者パーティ『炎武』の人たちのことだ。
アンナ辺境伯もハンター制度を導入するのはいいが、魔物に命を奪われる危険がある仕事だけに心配だったようだ。
生存率を高めるために、しっかり育成してからハンターとして仕事させることには大賛成のようだ。
『ハンター養成学校』はギルドに近い方がいいだろうと言って、ギルドに隣接する土地を追加で提供してもらえることになった。
『ぽかぽか塾』についても、できるだけ多くの子供たちや希望者に教えてほしいと依頼され、四つのブロックそれぞれに土地を用意してくれることになった。
前回提供された広場に隣接する土地、これは乗合馬車の停留所用に提供された土地だが、そこに追加するかたちで用意してくれるようだ。
『ぽかぽか塾』以外にも公共性の高いような施設に使えるように、かなり広めに用意してくれるとのことだ。
公共性が高いといっても、遠慮せずに飲食店なども出店して構わないと念押しされた。
その方が美味しい物が食べれて、領民が幸せになるからということらしい。
俺としても飛び飛びの土地を購入するよりも、ブロック毎にまとまっていた方が効率がいいのでありがたく頂戴することにした。
『正義の爪痕』への対処もしなきゃいけないけど、復興のための事業展開も早めないといけないね……。
仕事や家などの生活の基盤を得て、領民の心が上向くことがなによりも重要だと思う。
負の念に囚われていると悪魔や犯罪組織に利用されかねないからね。
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