219.川遊びは、大事な仕事。
翌朝俺達は、予定通り資源調査という名目の川遊びに来ていた。
参加者は俺の仲間に加え、アンナ辺境伯、娘のソフィアちゃん、タリアちゃん、ユーフェミア公爵とその三姉妹のシャリアさん、ユリアさん、ミリアさん、そしてまたもや……なぜかオブザーバーとして第一王女のクリスティアさんとその護衛のエマさんだ。
そして資源調査という名目上、文官三人衆も一緒に来ている。
かなりの人数になった。
このメンバーが城を開けていいのかと思ったが……そんなに長い時間でもないし、息抜きは必要だからいいのではないだろうか……。
というか資源調査だし……。
先陣を切って川に突撃したのは、シャリアさんとユリアさんだ。
もはや慣れた手つきで、川岸を網でさらっている。
リリイとチャッピーは、ソフィアちゃんとタリアちゃんにやり方を優しく教えている。
タリアちゃんは少し水が怖いようだが、チャッピーが手を繋いでくれている。
そしてこの子達の周りを、トーラとタトルが守るようにぐるぐる泳いでいる。
ていうか……タトルが今回は水に入ってる……。
リクガメの形してるけど……泳ぎはまったく問題ないわけね……。
ユーフェミア公爵とアンナ辺境伯も網を持ち、小エビや小魚を獲っている。
なんか……無邪気で楽しそうな顔をしている。
見ているこっちまで楽しくなってくる。
クリスティアさんとミリアさんも、シャリアさん達にコツを教えてもらいながら一緒にやっている。
そしてなぜか……護衛のエマさんは、勝負師の顔つきで川面に剣を突き立てている。
魚を剣で狙っているようだ。
コツを掴んだのか……途中から百発百中だ!
大きな魚を突いて、川岸に放り投げている。
なんか……修行みたいな感じになってますけど……。
最初は遠慮していた文官三人衆も、俺に促されて川の中に入っていった。
そのうち小エビ漁に夢中になっていた。
ニアと『ロイヤルスライム』のリンは、一緒に何度も水の中にダイブして潜水を練習しているようだ。
なかなか面白いことをやっている。
『ミミック』のシチミはカバン状態で、『竜馬』のオリョウにぶら下がっている。
オリョウは、川の中をスイスイ楽しそうに泳いでいる。
『スピリット・オウル』のフウは今回も空中から急降下で、水面の魚をハンティングしている。
今回も一番魚を獲るのはフウじゃないだろうか。
『トレント』のレントンは、自分の手から蔓を長く伸ばして水中に入れている。
なるほど……釣りをしているようだ。
なかなか絵になってる。渋い!
『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナは、今はこちらの『家馬車』には出現していない。
『マグネの街』の家の方に出現して、サーヤの仕事を手伝っているのだろう。
同じく『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウもサーヤ達の馬車を引く為に、『マグネの街』に残っているので、残念ながら参加できていない。
それにしても……みんな夢中で遊んでいる!
童心に帰って、ワイワイはしゃぎまくってる。
ユーフェミア公爵もアンナ辺境伯も、なんか……凄く可愛い感じだ。
全員びしょ濡れなのは、言うまでもない。
子供達は途中から泳いで遊びだした。
ソフィアちゃんとタリアちゃんは、上手く泳げないようだったが、文官リーダーのマキバンさんが泳ぎを教えてくれている。
マキバンさんは、子供の頃川遊びが好きで、泳いだり魚を獲ったりしたと話していたから、泳ぎは得意なのだろう。
少し離れたところに『紅マス』を見つけたので、フウとオリョウとレントンが獲りにいってくれた。
「いやー、小エビを獲るのがこんなに面白いとはねぇ……シャリアとユリアが夢中になるわけさね」
ユーフェミア公爵が一段落して、川から上がってきた。
「そうですわね。私もこんなに楽しいとは思いませんでしたわ。この楽しさを知らなかった事は、損をしていた気分ですわ」
一緒に上がってきたアンナ辺境伯も、びしょ濡れだが輝くような笑顔だ。
こう見ると……改めてユーフェミア公爵もアンナ辺境伯も恐ろしいほどの美魔女だ。
めっちゃドキッとしちゃうわ……。
「私も今まで川遊びをしなかったのが悔しいくらいですわ。これはもう……週に一度は視察するべきですわね。エマなんて私そっちのけで、魚を突きまくってるんですもの。あの子のあんな感じ……ほんとに久しぶりですわ」
休憩に上がってきたクリスティアさんも、いい笑顔を作っている。
「ほんとお姉様たちはズルいんですのよ。わたしももっと早く、こっちにくればよかったですわ。『ナンネの街』で最初にやる仕事は、川の資源調査に決まりました!」
これから『ナンネの街』の代官として仕事をするミリアさんが、変な方向にスイッチが入ってしまい、変な優先順位で仕事を決めてしまったようだ……
大丈夫だろうか……。
「川がこんなに豊かとは……。できるだけ多くの領民に、この楽しさを経験してもらいたいです」
昨日とは別の意味でびしょ濡れになった男性文官のベジタイルさんがそう言って、大きく伸びをした。
さすがに今日は、リラックスできているようだ。
「この川沿いをなんとか安全に囲って保護できたら、相当な量の魚や小エビが確保できると思うんですよね」
女性文官のフルールさんもびしょ濡れになりながらも、腕組みしながら真剣な表情で意見を言っている。
なるほど……いいかもしれない……。
川沿いのところだけでも柵かなにかで安全を確保して、多くの人が川遊びできるようにしたら……レジャーにもなるし、食料の確保にもなる。
……いい方法がないか考えてみるか!
「そうですね。それもあるし、領都の中に流れる川も整備できたらいいかもしれないですね。これから再開発するところは、水路も整備して水を引き入れるとか、小さな水場を作って子供たちが水遊びできる場所を作るとか、魚釣りができる池を増やしても面白いかもしれませんね」
そう言って目を輝かせたのは、文官リーダーのマキバンさんだ。
うん! いい意見だと思う!
ただの息抜きと遊びかと思ったが、いい刺激になって凄いアイディアが出てきたようだ。
どうやら十分仕事としての意味があったようだ。
今のマキバンさんの意見は、かなりいい意見だと思うんだよね。
水路も新しく作っちゃって、みんなが楽しめる池や子供たちの水遊びの場所も作る。
『マグネの街』の『ぽかぽか養護院』に作ったような浅い安全な水路を作って、小エビも獲れるようにしたら最高だね。
全体を公園のようにしても、いいかもしれない。
そう頭の中に閃きながら、アンナ辺境伯とユーフェミア公爵の方に視線を向けると、まだなにも言っていないのに二人共大きく頷いた。
なんか……この以心伝心な感じ……結構嬉しいかも……。
二人もいい意見だと思ったに違いない。
この後、領城に戻っての会議のテーマは、“都市開発”になりそうだ。主に水場関係の……。
元々領都には四つの大きな川が流れ込んでいて、水に恵まれた都市なのだが、改めて全ての川の資源調査をすることになった。
まぁ資源調査という名目の川遊びであることは間違いないが……。
毎日にならないことを祈るのみだ……。
「なんかお腹がすいたのだ」
「いい匂いがするなの〜」
無尽蔵の体力があるかのようにずっと遊んでいたリリイとチャッピーだが、いい匂いに負けたようでやっと川から上がってきた。
ソフィアちゃんとタリアちゃんも一緒だ。
俺は川に入らずに、みんなの様子を見ながら簡単な食事を作っていたのだ。
お昼にはまだ大分時間があるが、川遊びでみんなお腹が減ると思ったからね。
作ったのは『鮭おにぎり』と『小エビのかき揚げ』と『卵焼き』だ。
飲み物として特製の『フレッシュジュース』も用意した。
俺の作った三品を見て、クリスティアさんとエマさんそして文官三人衆以外の味を知るみんなは、目をキラリと輝かせた。
少し離れたところに『紅マス』を獲りに行ってくれたメンバーと、ニアとリンはまだ戻ってこない。
だが、みんな待ちきれない感じだし、いっぱいあるから食べちゃうことにした。
「「「いただきます」」」
早速食べ始めた。
みんな凄い勢いだ。
「な、なんですの! これはなんですの!」
初めて食べたクリスティアさんがそう叫んだ。
そして三品それぞれを食べる度に、「なんですの!」と叫ぶ光景が繰り返されていた。
護衛のエマさんは普段は控えていて食べないようだが、クリスティアさんに強く勧められて口に運んでいた。
「こ、これは……クリスティア様、これは……」
いつもキリッとした感じなのに、ふにゃふにゃでとろける感じの表情になっていた。
そして同じく初めて食べる文官三人衆は……
「はー……参りました。グリム様の荘園計画を聞いたときに、米の栽培も入っていて少し疑問に思ったんですが……まったく浅はかでした。これは大々的に作るべきですね!」
「信じられません! こんな美味しいものを食べたことがありません。もう言葉が出ません」
「ああ……うう……おお……あゝ……」
マキバンさん、フルールさん、ベジタイルさんがそれぞれ感想を述べていた。
最後のベジタイルさんは言葉になっていなかったし、また涙を流していたけど……。
どうもこの世界には、美味しさに感動すると泣いてしまう人が結構いるようだ……。
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