199.褒賞金と、発注。

「ところでお母様、我がセイバーン家全員がニア様とグリムさん達に助けられた形になりましたけど、もちろん報奨金はたくさん出しますわよね? 」


 突然シャリアさんが、そんな話を切り出した。


「ああ、わかってるよ。『正義の爪痕』の構成員も生け捕りにしてくれたし、我が兵士と我々を救ってくれた。たっぷりお礼をさせてもらうから、期待しときな! 」


 ユーフェミア公爵が、男前な笑みを俺に向けた。


「別にお金なんていいわよ。ねえ、グリム」

「ええ、その通りです。そのお金は是非復興に当ててください」


 ニアと俺はそう固辞したのだが……


「前にもこんなやりとりしたと思うけど……全くわかっちゃいないね。復興資金はちゃんと出すから、あんたはしっかり貰っときな。あんた達に払う金は、死に金じゃない。しっかり事業を起こして、人の雇用に当ててくれればいいさ」


 ユーフェミア公爵に、呆れ顔をされてしまった。


「そうですわ。『マグネの街』で商会を設立した話もシャリア達から聞きました。是非領都でもお願いします。仮設住宅建設の代金も、しっかり払わせていただきますので、その分も事業資金に当ててください」


 アンナ夫人がそう続けた。


 そして仮設住宅建設の代金を提示されたのだが……


 ……十億⁉︎


 俺は金額を聞いて驚いた!


 『領都』に八百軒、『ナンネの街』に二百軒、合計千軒設置したので十億ゴルになるらしい。

 一軒百万ゴルで計算しているようだ。


 仮設住宅なのに百万ゴルも出して良いのかと尋ねると、逆に謝られてしまった。

 アンナ夫人曰く、低い査定金額らしい。

 最低でも二百万ゴル、通常は三百万ゴルは出すべき住宅だが、仮設住宅で将来撤去する可能性もあるので低く査定したそうだ。


 俺としては『マグネの街』の避難民にも無償提供してるし、全て無償で構わないのだが……

 まぁこの話をすると、また公爵に呆れられるのでしなかったけどね……。


 夫人の言う通り、人の雇用等を通して還元する事にしよう。


 この代金のお陰で、当面資金を心配しないで人の雇用が出来そうだ。

 領都での銀行業務の原資に当ててもいいかもしれない。


 そう安心したところに、シャリアさんの視線に促されたユーフェミア公爵からも報奨金の提示があった。


 何も今すぐ決めなくても良いのではないかと思ったのだが……


 どうもシャリアさんをはじめとする三姉妹の公爵に対する圧が凄いようだ。

 多分……助けてもらった礼を表したいと強く思ってくれているのだろう……。


「そうさね……『正義の爪痕』の構成員一人について二千万ゴル、十一人で二億二千万ゴル。我々と軍の救援の褒賞金として二十億出そう。もっと出してもいいが……あまり多くても貰いづらいだろう。他にも礼を考えてあるから楽しみにしておきな! 」


 ユーフェミア公爵はさらっと金額提示し、最後にはまた悪い笑みを浮かべていた……。


 別にこれ以上のお礼はいらないんですけど……。


 それにしても……ドンダケ金持ってんだ!


 前に聞いた話だとセイバーン公爵領はピグシード辺境伯領よりも、領地が広大で海にも面しており、王国の中でも一番と言っていいほど豊かな場所らしい。


 話の流れ的に固辞するわけにもいかず……

 俺は苦笑いしつつお礼を言うしかなかった……。


「褒賞金の話が済んだところで、まとめてお金の話をやっちゃいましょう!」


 シャリアさんがそんな事を言いながら魔法カバンから、以前プレゼントしたマグネの街の衛兵隊に提供した装備一式を取り出した。


「ほう……これが……」

「確かに、これは素晴らしいですわね」


 ユーフェミア公爵とアンナ夫人が装備を手に取りながら、感嘆している。


 マグネの街の衛兵の生存率向上の為に提供した事と、結果的に買い上げてもらう形になった経緯をシャリアさんから聞いていたようだ。


「ところで結局、いくらの値段がついたんだい? 」


 ユーフェミア公爵にそう問われたので、武具の名称と金額を紙に書いて渡した。



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 ○ 標準セット———『マグネ一式標準装備』ーー 百万ゴル

 (内訳)

『マグネ一式インナー』——— 十万ゴル

『マグネ一式皮鎧』——— 六十万ゴル

『マグネ一式丸盾』——— 二十万ゴル

『マグネ一式ヘルム』——— 十万ゴル


 ○剣———『蛇牙裂剣じゃがれつけん』——— 五十万ゴル


 ○槍———『猪牙槍ししがそう』——— 五十万ゴル


 ○大盾———『象蛇の大盾ぞうじゃのおおたて』——— 四十万ゴル


 =======================================



「はあ! ………これ全て階級は『上級ハイ』だろ! こんな低い金額付けたのかい? 」


 ユーフェミア公爵が驚きの声を上げた。


「金額については代官さんにも謝られてしまったのですが、別にいいのです。元々無償で提供しようと思ってやった事ですから」


 俺がそう言うと……また呆れ顔で見られてしまった。

 というか……出来の悪い子供を見るような目なんですけど……解せぬ……。


「ニア様、妖精族の職人が作ったというお話ですが、量産する事は可能なんですの? 」


 今度はアンナ夫人が『蛇牙裂剣』を振りながらニアに尋ねた。


 なんか目がキラキラしているけど……。

 もしかして……アンナ夫人も密かに強かったりするのだろうか……

 緊急時で無いので『波動鑑定』で勝手に個人情報を見る事は控えたが……。


「もちろんよ、頼めばすぐに出来るわよ。もしかして欲しいの? 一つや二つならグリムがストックしてるはずよ」


 ニアがそう答えると、アンナ夫人は俺に視線を移した。


 夫人にもプレゼントしようと思って、取り出そうとすると……


「値段は本当に、この値段で良いのかしら?」


 アンナ夫人がそう訊いてきた。


「いえ、プレゼントいたします。それにマグネの街の分は問題ありません。実はマグネの街で武具販売店を手に入れまして、そこでこの装備を販売する事にしたんです。査定金額よりも少し高い金額で販売しようと思っています。ただ不審な者には販売しないように、身元確認だけはしっかりするつもりです」


 俺がそう答えると、アンナ夫人はユーフェミア公爵と顔を見合わせて苦笑いをしている。

 あれ……販売しちゃまずかったかな……


「まったく……欲が無いにも程があるよ。……ほんとに、この値段でいいんだね? 」


 そんなユーフェミア公爵に首肯すると……


「だったら、この装備、セイバーン公爵領でも導入させてもらうよ。とりあえずは、全て三百づつ発注するよ」

「もちろん、ピグシード辺境伯領でも正式に導入いたします。 各二百セットでお願いします」


 ユーフェミア公爵とアンナ夫人が立て続けにそう言った。


 俺は、一瞬固まってしまった……。


 まさかここで発注がもらえるとは思っていなかったのだ。


 この装備で兵士達の生存率が高まるのは願ったり叶ったりなので、ありがたく注文を受ける事にした。


 全部で五百セットの発注なので、合計十二億ゴルになった。


 もうなんだか……お金の感覚が……よくわからなくなってきた。

 喜ぶとこなんだろうけど……もうよくわからない……。


 ちなみに武具販売店で一般に向けて販売する事は、特に問題視していないようだ。

 変な者に販売しないように気を付けて欲しいとだけ言われた。


 それからピグシード辺境伯領でも、セイバーン公爵領でも、特に問題がなければ今後も追加で発注するとの事だった。

 兵士全員の標準装備にする場合には、かなりの数量になるので一気には発注しなかったとの事だ。


 予算的にも大分かかるだろうし、随時切り替える形にした方がいいよね。

 使ってみて改良点が出るかもしれないしね。


「ところで、弓は作ってないのかい? 」


「そうなんです。弓は丁度市販の『クロスボウ』があったので、それにしてしまいました。今後は弓も作ろうと思っていますが……」


 俺は、ユーフェミア公爵の質問に思わずそう答えてしまった……。


 ユーフェミア公爵が、不敵な笑みを浮かべている。


「まるであんたが作ってるような口ぶりだね。……まぁいいさ。弓も欲しい。高性能の弓が安いなら、いくらでも買うよ。弓が出来たらすぐに見せて欲しい。良ければ大量発注するよ。特に大型の魔物を相手にした時に、一撃の破壊力があるといいんだけどね。普段使いの弓と大型の弓、二種類あった方がいいかもしれないね」


 ニヤニヤしながら、ユーフェミア公爵が提案してくれた。


 この人本当に侮れない……見透かされているような気がする。


 それはともかく……今度ゆっくり時間をかけて弓を作ってみるかな……。


「わかったわ。じゃぁ妖精族の職人に改めて弓を二種類、頼んどくわ!」


 ニアがそうフォローしてくれた。

 もっとも、ニヤつきながら言ったので……あまりフォローになってない気がするが……。





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