197.魔物の、解体ショー。

 休憩を終えた俺達は、領都外壁の南門のところまで戻ってきていた。


 領都の住人達に魔物の肉を配ろうと思っているのだが、壁内には解体する場所が作れそうにない。


 解体用に『象魔物』二体と『蛇魔物』二体を『波動収納』から取り出そうと思っているのだが、でかすぎて場所が無いのだ。


 そこで門外に一時的な野営陣地を作って、そこで解体する事にした。


 解体を手伝ってくれるのは、セイバーン公爵軍とピグシード辺境伯軍の一部の兵士と声をかけて集めた領都の住人達だ。


 俺がいつものように魔法のカバンから出す体で、『波動収納』から魔物の死体を取り出すと、大歓声が沸き上がった!


 いくら魔法のカバンとはいえ、十メートル以上の巨大魔物の死体を四体も取り出すのは、初めて見る者には衝撃の光景のようだ。

 それ自体が、マジックショーみたいな感じになってしまったのだ。

 ちなみに『蛇魔物』に至っては、全長二十メートル以上ある。


 せっかくなので解体自体も、ショーのようにやる事にした。

『マグロの解体ショー』ならぬ『魔物の解体ショー』だ!


 この四体は血抜き済みなので、すぐに捌く事が出来る。

 休憩していた時に、抜いておいたのだ。


 まずは蛇魔物の解体からだ。


 蛇魔物を街道沿いに二体平行にまっすぐに伸ばして並べた。

 二十メートルだからかなりの距離だ。


 解体するのは、リリイとチャッピーだ。


 二人は、俺が渡した『蛇牙裂剣じゃがれつけん』を握っている。


 蛇魔物二体は街道の左右に腹を内側に向けて横たわっている。

 その二体の間に、二人が平行に並んでいる。


「おチビちゃん達、がんばれよー」

「ほんとに出来るのかー」

「転ぶなよー」

「かわいいわよー」

「がんばれー」


 早くもギャラリーから声援が飛んでいる。


 二人は目をギラギラさせている。

 準備は良いようだ。

 始めるとしよう!


「位置について…………ようい……ドン! 」


 俺がスタートの合図を出すと……


 二人が『蛇牙裂剣』を横手に持ちながら一斉に駆け出した————


 蛇魔物の腹を切り裂きながら走っているのだ!


『蛇牙裂剣』の切れ味は抜群で、二人は何の抵抗もなく普通の“かけっこ”のように颯爽と駆け抜けている。


 もちろん、レベルが上がった二人が本気で走ると、凄まじいスピードになってしまうので、事前にゆっくり走るように言ってある。

 ただそれでもかなり早い……普通の八歳ではありえないスピードになってるけど……。


 兵士達や手伝いの人達、見物人達が一斉に大歓声を上げる!


 二人は一気に二十メートルを駆け抜け、蛇魔物のお腹を捌いてしまった。


「おチビちゃん達すごいぞー! 」

「なんて速さだ! 」

「なんだ、あの子達は! 」

「とにかく凄い! 」

「お見事! お嬢ちゃん達!」

「肉が食えるぞー」

「もっとやれ! 」


 もうみんな大興奮状態だ!


 そしてこの盛り上がりを聞いて、更に人が集まってくる。


 二人は今度は蛇皮を掴んで、皮剥きしながら走って戻ってくる。


 更に割れんばかりの大歓声が巻き起こった!


 俺は二人を抱き上げ両肩に座らせ、歓声に答えさせてあげた。


 二人とも少し照れ臭そうに、でも嬉しそうに両手を振って答えている。



 次に象魔物の解体は、セイバーン公爵軍とピグシード辺境伯軍の兵士に華を持たせた。

 精鋭兵士達の勇姿を披露してもらう事にした。


 みんなド派手な演出で、自分の技を披露しながら解体していた。


 結構凄い技が飛び出していた。

 やはり剣の型とか、そういうのをちゃんとマスターした方がいいかもしれない。

 かなり強力な感じの技があった。

 俺も習いたいなぁ……。


 精鋭兵士のかっこいい型や見事な剣技の披露に、大歓声が送られ会場全体を熱気が包んだ。


 途中、象魔物の強固な皮に刃こぼれしたり、剣を折ってしまった兵士がいたので、量産してある『蛇牙裂剣』を貸し出した。


『蛇牙裂剣』を手にした兵士達は、その切れ味に驚きの声を上げ、魔物素材である事を知り衝撃を受けていた。そして最後には感動していた。

 他の兵士達も使いたがり、試し斬り大会のようになってしまった。

 魔物達は瞬く間に、切り刻まれた。


『魔物の解体ショー』は大盛況で、幕を閉じた。

 こんなに盛り上がるなら、今後も定期的にやったら面白いかもしれないね……。



 そして切り分けた肉を配るのだが、折角なので『焼き串』も作って振る舞う事にした。


 ただ今回は、いつも頼りになるサーヤやミルキーがいないので、俺がかなり忙しかった。


 ただ兵士達や領都の住人達が手伝ってくれたので、途中からは任せてしまった。


 肉のいい匂いが漂い始めると、臭いに釣られるように更に住人達が集まってきた。

 昼近くになっていたので、昼食の炊き出しとして丁度良い感じになった。


 集まって来たといっても、領都は広いのでこの南門の近くの住人だけだが。


 他のエリアの人達にも、肉自体の配給は行き渡るはずだけどね。


「美味しいのだ!象さんのお肉は最高なのだ! 」

「ばりうまなの〜、象肉うまうまなの〜! 」

「うおーーーーーー! 」


 焼き上がった肉串にかぶりついたリリイとチャッピーとニアは、すごい勢いで口に入れている。


 集まってきている住人達も、象魔物の肉の美味しさに驚きの声を上げていた。


「蛇さんも、いつもより美味しいのだ!」

「確かにそうなの〜」

「うおーーーーーー!」


 今度は蛇魔物の肉を食べたようだ。


 確かに今回は、いつもより少し美味しく仕上がっているかもしれないね。


 いつもは薪をくべて焼き場を作っているが、今日はなんと炭を使っているのだ。


 これは俺が最近作った炭なのだ。

 そう……炭焼きをやったのだ……ムフフ……。


 最近、急遽の炊き出しなどをする機会が多くなったので、簡単に火が起こせて美味しく作れる炭が欲しくなったのだ。


 霊域が悪魔の襲撃を受けて焼き払われた時に、中途半端に焼けていた木を大量に『波動収納』に保存していた。

 それを炭にしたのだ。


 大森林の迷宮前広場に、『マナ・ホワイト・アント』達に頼んで巨大な炭焼き窯を作ってもらったのだ。


 そのお陰で、炭を大量生産出来たのだ。


 元が霊素をたっぷり含んだ素晴らしい木なので、炭焼き技術が未熟な俺が焼いても、備長炭のような素晴らしい炭が出来てしまったのだ。


 今回の肉がより美味しく感じるのは、炭で焼いているからかもしれないね。


 サーヤやナーナ話では炭焼きをしている地域もあるようだが、手間がかかるのであまり普及していないそうだ。

 この辺では、拾った小枝や薪で調理をするのが普通らしい。


 でもやっぱり炭っていいよね……普及できないかな……。



 兎にも角にも肉串は大好評で、おかわりを求める声が次から次へと上がっている。

 完全に焼きが追いつかない状態になってきている。

 肉はいっぱいあるのだが……。


 しょうがないので、途中から焼き場をどんどん増設した。


 おかわりの人は、自分で焼いてもらうという焼肉スタイルに変更してしまったのだ。


 それでも人がどんどん増え続けるので、更に焼き場を増やし……という光景が、無限ループのように広がっていった……。


 俺が炭を取り出して簡単に焼き場を増やす姿を見ていたセイバーン公爵軍の兵士が、炭を少し分けて欲しいと言ってきたので、快く分けて上げた。

 確かに行軍の時、炭があったらかなり便利だよね。



 ある程度落ち着いたところで、俺達は領城へと引き上げさせてもらった。


 今回の襲撃事件の事後処理や捕縛者の尋問の為に先に戻っていたユーフェミア公爵達からも、色々と打ち合わせをしたいと言われていたからね。

 一段落したので、後の運営は兵士達に任せ、早めに領城に向かう事にしたのだ。


 ちなみに、この炊き出しをやっている間中、入れ代わり立ち代わりセイバーン公爵軍の兵士達にお礼を言われてしまった。

 そしてニアはもちろんだが、小さいながらに兵士達を守りながら戦ったリリイとチャッピーは兵士達の間で可愛いアイドルというか……ヒーローになっていた。


 凄く可愛がってもらっていた。

 軽くだが、剣の型なども教わっていた。

 前にも思ったが、やっぱり子供達にちゃんとした師匠をつけてあげたいものだ。

 剣術も凄い腕前になるかも……。

 いかんせん、自己流で天才的だからね。この子達……。




 

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