194.戦いの、後。
「これがあんた達の本当のメンバーかい? 女神の使徒達ってわけだね……。まさか『トレント』までいるとは……」
そう言いながら、ユーフェミア公爵が近づいてきた。
少しふらついているようだ。
「ええ、頼もしい仲間達です。ユーフェミア様、お怪我は大丈夫ですか? 」
俺も公爵の方に駆け寄る。
さっき大怪我をしていたはずだが……
よく見ると装備が痛んでいるだけで、傷自体は治っているようだ。
リリイ達が回復したのだろう。
ただかなり疲労していて、それでふらついていたようだ。
「ああ、大丈夫さ……。もっとも、あんた達がいなかったら…… 二回ぐらい死んでいたかもしれないね……ハハハハハハ」
そう豪快に笑ってみせたユーフェミア公爵は、やはり女傑である……。
「はじめまして、グリムさん。お陰で助かりました。私はセイバーン公爵家三女ミリア=セイバーンと申します。お会いできるのを楽しみにしていました! 」
少し疲れた顔をしていたミリアさんだが、元気に挨拶してくれた。
「グリムさん、お母様やミリアや兵士達が無事なのもあなたのお陰です。また大きな恩が出来てしまいましたわね。私の時もそうですが……あなたがいなかったら……」
走り寄ってきたユリアさんがそう礼を言いながら、途中から涙ぐんでしまった。
「まったく……私まで死ぬ所でしたわ。まさかセイバーン家全員があなた達に命を救われるなんて……一体どうやって報いたらいいのかしら……。わ、私も覚悟を決めるしか……なさそうですわね………」
最後にシャリアさんがゆっくり歩み寄って来た。
そして何故か顔が赤くなっている……
やはり麻痺だけじゃなく、毒のようなものも入っていたのだろうか……
発熱しているのかもしれない……。
俺はシャリアさんに近づき、念の為に『解毒薬』も手渡した。
手渡す時に少しふらついたので、腰に手を当て支えてあげたのだが、なぜかうっとりと見つめられてしまった……。
やはり毒か何かにやられているようだ。
俺は、さっきシャリアさんから抜いたトゲのような物を見せた。
「このトゲに麻痺薬以外にも塗られていたのかもしれません。可能なら分析した方がいいと思います」
そう言って手渡したのだが……あまり関心が無いようだった。
そしてなぜか……少し不機嫌な顔をされてしまった……解せぬ……。
「しかし……これだけの戦いで……よく一人も死ななかったものだ……。妖精女神の『誰も死なせない戦い』の伝説は本当だったようだね……」
ユーフェミア公爵が、兵士達を見渡しながら呟くように言った。
「マグネの街での一人も死者が出なかった戦いの話は、隣のセイバーン領でも既に有名なんですよ」
ミリアさんが、俺にそう説明してくれた。
確かに、今までは運良く死者が出なかったけど……
それが隣のセイバーン領まで広まっているなんて……。
それにしても今回も死者が出なくて、本当に良かった。
この前の『マグネの街』での騒動の時も、衛兵長や衛兵が何人か危なかったし、今回も兵士が何人か死んでいてもおかしくない状況だった。
誰も死ななかったのは、運が良かったとしか言いようがない。
いくら俺がチートでも、全てを守る事は出来ないし、即死されたら回復も出来ないからね。
それにしても……『正義の爪痕』……質が悪すぎる。
一気に殲滅する方法は無いものだろうか……。
まぁそれが簡単に出来たら、ユーフェミア公爵がやってるだろうけどね……。
みんなで一旦この場で、休憩する事になった。
何とかテロリスト達を撃退する事は出来たが、魔法や薬で回復したとはいえ兵士達も疲労困憊状態だからだ。
応援に来た部隊に周辺警戒と、倒した『死人魔物』『巨大魔物』の措置を任せる。
ちなみにリンは、見事『ゴリラ魔物』からスキルをドレイン出来たそうだ。
これで俺の使える『通常スキル』も増えるし、みんなにも『共有スキル』としてセットしてあげる事が出来る。
『鼓舞』と『威圧』……かなり使えそうだ……。
またもやグッジョブ! リン!
倒した巨大魔物の処置を聞かれたので、領都の人達の炊き出しに使う事にした。
『蛇魔物』二体、『象魔物』二体あれば十分足りるだろう。
他の魔物は、邪魔になるので回収してしまう事にした。
炊き出しで使う魔物の肉以外の部位は、公爵軍で自由に使って欲しいと言ったら、兵士達は嬉しそうな表情を見せていた。
やはり『象魔物』『蛇魔物』は素材として、人気があるようだ。
優れた武器職人に素材を提供すれば、良い武器に仕上げてくれるようだ。
ユーフェミア公爵もこのテロ騒動を頑張って切り抜けた兵士達に、素材を均等に配分すると宣言していた。
兵士達からは、一斉に歓声が上がっていた。
そして『死人魔物』の死体も、かなりの数あるのだが……
それについては、全て公爵軍に任せた。
魔物化した部分については、素材としても充分使えるはずである。
素材という観点で見れば、かなりの量になるのではないだろうか。
やはりその部分は有効に使うらしい。
魔物化した部分は素材として採取し、残りの人型の部分は埋葬するようだ。
緊急事態だったので、『トレント』のレントンや『ミミック』のシチミといった普段は偽装している者達が解禁されてしまった……。
まぁしょうがないね……。
特にシチミについては、『マグネの街』を悪魔から守った時にフルで活動していたからね。
今更という感じではある……。
“走る宝箱”の話は、かなり広がっていたはずだしね。
ユーフェミア公爵は……『トレント』に思い入れがあるようで、レントンに近づいて抱き上げると、優しく話しかけていた。
『トレント』は妖精族ではないが、人の言葉を話すと知られているようで、ユーフェミア公爵は躊躇なく話しかけていた。
俺は念話で、レントンに話す許可を与えておいた。
ユーフェミア公爵は相当レントンが気に入ったようで、しばらく抱きしめて離さなかった。
その後も、小脇に抱えて動いていたけど……。
もうペット状態みたいになっちゃってますけど……。
オリョウが念話で俺を呼ぶので行ってみると、飛竜達と話をしていた。
そういえば治療した後、そのままにしてたっけ。
この子達、逃げなかったのか……。
(ご主人、アチシ、この子達と話しちゃったわけ。この子達、助けてくれたご主人にマジ感謝してるって感じ。仲間になりたいって告られたわけ。この子達いれば、空も飛べるしマジ最高っしょ! )
オリョウがそんな事を言ってきた。
本当に仲間になりたいのかなあ……
「君達、もう自由だから好きにしていいんだよ。ほんとに仲間になりたいなら、もちろん歓迎するけど……」
俺がそう言うと、飛竜達はすぐに翼を二回広げた。
二回……もしや……
俺は『
……やはり『使役生物』になっていた。
(ご主人様、我々を首輪から解放していただき、ありがとうございました。これからお役に立てるように頑張ります)
『絆』リストに入り、念話が使えるようになった飛竜の一体が挨拶してきた。
(ありがとう。俺はグリム、よろしくね。でも自由にしてもいいんだよ。君達、無理矢理捕獲されたんじゃないのかい? )
俺がそう言うと、みんな目をうるうるさせた。
(我々は、野生の若い飛竜の群れでした。里から離れ新しいコロニーを作ろうとしていたところ、捕まりました)
(だったら、そこに戻ってもいいんだよ)
(いえ、強きご主人様と一緒にいたいのです。そして私達も強くなりたいのです。オリョウ
飛竜達は、みんな一斉に俺に向かって頭を下げた。
オリョウがどんな話をしたのかわからないが、本気で仲間になりたいようだ。
それにしても……
リリイとチャッピーは、
最近そういうの流行ってるんだろうか……。
この代表の子の話し方からしても、今までにないタイプな気がする。
何か……“育ちの良さ”のようなものを感じるが……。
(わかった。じゃあよろしくね)
こうして、飛竜達十体が仲間になった。
さて…… 当面どこにいてもらおうかな……
「あら……もうこの飛竜達テイムしちゃったの? ほとんど野生だったはずなのに……。さすが凄腕テイマーね。並みのテイマーには出来ない事よ。飛竜は生息地を見つける事自体が難しいし、辿り着く事も難しい。そしてテイムする事はもっと難しいのよ。卵から育てるのが一般的だけど、成体をテイムするなんて……ほんと何者なの? 」
シャリアさんが少し呆れながら近づいてきた。
「ええ、そんなつもりはなかったのですが、仲間になってくれたようです」
「まったく……そんなつもりがなくて、仲間に出来る人なんて……普通はいないのよ! 」
なんか怒られてる感じになってしまった……。
なんとなく……シャリアさんがニアっぽい……。
苦笑いしている俺を見て、シャリアさんが続けた。
「飛竜の乗り方や扱いは、私が教えてあげるわよ。この子達は領城に連れて行って、私のレディアスと一緒に専用の厩舎に住まわせましょう」
シャリアさんに教えてもらえるのは助かるね。ありがたい話だ。
ちなみに今回仲間になった飛竜達は、十体共黒い飛竜だ。
グレーの飛竜が一般的なようで、シャリアさんによれば黒は珍しいようだ。
シャリアさんのレディアスは赤で、赤の飛竜はより珍しいらしい。
俺は仲間になった飛竜達に、『共有スキル』などが知られないように、いつもの手順で『偽装ステータス』を貼り付けた。
そして人族の国で暮らす上での細かな注意事項は、オリョウが説明してくれる事になった。
オリョウは、ニアと『ライジングカープ』のキンちゃんの舎弟みたいになっていたが、自分に後輩ができて嬉しいようだ。
めっちゃ張り切ってる。がんばれ! オリョウ!
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