184.お屋敷の、使い途。
次に俺とサーヤは、前回のオークションで落札した時と同様に、新たに資産となった各物件を見て回る事にした。
今回も事前にサーヤが動いて、使用人達は全て待機してくれているようだ。
まずは大きなお屋敷からだ。
屋敷が二つになってしまったので、前回手に入れた屋敷を一号屋敷、今回の屋敷を二号屋敷と呼ぶ事にする。
一号屋敷の方は、皆と相談の結果『フェアリー商会』の本部として使う事にした。
本館を『フェアリー商会』の本部にする。
サーヤの話では、『フェアリー商会』の評判を聞いて商品を売り込みに来る者や、就職希望者等の問い合わせが相次いでいるそうだ。
だが窓口がわからず、衛兵隊や役所などに問い合わせが行ってしまっているらしい。
そこで問い合わせの受付窓口という意味も含めて、『フェアリー商会』本部を作る事にしたのだ。
総支配人のサーヤが不在の時は、執事のバンジェスさんに商会幹部として対応してもらう事にする。
それと別館のキッチンをパン工房にしようと思っている。
調理人の二人は俺に指示された柔らかいパン作りをがんばってくれて、かなり良いものが出来たのだ。
やわらかいといっても、やわらかめのフランスパン程度だが許容出来る範囲だ。
俺はこの“やわらかいパン”を使った新たな商品を考えているのだ。
それについては、明日手配する予定だ。
そして別館の使い方をもう一つ考えた。
昨夜思いついたのだ。
それは銀行事業だ。
避難民達の生活基盤作りの為の幅広い支援を考えて、行き着いた帰結だった。
いくら俺が頑張っても全ての人を雇用する事は出来ないし、全ての事業をやる事も出来ない。
今でさえ手を広げ過ぎているからね。
元の世界のコンサルタントが見たら、間違いなくダメ出しされるだろう。
全て丸投げとはいえ、これ以上は厳しい気がしている。
そこで新しく事業を起こしたい人に、資金を提供するいわば銀行を作ろうと思ったのだ。
ただ、銀行を作る為には貸付の原資となる膨大な資金が必要となる。
やろうと思えば金貨自体を『波動複写』でコピーして簡単に増やす事も出来るし、『テスター迷宮』で手に入れた古い時代の金貨も大量にある。
だがこれらはいずれも俺の自主規制の対象なので、余程の事がない限り使う事は無い。
実は、これ以外の使える資金がある事に気がついたのだ。
存在を完全に忘れていたが、昨夜『波動収納』のフォルダを見ていて思い出したのだ。
それは、悪魔化して死んだこの街の前守護ハイド男爵の屋敷から没収した、悪事用の個人資金だ。
リンが潜入して、没収してきてくれたものだ。
なんとなく俺のものにするのは違う気がして、そのままフォルダに入れて放置状態だった。
このお金を、この街の人の為に使う事にしようと思う。
役所に寄付する事も考えたが、守護屋敷に潜入して勝手に没収してきたとは言いづらいので、やめる事にした。
だからお金の入手先は不明にしたまま、この街の人達の為に使おうと思っている。
銀行事業はしばらくの間、無利息で貸付し、返済も五年間猶予しようと思っている。
つまり五年後から返済が始まるが、利息無しの元金のみの返済となる形だ。
したがって、この銀行事業は当面の間利益は出ない。
構造的にそういう事になる。
将来、利息を取るようになれば利益を出せるようになると思うが、しばらくは慈善事業なのだ。
それなりの人を配置しなきゃいけないので、人件費だけがかかる赤字事業になる。
まぁその赤字分もこの没収資金から出そうとは思っているが、いつまで資金が持つか分からないので他の事業の利益を回す必要が出てくるだろう。
リンはあの時、宝箱を三箱持ってきた。
三つの宝箱には、かなりの量の金貨と宝石類が入っていた。
宝石は一旦置いといて、金貨だけ集計してみると約七千枚つまり七千万ゴルあったのだ。
銀行をやる原資としてはかなり少ないが、まぁやれる範囲でやるしかない。
足りなくなったら、俺の資産から追加で提供しようと思っている。
預かり業務もやって、預金額が増えれば貸付の原資も増えるとは思う。
だが当面無利息貸付で収入の予定がない以上、預金に対する利息を払うと更に赤字が増える事になる。
そもそも構造的に厳しいのだ。
それに銀行というものに、お金を預けるという文化も無いと思うんだよね……。
もしかしたら大都市に行けば、あるのかもしれないが……。
まぁ慈善事業と割り切ってやるしかないと思っている。
そして貸付先に破産されても困るので、事業計画の承認だけでなくその後の事業運営についてもコンサルティングしようと思っている。
『金も出すけど、口も出す』というコンサルティング付き資金提供にしようと思っているのだ。
当面この部分は、俺とサーヤでやるしかないと考えている。
俺はこの後、領都に行ってしまう予定だが、転移でいつでも戻れるし連絡も密に取れる。
余程案件が多くならなければ、十分対応出来るはずだ。
他にも一号屋敷では、庭園の一部に美観を損ねない程度に、新たに薬草園が作られていた。
果樹も何本か新たに植えられていた。
前回俺が指示した事を、忠実に実行してくれていたようだ。
また屋敷の正門を入ってすぐのところに、受付を作る必要があるのでサーヤとレントンで受付棟を作るそうだ。
新たに資産になった二号屋敷に入る。
一号屋敷の南側に隣接しているのだ。
ここの敷地面積は、一号屋敷よりも少し広いようだ。
やはり本館と来客用の別館、使用人棟、庭園、厩舎という作りになっている。
この二号屋敷を、俺の邸宅にしようと思っている。
もっとも、基本的に住む事は無いと思うが……。
本館に入ると使用人達が一斉に出迎えてくれた。
執事はタバスという名前で、四十代後半の上品な雰囲気の紳士だ。
髪も黒々としていて若い印象を受ける。
この屋敷にはメイド長がいるらしく、ロッテンさんという三十代後半のスラット背の高いスレンダー美人だ。
そして二十歳のメイドの女の子が二人いる。
黒髪の可愛い感じの子がハイージ、金髪の美人さんがクラーラと名乗ってくれた。
料理人は三十代の女性二人で、ペタさんとユキイさんと名乗ってくれた。
下僕をしている一家がいて、この一家は屋敷の庭園管理や雑事を行いながら、農業エリアにある大きな果樹園の管理もしているとの事だ。
オンジーという六十代の大柄で寡黙な白髪の男性が、リーダーで家長だ。
その息子がヨゼフさんで、四十代でおっとりした感じの人だ。
茶髪とタレ目が印象的だ。
ヨゼフさんには息子が二人いて、背が低めだががっちりした体型の健康そうな二十代男性だ。 2人とも茶髪だ。
カタツとツムリと名乗ってくれた。
オンジーさんもヨゼフさんも奥さんが亡くなっていて、男四人で使用人棟で暮らしているようだ。
他には馬車馬が二頭いて、豪華な馬車とコモーが取り巻き連中と使っていた大型馬車があった。
もちろん馬車馬二頭は俺の『
特に問題のある人はいないので、全員に再雇用する旨を告げた。
そしてこの屋敷は俺の邸宅として使うが、ほとんど生活する事は無いので、 維持管理が主な仕事であると説明した。
また隣の一号屋敷の使い方も説明し、効率良い運営の為にお互いに協力して欲しいと告げた。
執事のタバスさんによれば、隣の屋敷の執事のバンジェスさんとは古い付き合いで、特別に親しいわけではないが面識もあるし、協力しながらの運営は全く問題ないとの事だった。
食事なども一号屋敷に集まって共同で取れば、まとめて調理出来るから効率的だよね。
俺は、二つの屋敷をショートカットで繋げる地下道みたいなものを、作ってあげようと思っている。
使用人達に、改めて今後の役割を指示した。
執事とメイド達には、この屋敷の維持管理全般をしてもらう。
料理人の二人には一号屋敷に作るパン工房で、一緒にパン作りを担当してもらう事にした。
もちろん両屋敷の使用人達の食事も作ってもらう。
下僕の一家には引き続き、庭園の管理と広い果樹園の管理をお願いする事にした。
庭園には一号屋敷と同様に、美観を損ねない程度に薬草園を作る事と、自分達で食べる野菜を作れる程度の菜園を作るように指示をした。
それから果樹園については、果樹の下で今後生まれる大王ウズラの飼育もするように指示した。
最初不安な表情になっていたが、大王ウズラを飼育する事の利点を説明したら納得していた。
草刈りをする必要がなくなる事と、果樹を傷つける心配は無いという事を説明した。
卵を拾わないといけないので、その分は仕事量が増える可能性がある。
大変になった場合には、新たに人を雇用するつもりなので安心して欲しいと伝えた。
一家は、俺が作った大王ウズラの巨大飼育場を見物していたらしい。
街でも、結構噂になっているようだ。
興味を持っていたらしく、飼育出来る事が嬉しいようだ。
一号屋敷の使用人達にも言ってきたが、相互に協力し合いながら、仲良く仕事に当たってもらいたいと念を押しておいた。
変な縄張り意識を持たずに助け合えば、少ない人数でも良い仕事が出来るだろうし、何より楽しいと思う。
次に俺はオンジーさん達に案内してもらい、果樹園の視察に向かう事にした。
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