146.二人目の、公爵令嬢。

「危ないところを助けていただき、ありがとうございます。私はセイバーン公爵家次女のユリア=セイバーンと申します」


 セイバーン公爵家次女……

 という事はシャリアさんの妹……

 シャリアさんとは違うタイプの優しい感じの美人だ。

 アンナ夫人や夫人の長女のソフィアちゃんと同じ薄青色の髪をセミロングにしている。


「私はピグシード辺境伯領のマグネの街で、テイマーと商人をしておりますグリムと申します」


 俺がそう挨拶すると、ユリアさんは大きく頷いて……


「まぁ! では、あなたが……。あなた方の活躍は母や姉より聞いております。そしてニア様と使徒の皆様ですね。本当に助けていただき、ありがとうございます」


 ユリアさんは、そう言いながら貴族の礼で感謝を表してくれた。

 兵士達は全員跪いている。


「そんなに畏まらないで。危ない人を助けるのは当然だから。ところで公爵家のお嬢様がなんでこんなところにいるの? 」


 ニアは相変わらずマイペースに疑問をぶつける……


「はい、この度ピグシード辺境伯領の再編に伴い、トウネの街の関所を封鎖する事になっております。

 今後この関所は、我々セイバーン公爵領の関所の街であるホクウルの街で閉門管理する事になりました。その手配の為と……この東の端からピグシード辺境伯領の領都を目指しながら、市町で移民誘導の手助けをする予定なのです」


 ユリアさんが目的を掻い摘んで教えてくれた。

 関所門の確実な封鎖のみならず移民の誘導までしてくれるとは、ありがたいことだ。


 セイバーン公爵家は、この領でも人気があるようだから、啓蒙してくれれば移動する領民が増えるのではないだろうか。


「じゃあユリアさんもこれから領都に行くの? 」


「ええ、そうなのです。時間をかけながら、ゆっくりの行軍になると思いますが……」


 ユリアさんは、ニアの質問にそう答えながら俺に視線を移したので、軽く微笑み返した。


 なんとなく一緒に行こうと誘われそうで怖い……

 一緒の行動になっちゃうと、サーヤの転移が使えないから、めっちゃ時間がかかっちゃうんだよね。


 そんな雰囲気を誤魔化す為にも、俺は仲間達を紹介した。


「お姉ちゃんは、シャリアお姉ちゃんの妹なのだ? 」

「ユーフェミア叔母ちゃんの子供なの?」


 リリイとチャッピーがモジモジしながらユリアさんに話しかけた。

 話すタイミングを待っていたようだ。

 ユーフェミア公爵やシャリア嬢にすっかり懐いていたからね。


「そうよ。お姉様やお母様とずいぶん仲良くなったようね」


 ユリアさんが目を細めながら、優しく二人に答えてくれる。


「そうなのだ。もう仲良しなのだ」

「そうなの〜。大好きなの〜」


 二人とも満面の笑みだ。


「そうなの、じゃあ私とも仲良くしてね。ユリアお姉ちゃんて呼んでね」


 ユリアさんが二人の頭を撫でながら、膝を落とし同じ視線になる。


「わかったのだ。ユリアお姉ちゃん」

「わかったなの〜。ユリアお姉ちゃんなの、大好きなの〜」


 二人ともユリアさんに抱きついた。

 ユリアさんが破顔している。子供が好きなようで良かった。


「それにしても、二人とも凄いわね。あんな大きな蛇の魔物を倒しちゃうなんて。二人はお姉ちゃん達よりも強いかもね」


「そうなのだ。リリイは強いのだ! 悪い奴隷商人や魔物をやっつけて困ってる人を助けるのだ! 」

「チャッピーも強くなったなの〜。みんなを助けてあげるなの! もっと強くなるなの〜」


 二人が鼻息を荒くして胸を張っている。


「グリムさん、この二人はあなたが鍛えられたのですか? 」


 俺の方に視線を上げるユリアさん。


「鍛えたというか……一緒に努力しただけです。この子達が死なないように……」


 あまり良い答え方が浮かばなかった……。


「なるほど……そうですね。小さな子でも、その子のことを思えばこそ、強く鍛えた方が生き残れますものね……」


 ユリアは顎に手を当てながら深く頷いている。

 やはり子供が戦う事に抵抗があったのだろうか……。


「ユリアお姉ちゃんも強いのだ? 」

「シャリアお姉ちゃんと同じ位強いなの? 」


 二人が興味津々の視線を向ける。


「そうね……まだシャリア姉様には敵わないけど、私だって強いわよ」


「じゃぁ、一緒に訓練するのだ! 」

「チャッピーも一緒にやるなの! 」


「そうね。今よりもっと強くなって、人々を守れるように頑張りましょう! 」


 なんか三人で盛り上がり出した。

 ユリアさんもリリイ、チャッピーと仲良くなってくれそうで良かった。



 俺は倒した魔物の処理について聞かれたので、ユリアさんに任せた。


 セイバーン公爵領の領境の街に象魔物と蛇魔物を一体ずつ与えたようだ。


 そしてこれから行くピグシード辺境伯領のトウネの街にも同様に象魔物と蛇魔物を一体ずつ与えるようだ。


 残りについては、俺達が倒した魔物なので魔法のカバンなどを持っているなら、持ち帰って欲しいと言われた。


 このまま放置して腐らせてもしょうがないので、俺は魔法のカバンに収納するふりをしながら、『波動収納』に回収した。


 もっとも魔法のカバンに収納した事も、かなり驚かれてしまった。


 これだけの物量を一つの魔法カバンに収めるのは、通常ありえないことのようだ。


 一般に普及してる下級の魔法カバンでは無理で、最低でも中級の上物以上、通常は上級ランクの魔法カバンでもないと無理な芸当をしてしまったようだ。


 俺はやらかしてしまったらしい……。


 こういう不自然な事をしまった時は……妖精女神様に頼るしかない……。


 俺は作り笑顔で、妖精族の上級魔法カバンを借りていると誤魔化した……。


 ちなみに蛇魔物は、以前に倒した蛇魔物と同様に牙、骨、皮など食べる以外でも使える部分が多く、換金性も高いようだ。


 そして聞いた話によると、象魔物は更に換金性が高いらしい。

 肉も美味しいし、骨も頑強で色々な物に加工出来るそうだ。

 牙……いわゆる象牙は武器や防具、アクセサリーにも使えるらしい。

 加工しやすい素材で魔力も通しやすく、魔法道具の素材にも使えるとの事だ。

 そして象の皮は鎧のように固いことから、革鎧はもちろん、様々な防具や製品に加工できるらしい。


 蛇魔物は十メートル以上あるし、象魔物は通常の象の三倍以上あるドデカさだ。


 魔物を配給されたセイバーン公爵領の領境の街では、歓声が上がりお祭り騒ぎの様相を呈していたと届けた兵士達が報告していた。


 これから行くトウネの街でもおそらくお祭り騒ぎだろう。


 ただ人口が大分減っているし、食べ切れないかもしれないね。


 解体や処理などは、公爵軍の兵士も手伝うようだ。

 余った肉は、今後の道中の食料にするつもりらしい。


 魔法のカバンもいくつか持っているようなので、食べた残した肉等は十分収納出来るとの事だ。


 俺達もトウネの街まで一緒に戻り、解体の手伝いをすることにした。


 もう日が暮れてきて、今から出発するのは不自然な時間帯になってしまったので、このままユリアさん達と一緒に宿泊することにした。


 すっかりユリアさんと仲良くなったリリイとチャッピーは大喜びだった。


 後は、いつも通り気さくなサーヤと自由気ままなニアが入り、女子会のような状態になっていた。


 やはり俺は微妙な感じで空気と化していたが、そのうち公爵軍の兵士達が話しに来てくれたので、忙しくなった。

 そして酒を飲みながら、結構盛り上がった。


 セイバーン公爵軍の皆さんは精鋭部隊ながら、威張ったような人や嫌味な人がおらず、気さくな良い人達だった。


 ユーフェミア公爵の指導が行き届いているのだろうか……。

 とても好感の持てる人達だった。


 そして酔いが回ったのか、ユリアさんが途中から俺に絡んできた。

 どんなタイプが好みかとか、好きな色とか、好きな食べ物とか、妻は何人持つ予定かとか、サーヤとどういう関係かとか、なんかもう……色々質問攻めにあった。


 俺に興味があるというよりは……話題を作る為に訊いているという感じだと思うが……。

 上級貴族のお嬢様だし、異性と話すことに慣れていないのではないだろうか。


 いずれにしろ、ユーフェミア公爵をはじめセイバーン公爵領の人達は、みんな素敵で俺は大好きになった。




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