144.大王ウズラ、ゲットだぜ!

 翌日も俺達は、午前中ソーセージ作りに励んだ。


 ただ今日は、『フェアリー亭』の手伝いは無い。


 昨日の孤児院の子達が優秀だったので、今日はその子達で大丈夫のようだ。


 俺はすぐにソーセージ工場を稼働させることにした。


 新設した『フェアリー商会』だが、会頭は俺で、ニアは顧問という形になっている。

 そして実務を取り仕切る支配人は、またもやサーヤにお願いするしかなかった。


『フェアリー牧場』の支配人もサーヤなのだが、こちらはミルキーに変更した。

 サーヤの話では、ミルキーはその明るい人柄で、スタッフみんなに好かれているようだ。


 牧場の幹部候補して採用した経験者の三人娘との相性も良いようで、人の雇用が落ち着いたら、牧場の通常運営はミルキーと三人娘で問題なさそうとのことだ。


『フェアリー商会』の支配人は、良い人材が採用出来るまでサーヤにお願いすることにした。



 今、サーヤ、ミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキーは、仮設住宅エリアでソーセージ工場のスタッフ雇用に着手している。


 残りのメンバーは、俺と一緒にソーセージ工場づくりだ。


 いつものように、レントンにログハウス型の建物を作ってもらう。


 今回は住宅でなく工場なので、かなり大きなサイズにした。

 千平方メートル(三百坪)の加工場で、流れ作業のラインが構築できるように横長の作りにした。

 その加工場の隣に、肉の解体・処理スペース約三百坪を整備した。

 その更に隣には、千平方メートル(三百坪) の事務所(従業員の食堂含む)を建てた。


 建物や中の作業台等は、レントンがあっという間に作れるので、すぐに設置できた。

 トイレや水回りは、サーヤの種族固有スキルで設置してもらった。


 ちなみに井戸も、レントンが植物の根を操って、瞬く間に掘ることが出来るのだ。


 あと必要なのは、ミンチにする為の包丁や裁く為の大包丁など道具類だ。


 ある程度の数が必要なので街の金物屋で購入しようと思ったのだが、ナーナが『武器作成』スキルで作ってくれた。

 オリ村で大量に魔物を解体した時に貰った魔物の牙や爪を利用して、ミンチ包丁と大包丁を何種類か作ってくれたのだ。





  ◇





 早速、午後から工場を稼働してソーセージ作りを始めた。


 とりあえず十人、サーヤが採用してきてくれた。


 みんな性格が良さそうな人達だ。


 牧場で採用した人達もそうだった。

 サーヤは人を見る目もあるようだ。


 また俺の『財宝発掘』スキルは、適用範囲が拡張されて“人材”の発掘にも効いているはずなので、今後も素晴らしい人材が現れてくれると期待している。


 それにしても、大森林の『アラクネ』のケニーといい、サーヤといい、俺は本当に優秀な仲間に囲まれて幸せ者だ……。



 ちなみに『フェアリー牧場』もそうだが、この『フェアリー商会』でも雇用する人には、雇用契約の時にサーヤの契約魔法で秘密保持契約を結んでもらっている。


 ソーセージのレシピなんかもサーヤ独自の工夫のものだし、外部に流出しない方がいいからね。

 もっともサーヤは、あまり秘密にする気は無いようだが……。


 この世界では、特許等の権利は発達していないようなので、独自のノウハウを守る為には必要な処置だと思っている。



 サーヤとナーナはもちろんだが、すでにソーセージ作りが熟練の域に近づいているミルキーと妹弟達も当面指導に当たる予定だ。

 ちなみに家精霊であるナーナは、『家馬車』を加工場の近くに置けば、ある程度の距離までは動けるのだ。


 これでソーセージの方は、目処が立った。


 後は、もう少し人を雇用出来るように、新しい加工食品を考案しよう。


 これも考えるとワクワクしてくる……楽しみだ!



 あと『フェアリー亭』の安定運営の為にクリアなければならないのは……卵の問題だね。


 もう少し時間が経てば、うちの烏骨鶏達だけでも、何とかなりそうな気がするけど……。

 繁殖して数が増える予定だからね……。


「大王ウズラの卵がいいのだ! おいしいのだ! 前に、お婆ちゃんと一緒に飼っていたのだ」


 卵の話をしていると、突然リリイがそんなことを言いだした。


 どうも以前、大王ウズラという鳥を飼っていて卵を食べていたらしい。


「大王ウズラ……確かにいいかもしれませんね。卵一個が大きいし、美味しいんですよね」


 どうやらサーヤも知っているようだ。


 でもどこで手に入るんだろう……。


 サーヤの話によると……


 大王ウズラは、俺の知っているウズラを中型犬位のサイズに大きくした鳥らしい。

 家畜ではなく野生動物のようだ。


 たまに捕まえて馴らした人が、家で飼育して卵を採っているとの事だ。

 鶏のように毎日卵を産んでくれるらしい。


 市場に出回る事は、ほぼないらしい。


 野生動物という事は、どこかで捕まえなくてはならないはず……

 どこにいるのだろう……


 リリイも、サーヤも生息場所については心当たりは無いようだ。

 大森林の『アラクネ』のケニー、霊域の『ドライアド』のフラニー達にも尋ねたが、大森林と霊域には生息していないようだ。


 俺は『絆通信』を使って、このピグシード辺境伯領の各市町を守っているスライム達に呼びかけてみた。


 大王ウズラの特徴を上手く伝えられた自信はないが……どこかに生息地がないかを訊いてみたところ、早速反応があった。


 このピグシード辺境伯領の東のはずれの街、トウネの街を巡回警備しているスライム達からの連絡だった。

 どうもその近辺に大王ウズラらしき鳥の生息地があるらしい。


 俺達は早速サーヤの転移で、トウネの街の近くに設置した転移用のログハウスに移動した。





  ◇





 スライム達に案内された場所には………


 なんと! 大王ウズラ達が勢ぞろいで集まっていた。


 ……はて……?


 どうもスライム達が集めてくれたようだ。


 スライム達はどんな動物とも仲良くなれるのだろうか……


 この世界の生き物、“スライム最強説”が俺の中でまた一つ裏付けされているが……。


 俺は今度こそ『テイム』スキルの『集団テイム』コマンドを使ってみようかと思ったのだが……

 なんとなく……いつものように訊いてしまった。


「俺の仲間になってくれないか? 」


 すると……


「「「グエッゴー、グエッゴー」」」


 一斉にそう鳴いた。


 リストで確認すると、やはり仲間になってくれたようだ。


 念話で会話してみる。


(俺はグリム、仲間になってくれてありがとう。できれば俺と一緒に来てくれないか。人間の街で暮らして欲しい。ここよりもはるかに安全な場所で生活できるし、命を奪って食べたりしないよ。ただ、卵を分けて欲しいんだ)


(強きご主人様、配下にお加えいただき、ありがとうございます。喜んでお供いたします。我らが安全に暮らせるのであれば人族の街でも構いません。ご主人様を信頼いたします)


 ということで、新たに仲間になった大王ウズラ達を連れて帰ることにした。


 全部で百七十三羽仲間になった。


 とりあえず飼育場所ができるまで、一旦霊域に移ってもらった。


 今後霊域に二十羽、大森林に二十羽残して、百三十三羽はマグネの街で飼育しようと思う。


 『フェアリー牧場』に移そうかとも思ったのだが、トルコーネさんへの卵の供給を考えるとマグネの街の方が良いと思ったのだ。

 新しく購入した北の壁沿いの土地の西側のサーヤの敷地に隣接する部分に、大王ウズラ達のスペースを作ろうと思っている。


 ただ一羽が中型犬位のサイズがあるので、この西側の新購入エリアは、ほぼ大王ウズラのスペースになってしまうかもしれない。


 大王ウズラ達を送り届けたサーヤが戻って来るのを待って、俺達はトウネの街に向かった。

 せっかく来たので、少しだけ街の様子を見ることにしたのだ。


 最東端のこの街にも、領都からの通達が届いたようで、移動する人達が準備をしていた。


 ただ、文官さんの話によれば、移りたがらない人も結構いるようだ。


 それはそうだよね……。

 長年暮らした場所だもんね。


 領の方針は移動勧告であり、事実上の強制ではあるが完全な強制では無いらしい。

 危険を承知で残る人には、自己責任ということで無理強いしないようだ。


 そしてこの街は、実はセイバーン公爵領に繋がるもう一つの関所の町でもある。


 この街からもセイバーン公爵領に入ることが出来るのだ。


 ただ今回の復興方針で、当面この関所は閉門されることになったようだ。


 門を出たところのセイバーン公爵領内にも、領境門を管理する街があり、今後はその街で閉門維持と管理をしてくれるらしい。


 そんな時だ———


 ———ボウンッ


 突然、大きな爆発のような音が響いた———




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