69.変身! ゆるキャラ三人衆。
『爪の悪魔』に向かうアリリの前にさらに立ち塞がる者がいる。
二体の『中級悪魔』だ。
「アリリ姉さん、緑の方は俺たちに任せてくれ!」
後を追ってきた『スピリット・ブルー・スワロー』のヤクルが、アリリに声をかける。
後には『スピリット・レッド・フォックス』のオアゲと『スプリット・グリーン・ラクーン』のオテンも続いているようだ。
「『赤の中級悪魔』は、私が手伝いしましょう」
『スピリット・エルク』のメリクリが、アリリの横に並ぶ。
ヤクル、オアゲ、オテンは、『緑の中級悪魔』を取り囲む。
当然、『緑の中級悪魔』の方が格上であるが、三体で協力して仕留める気なのだ。
それぞれに、攻撃を繰り出し、それが連続し波状攻撃となる。
『緑の中級悪魔』は、それほどスピードや回避能力があるわけではなく、筋肉とそれを生かした風圧攻撃がメインである。
一撃の必殺の力は無いものの、動きの素早い三体は、的確に攻撃を当て、“ヒットアンドアウェイ”の戦法で戦っている。
ところが、『緑の中級悪魔』には、旺盛な再生能力があった。
いくら攻撃を当てて傷つけても、すぐに再生してしまうのだ。
通常攻撃では、らちがあかない……
むしろ時間がかかり体力奪われるほど不利になる……
そう悟った三体は、念話で打ち合わせする。
三体同時の種族固有スキル発動で、一気に片をつける作戦に出るようだ。
だが『緑の悪魔』も黙っているわけではなく、攻撃を繰り出す。
脈絡の無い滅茶苦茶な攻撃が逆に、三体のスキルを同時発動させない状況を作る。
ヤクルたちは、素早い動きで的確に攻撃を避けるが、風圧刃だけでもダメージと傷を蓄積させていく。
「仕方がない。俺が先に奥の手を出して、時間を稼ぐ。できるだけ早く頼むよ。俺一人じゃ、どれだけ抑えられるか分からないから」
ヤクルが最初に種族固有スキルを使うようだ。
「『
そう叫ぶと、赤茶色の水流がヤクルを飲み込み、巨大な球状になり地上に降り立つ。
激しい水しぶきを伴い、水球がはじけると、中からずんぐりとした体型で手と足がついたヤクルが出てきた。
ファイティングポーズをとっている。
ツバメの形態から、格闘戦仕様の人型へのフォームチェンジだった。
この種族固有スキルは、物理攻撃力の大幅強化とともに、闘争心にも火をつけるバトルジャンキーモードでもあった。
「この姿なら、殴り合いでも負けないぜ! 必殺! パンチ&ダンシングステップ!」
筋肉質で物理攻撃主体の『緑の中級悪魔』に対して、なんと互角以上の殴り合いをやりだすヤクル。
この隙を突き、オアゲとオテンが種族固有スキルを発動するようだ。
オアゲの種族固有スキルは『
これは、5分間だけ強力な変身能力が使えるというものである。
「へんしん!」
叫びながら手をクロスさせ、変身ポーズを決めるオアゲ!
まるでバイクに乗ったスーパーヒーローのような変身エフェクトが展開する!
上空に謎の巨大ヤカンが現れると……
蒸気を発するお湯のような液体がオアゲに降り注ぐ!
その液体がオアゲを包み込むと……
……オアゲはそれを吸収し大きく膨らむ。
一瞬で、ヤクル同様ずんぐりとしたマスコット体型の人型に変身した。
やはり物理攻撃に特化した仕様で、ずんぐりとした体型で攻撃のダメージを吸収し受け流す。
防御を気にせず、攻撃に専念できる形なのだった。
そして、オテンの種族固有スキル『
同系統のスキルらしく、オアゲの時と同様の変身エフェクトが展開する。
オテンも、体が大きくなり、ずんぐり肉厚のマスコット体型になった。
これで三体の格闘特化マスコットの完成である……。
そして彼らは、ずんぐり体型の肉厚防御を活かし、ダメージ無視の正面攻撃を仕掛ける。
『緑の悪魔』の攻撃を気にも留めず、ただただ殴りに行く。
三体で囲んでタコ殴りである。
この攻撃では、『緑の悪魔』の再生力も追いつくはずがなく、腕や足のない状態となり、完全に追い詰められていた。
それ故か、『緑の悪魔』は言ってはならない一言を言ってしまったのだった。
「なんなのだ! 貴様たちは! この忌々しいペンギンめ!」
「ぺ、ペンギン………お、俺は……ペンギンじゃねーーー!」
怒りに我を忘れたヤクルは、猛烈なラッシュを仕掛ける。
パンチ、パンチ、パンチ、パンチ、パンチ、パンチ、、、パンチパンチパンチパンチパンチパンチパンチ!
再生する隙を与えずに、パンチは顔面を消し飛ばす!
最後のラッシュは、顔面に何十発も入ったようだ。
物理特化の『中級悪魔』を力業で屠ってしまったのだった。
全くゆるく無くなった“ゆるキャラ”は、恐ろしく凶暴なマスコットになっていた。
燕に誇りを持っている彼にとっては、ペンギンと間違われることが、まさに逆鱗であったのだ。
オアゲとオテンは、『緑の中級悪魔』がペンギンと言った瞬間に「あちゃー終わった」と思いつつ、見守るほかなかった。
それぐらいヤクルの動きは、いや、怒りは、圧倒的だったのだ。
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