17.果物、美味! ミカン編
ニアたちが目を覚ましたようだ。
俺は、おはようの挨拶を交わし、『共有スキル』をセットしたことを簡単に説明した。
俺のスキルの内容が微妙過ぎたせいか、特別のリアクションはなかった……。
気をとりなおして、みんなで朝ごはんにしよう。
……といっても、マナップルしかないけどね……。
そう思っていたところに、『アラクネ』のケニーがやってきた。
なにか持っている。
「あるじ殿、貢物にございます。お口に合えば良いのですが」
そう言うと、みかんを一回り大きくした果実と、大きな葉っぱのカゴに入れたラズベリーのようなものを持ってきた。
「ちょうどよかった、お腹が空いてたんだよ。ありがとうケニー」
笑顔で礼を言うと、ケニーは嬉しそうに、二本の触脚をツンツン合わせていた。
やっぱり嬉しいとツンツンするらしい……かわいいヤツめ。
早速、『波動鑑定』してみると……
『マナウンシュウ』——身体力回復効果のある天然の霊果。魔法薬や霊薬の素材になる希少な果実。特に皮は用途多数。栄養も豊富。
おお……またすごいのきた!
でも……これ……どう見ても温州ミカンが元だよね。
通常の温州みかんの倍ぐらいの大きさになってるけど。
ミカンの皮も“陳皮”といって漢方薬の一つだし。
きっと美味いはず!
ミカン大好きおじさんとしては嬉しい!
葉っぱの籠に入ったベリー類は、赤黄黒と三種類あるようだ。
こちらは普通のラズベリー、イエローラズベリー、ブラックベリーのようだ。
よしじゃあ食べよう。
そうだ、“いただきます”をしよう。
俺はみんなに自然の恵みや、命に感謝して食べ物をいただくという意味の“いただきます”という言葉を教える。
「「「いただきます」」」
みんなで“いただきます”をした後、俺は早速『マナウンシュウ』を食べてみる。
普通の温州ミカン同様、皮が薄くてむきやすい。
一房口に放り込む。
大きいから一房で口がいっぱいになる。
噛んだ瞬間——果汁が溢れ出す!
まるでジュースだ!
すごい!
ほんとに飲み物の代わりになりそうだ。
甘みだけでなく酸味もあってバランスが最高だ!
例えるなら、極早生ミカンを濃厚にした感じだ。
極早生ミカンは、温州ミカンの中でも酸味が強く俺好みなんだが、それを極上、濃厚にした感じだ……
つまりは……めっちゃうまい!!
グッドジョブ! ケニー!
思わずケニーに向かって親指を突出していた。
ケニーはキョトンとしていたが、俺が満面の笑みだったので、褒められていると理解したらしく、また触脚をツンツンさせていた。
ニアにも一房渡してあげると、両手で抱えながら齧り付いていた。
あふれ出した果汁で顔がビチャビチャになっていたが、そんなことはお構いなしで、無言で食べ続けていた。
これまた食レポとしてアウトだが……。
本当に美味しいと、何も言葉は出ないものなのかもしれない……。
リンとシチミは丸呑みしていたが、こちらも気に入ったらしく、リンは三回バウンドし、シチミは蓋を三回開閉させていた。
君たち……本当わかりやすくていいよね。
しかしなぜに嬉しい時は三回なのだろう……。
ケニーは二十個くらいマナウンシュウを持ってきてくれたのだが、みんなであっという間に食べてしまった。
一個がミカンの二倍以上の大きさで、かなり食べ応えがある。
おかげでお腹いっぱいになり、ベリーが食べられなかった。
これはお昼にでも食べよう。
このミカン、もうちょっと欲しいな……
そう思ってケニーに訊いたところ、少し行ったところに、千単位で実の成る大きな木があるとのことだった。
みんなで行ってみることにした……
十分ぐらい歩くと……
そこには、巨大なマナウンシュウの木があった。
高さは五メートル以上ありそうだ。
上の方が見えないから、本当はもっとあるかもしれない。
確かに、一つの木に実が千個くらいありそうだ。
この大きな木が目に見える範囲だけで、十本くらいはある感じだ。
ということは……
多分一万個くらい実があるということか……
いったい樹齢何年なのだろう……
凄く立派な木だ。
俺は思わず手前の木に、そっと手を当てる……
……何か心が落ち着く……
……何か感じる……
……何か……何か……体に染み込んでくる……
……木と一体となっている気がする………
……手のひらと木の接地面の感触がない……
……まるで一つになったようだ……
……………………………………………
……危うく意識が飛びそうになった。
本当に凄い木だ。
ここの空気はひときわ清浄な気がする……。
まるで神社にある御神木、そうパワースポットにいるような感じだ。
この木にもたれかかって、眠りたい。
そんな衝動に駆られる素晴らしい木だ。
樹木自体の息吹が強く感じられる。
「さぁみんなで収穫しようか」
俺が声をかけると、みんな楽しそうに収穫を始めた。
ニアは、マナウンシュウの実につかまって、ぶらぶら遊んでいる……
全く収穫する気は無いようだ……。
なんかすごく楽しそうだし……まぁいいか……ほんと自由な人だよね。
リンは、弾みながら、うまくマナウンシュウの実を体に取り込んでいる。
かなりの早業だ。
昨日のマナップルの収穫が早かったのも頷ける。
元の世界にも、リンちゃんがいてくれたら収穫作業がめっちゃ楽だったのに……
シチミは無理に木に登ろうとせず、黙って見ている。
というよりも、木にベタベタ触っている。
やはり俺がさっき感じたように、木のエネルギーのようなものを感じているのだろうか……。
『アラクネ』のケニーは、指から糸を出して器用にマナウンシュウの実を収穫している。
ぶら下がっているヘタの部分に、百発百中で命中させる精度は素晴らしかった。
俺が褒めると、ケニーは少し頬を赤らめて触脚をツンツンさせていた。
そして、両手とお尻から同時に糸を出し、一瞬で大量収穫するというすご技も披露してくれた。
多分、褒められたのが嬉しくて、より頑張ったのだろう。
……かわいいヤツめ。
結局まともに収穫作業したのは、リンとケニーだけだった。
いくらでも採っていいような気もしたが……とりあえず五百個だけにした。
また必要になったら採りに来ればいいし、楽しみは取っておく……。
ケニーの話では、実は熟しても、なかなか落ちず相当期間ついているらしい。
焦って収穫する必要は無いとのことだ。
前の世界でも、こんな樹上保存性のいいミカンがあったら、みんな大喜びだったろうに……。
収穫した『マナウンシュウ』は、もちろん俺の『波動収納』にしまった。
昨日の『マナップル』と『マナウンシュウ』だけで、しばらくは食べていけそうだ。
ニアの発案で、ベリー類も確保しておこうということになり、ケニー先導のもと、みんなで歩いて採りに行くことにした。
さぁ、今度はベリー狩りに出発だ!
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