第5話 キャンス王国の儀式
「では、こちらに王が追わします。どうぞ」
騎士は扉を開ける。コブラとキヨは緊張感で生唾を飲む
「ようこそ、キャンス王国へ。オフィックスの使者の皆さま」
コブラとキヨは声の主を探して辺りを見渡してしまう。視界の下の方に小さな男がコブラとキヨを見上げていた。
「えっと……」
キヨとコブラは想定していなかった事象に思わず固まってしまう。
「はっはっは。そうなるのも仕方ないねぇ」
目の前の王は朗らかに笑みを浮かべる。コブラとキヨはまだ驚いている。
目の前の王は顔こそ老けており、髭も蓄えているが、身体は子どものようなものであった。
「私の名はクラブと言います。特異な体質でしてねぇ。我が王族は代々このように身体の成長が止まるのですよ。ハハハ、髭は出てしまうのですが……」
小さな身体に老いた肌はコブラとキヨが見慣れておらずいまだに困惑する。
「さて、では改めて証明書をお見せいただきましょうか」
まだ困惑している二人に咳払いをして手を差し出す。コブラは慌てて証明書をクラブ王に手渡す。それを受け取ったクラブ王は証明書をじっくりと熟読する。
「はい。確かに。オフィックスから太古の儀式『星巡り』のための使者であると確認致しました。コブラ様、キヨ様」
書類を確認した後、深々と頭を下げるクラブ王。
「あっ、お、王よ。頭を下げないでください」
突然の行為にキヨは慌ててしどろもどろになってしまう。
コブラも今までの星術師たちとは少し違う雰囲気に不思議そう頭を下げる彼を見つめた。
「いえいえ、星巡りをなさっているあなた方はオフィックスにとっては重大な方であります。中央国での重役は持て成さなければなりますまい」
ゆっくりと顏を上げるクラブ。それでも身に纏っている金属類がジャラジャラと音を立てる。
「重要? 俺たちが?」
コブラは口を挟む。キヨはすぐにコブラの頭を叩いた。
「言葉遣いに気をつけなさい!」
「ちぇ」
目の前で友をはたくみっともない姿を見せているのはお互いさまであろう。とコブラは釈然としないままキヨを睨みつける。
クラブは、コブラとキヨの様子に首を傾げた。
「あなた方は、星巡りにいらしたのですよね?」
「え、えぇ」
キヨは戸惑いながらクラブの言葉に答える。そんなキヨの表情にさらにクラブは首を傾げる。
「では、コブラ様か、キヨ様。この場合はコブラ様が王位を継承するための儀式なのでは?」
「「えっ?」」
クラブの言葉にコブラとキヨは目を丸くした。コブラもキヨも、そんなことはまったく聞いていない。きっとヤマトも聞いていないであろう。
コブラとヤマトは国を守るための儀式として『星巡り』を行うのだと聞いていた。仮に王位を継ぐ儀式ならば、コブラにもヤマトにもそれを行う資格はない。
「すみません。クラブ王よ。その話、もう少しお聞かせいただけないでしょうか?」
キヨはクラブ王に跪き、顏を下げ、懇願するように問いかける。コブラも急いで真似をする。
「今はこのような不躾な恰好をしておりますが、このキヨ=オフィックス。先代王ヤクモ=オフィックスの一人娘でございます」
クラブ王は納得したかのようにほうほうと頷く。
「なるほど。確かに私が昔見たヤクモ=オフィックスと同じ赤の髪だとは思っていたのです。しかし……先代とは、どういうことでしょうか?」
「父は……亡くなりました。今は家臣の一人であったミッドガルドが王として国を守っております」
キヨはちらりとコブラの方を見る。コブラもキヨと目が合い、彼女が自分に何を求めているのかすぐわかり、体勢はそのままにクラブ王を見つめる。
「我が名はコブラと申します。元は名もなき孤児であり、国に対して罪を犯し続けていたのですが、オフィックス王の恩赦により、この『星巡り』の儀式を遂行しております」
「そうだったのですか……。私も詳しくは知らないのですが、前回星巡りに来られたのは確かにオフィックスの王子、ヤクモ=オフィックスがお供の方と来られていました。私もその頃はまだ小さな子どもだったので、随分昔です」
「父と、クラブ王はどれくらい歳が離れているのでしょうか?」
キヨは不安そうな顏でクラブ王に問いかける。
「そうですね。実年齢はお聞きしておりませんが、ちょうど私も彼も、今の君たちくらいの年齢の頃ですよ」
コブラとキヨは頭の中で年齢計算を始めた。自分たちくらいの年齢なら10代前半。
「30年前くらい前でしょうか。正確な暦は私も覚えてはおりませんが」
「知らなかった。お父さんが星巡りをしていたなんて……」
「そしてそれは王位継承の意味も持っていた。なんかキナ臭くなってきたな」
コブラは腕を組んで忌々しい現オフィックス王の顏を思い出し苛立ちを覚える。
「私はキャンス王国の王です。現在鎖国中のオフィックスの問題にはなるべく首を突っ込まないように致しましょう」
そういうとクラブ王は自分の席まで移動してどっしりと座る。それでも彼の小さい身体では威圧感がない。
「さて、それではコブラ殿、キヨ殿。貴殿ら二人に『星巡り』の儀式を開始いたしましょう」
「すみません。ここにいませんが、もう一人使者がいます」
「そうですか。名は?」
「アステリオスと言います」
「では、コブラ殿、キヨ殿、アステリオス殿の三名に告ぎます。この国に代々伝わる星巡りを」
クラブ王はこちらを威圧するように睨みつける。コブラとキヨは生唾を飲み、彼の言葉を待つ。
「キャンス王国の近くの洞窟にある神聖な祠から一つ宝石を採取してもらいたい。巡礼した証としてね。その洞窟には――ドラゴンがいる。では、たった今から儀式を開始する」
コブラとキヨはクラブ王の言葉で表情が固まる。
王の口から言い渡された儀式の内容は、不幸にもコブラたちの予想通りであった。
彼ら三人はこれからドラゴンと対峙することとなるのだ――。
クラブ王との話を終えて、城を出たコブラとキヨはまだ戸惑いながら、どこを見て良いかわからぬまま街並みを見渡し、お互いに目が合う。
「ハハハ」
「ハハハ」
「ハハハハハハ」
「ハハハハハハ」
あまりの内容にコブラとキヨはどこにぶつけて良いのかわからない感情をお互いに顔を見て何度も爆笑しあう。辺りの人々も何事かとコブラとキヨを見つめている。
「はぁ、無理だろ」
「いやぁ、本当にいるのかしら?」
「……ドラゴンだもんなぁ」
「……ドラゴンだもんねぇ」
一通り笑った後、溜息を吐きながら空を見つめる。空に描くはヘラクロスの冒険に出てきたドラゴンであった。
「とりあえず、その祠とやらに行ってみるか」
「アステリオスはどうするの?」
「回収していこう。まだあの店にいるだろ」
コブラとキヨはそのままアステリオスと別れた店まで戻ることにする。
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