千百八十五話 期限、〆切

SIDE ソウスケ


(……悪くはない……良質、と捉えられそうではあるけど…………)


出来上がった槍を眺めながら、難しそうな表情を浮かべるソウスケ。


ノックスたちが対人戦の練度を高めようとしている間、ソウスケたちは変わらず工房で製作作業を行っていた。


「ふぅーーーーーーー……」


「………………」


ソウスケがため息を吐く隣で、ザハークは大剣の仕上げを行っていた。


そして数分後……ジャバの為に造った大剣が完成した。


「ふむ……………………まだ、足りないな」


悪いとも、お粗末とも思わない。

寧ろソウスケと同じく、出来自体は悪くないと感じた。


だが、それでも納得のいく出来上がりではない。


「ザハークもか」


「あぁ、そうだな…………中々上手くいかないものだな」


「だな~~~」


真面目に取り組んでいないわけではない。


寧ろ、短期間とはいえ可愛い教え子たちの為にと、本気で取り組んでいる。


それでも、まだ納得のいく武器が出来上がらない。

それは二人だけではなく、杖と弓を造っているミレアナも同じだった。


(気力が十分じゃない? そんな事はないよな。やる気は十分なんだけど…………ん~~~~、難しいな)


ソウスケが考える通り、非常に難しい状況であった。


スランプ、という状態ではない。

三人とも良質な得物を作り上げることが出来ている。


ただ、三人が求める物が造れていないだけ。

それは現在三人が使用している素材だけでは造り上げられない質の武器……という訳ではない。


(本気で造っている……でも、百パーセントの力を引き出せていない? けど、本当に良い物を造る時って、あんまりこういう事を考えてない気がするんだよな)


一度鍛冶の手を止め、ソウスケは考え込んだ。


どうすれば自分たちの納得がいく……未来のノックスたちも支えてくれるであろう武器を造れるのか。


「………………」


「休憩か、ソウスケさん」


「そんなところだ」


「そうか」


主人が休むということで、ザハークもとりあえず手を止めて椅子に腰を下ろした。


「…………ソウスケさん」


「どうした」


「誰かの為に武器を造るというのは、これほど難しかったのだな」


「そうだな…………まぁ、こう……結構質の限界ギリギリ? を求めてるっていうのもあるからだろうけどな」


ソウスケたちが想像する未来のノックスたちの実力に釣り合う、支えてくれる武器を造るのなら……Aランクモンスターの素材を使ってしまえば簡単に解決出来てしまう。


そんな事はソウスケも理解しているが、それでは意味がない。

ソウスケたちが使用するメインの素材は、あくまで七人が討伐したBランクドラゴンの素材。


「……だが、やると決めた」


「そうだ。泣き言は言ってられない……っていうのはそうなんだけど……ふぅーーーー…………」


「…………そういえば、他の鍛冶師たちはいつも期限に追われている、のだったな」


「多分そうだろうな」


「……ソウスケさんは、これまで期限に追われたことはなかったか?」


期限に追われた経験。

一般的な鍛冶師であれば寧ろない方がおかしいのだが、ソウスケは趣味で鍛冶を行っている人間。


それもあって、寧ろ期限……〆切に追われた経験が基本的にない。


「なかったと思うけど………………ん?」


「あったのか?」


「……多分、あるにはあった?」


「ふむ、それはいつだ」


「ほら、学術都市の轟炎流師範のレガースさんに造った残焔。あれは確か、ルクローラ王国と戦争が起こる前に造った刀だ」


「あれか……なるほど。戦争が始まる前に、という期限があったという訳か」


「そういうこと」


使っている素材が素材ということもあり、失敗は出来ないというプレッシャーもあった。


(一応今回も期限があるにはある……でも、あの時ほどのプレッシャーはない……ん? プレッシャー…………っ、そうか)


何かを思い出したソウスケ。

彼の顔に浮かんでいたのは……自身に対する呆れだった。

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