千六十七話 躊躇わず懸ける青さ
「……そんなに戦ってみたいか?」
「可能であれば、な」
ソウスケたちから、おそらくトロールシャーマンと戦うであろう冒険者たちの話を聞いたザハークは、迷うことなくその冒険者たちと戦ってみたいと答えた。
「ザハーク、確かに彼らは弱くはありませんでしたが、それでもあなたの闘争心が満たされるほどの者たちではないと思いますよ」
「そうかもしれないが、それはそれでこれはこれという話だ」
「…………」
それはそれ、これはこれ。
非常に便利な言葉であると思いながらも、ミレアナは特に苛立たず、ザハークの考えを受け入れた。
「それで、本当にその冒険者たちはトロールシャーマンに勝てそうだったのか?」
「そもそもそのトロールシャーマンをちゃんと見たことがないからなんとも言えないけど、普通のトロールであれば余裕を持って討伐出来るぐらいの実力は持ってそうだったよ」
鑑定のスキルを使ってしまえばより明確に力量を測ることが出来るが、鑑定を使ってしまったとバレれば……それはそれで面倒な問題に発展してしまう。
(あれぐらいの冒険者たちなら、鑑定を使われたことに対して、普通に気付きそうなんよだな~~。それに、そういう視線に気付けるマジックアイテムを身に付けてる可能性もあるし)
あらゆる可能性を考慮し、鑑定を使ってまで彼等の戦力を視ようとはしなかった。
「ふむ……であれば、命を懸ければトロールシャーマンには勝てそうだな」
「そうだね。うん、そうだと思うよ」
冒険者はいつでも命懸けで戦っている……というのは、少々語弊がある。
普段の冒険、仕事でも危険は付きものだが、それでも冒険者たちは自分の命が危険に晒されない様にリスクを抑えて戦う。
一定の時機を過ぎれば、よりその考え方が固定される。
「……彼等は、命を懸けるでしょうか」
「ん~~~~~、俺がこんなことを言うのはおかしいけど、あの人たちは……まだ上を目指すだけの向上心と、振り返らずに前を向く青さがあると思う」
本当にまだソウスケの様なガキが口にする内容ではない。
ただ……ミレアナはソウスケが言いたい事が解る。
ザハークもミレアナ程ではないが、なんとなくは理解出来た。
「とりあえず、あの人たちが何とかするまで……休暇だと思ってのんびり過ごすか」
「休暇、ですか……良いですね。そうしましょう」
トロールシャーマンに関する情報以外、気を引く情報は今のところ三人の耳には入っていない。
ザハークからすれば、休暇という時間にあまり興味はないが、トロールシャーマンの討伐依頼を受けた冒険者たちと戦ってみたいと答えたのはザハーク自身。
そこに関してあれこれ愚痴を吐くほど、ザハークはバカではない。
「……ん?」
完全に数日間は休暇と決めたソウスケ。
宿の朝食を食べ終えた後、二度寝を開始し……十時半頃に一度目を覚ますも、三度寝を開始。
すると丁度十二時を過ぎた頃、部屋の扉がノックされた。
「ほいほい……ミレアナか。散歩は止めたのか?」
面倒な連中にナンパされて萎えたのから帰って来たのか、なんて考えが浮かぶも、ミレアナの口から出た言葉は全くの無関係であり……わざわざ宿に戻って来たのも理解出来る内容だった。
「ソウスケさん、偶々通行人の会話を耳にしたのですが、どうやら先日同じ店で夕食を食べた冒険者たちなのですが」
「えっ……もしかして討伐に失敗したのか?」
「その通りの様です」
ミレアナの返答に、ソウスケはそこまで悲観することはなかった。
ただ、彼らが負けたことに対して、意外という気持ちがそれなりに大きかった。
「あの人たちが、負けたのか」
「らしいです。詳しい話は聞いてませんが、どうやら二人の重傷者を背負いながら冒険者ギルドに帰還したようで」
「重傷者、ねぇ…………ザハークが聞いたら飛びつきそうだけど、その前にまずは正確な情報を集めるか」
「えぇ。その方が良いかと」
二人は本当にザハークに声を掛けずに宿を出て、トロールシャーマンの一件に関して情報を集め始めた。
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