千十話 殺してしまっても良いのか?

「なぁ、ソウスケさん。グレンゼブル帝国……というところに行ってみないか」


「グレンゼブル帝国? っていうと………………あれか、エイリスト王国から見て、ルクローラ王国とは真逆の方向にある国か」


あまり地理や歴史にも詳しくないソウスケだが、なんとなく記憶していた。


「エイリスト王国とは別の国に、ですか……私はありだとは思います。しかしザハーク、何故急にグレンゼブル帝国に?」


「……昨日、チラッと耳にしたのだが、グレンゼブル帝国にはドラゴニックバレーという場所があるらしい」


「ドラゴニックバレー……竜の谷、ってところか」


「そういえば、グレンゼブル帝国は竜騎士が有名な国でしたね」


あまり知らない、というより大して興味がないソウスケに比べて、ミレアナはどの時間に仕入れているのか、ある程度グレンゼブル帝国について把握していた。


「竜騎士……それはまたロマンがある騎士だな。ドラゴニックバレーがあって、竜騎士っていう職業もあるなら……その竜騎士たちが従えてるドラゴンは、ワイバーンではないんだよな」


「ワイバーンを従える竜騎士だけで構成された部隊もあるようですが、更に上の部隊……属性持ちのドラゴンを従える部隊もあるようです。因みに、ワイバーンやリザードを従魔として従えて活動している冒険者も少なくないとか」


「それは……凄いな」


そういった環境があったとしても、そもそもドラゴンや亜竜を従魔にする場合、テイムする本人が強くなければならない。


卵から育てるという手段もあるが……結果として育てる主人が強くならなければ……過去に食われずとも見捨てられたという例がある。


「ザハークは、そこで強いドラゴンたちと戦いたい、ってことか」


「簡単に言うとそういう事だ」


強い奴と戦うことが一番の喜びであるザハークにとっては、楽園と呼べる世界。


(竜の谷、か……そういえば、この世界に来てから強いモンスターとはそれなりに戦ってるけど、あまり強いドラゴンとは戦ってないような……)


ソウスケの中で印象に残っているドラゴンは、たった二体。

まだ冒険者生活が五年も経っていないにも関わらず、二体も強い印象を与えるドラゴンと出会ったのは……ある意味運が良いと言えるかもしれないが、一般的には異常な部類に入る。


「未知の国で冒険者として活動するのも悪くはないかと」


「確かにそうだよな……」


ルクローラ王国との戦争で活躍したソウスケだが、最終的にその功績によって国王から受け取った褒美は爵位ではなく名槍。


特にエイリスト王国に留まらなければいけない理由はない。


仮にグレンゼブル帝国で活躍し、何かしらの褒美をお偉いさんから受け取ることになったとしても、爵位を受け取るつもりはない。


「とはいえ、新しい国に行ったら行ったで、冒険者として活動し始めた時と同じような感じになりそうだな~」


容易に想像出来てしまい、乾いた笑いが零れる。


ソウスケはエイリスト王国内で十分な功績を得ている。

戦争でもトップクラスの活躍を果たし、その名は今まで以上に広まった。


そしてBランクという一部の冒険者にしか辿り着けない領域にまで到達したが……やはりエイリスト王国内での話。


ドラゴンを従魔として従えている冒険者など、それだけで気が強くなって自分を見下す姿が簡単にイメージ出来てしまう。


「……なぁ、ソウスケさん。そうなれば……例えば、相手が従魔持ちであれば、その従魔を殺しても良いのか?」


「相変わらず物騒だな~」


「ドラゴンを従魔として従えているのであれば、態度が大きくなる要因はそれが一番であろう。であれば、それを潰せばもうその愚か者は何も言えなくなるだろ」


「間違ってはいないが…………あれだな。そうなった場合に殺すか否かは、向こうでそこら辺がどうなってるのかを調べてからだな」


何はともあれ、三人の次の目的地が決定。

ソウスケたちはその日のうちに、どの方向に向かえばグレンゼブル帝国に入れるかを調べ、直ぐに旅立った。

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