六百九十五話 ご機嫌取り

盗賊団討伐の報酬額アップが決まった後、ソウスケは凍らせた悪魔……パズズの体の一部を消そうとした。


勿論、ギルドの上役はそれを止めようとした。

既に死んでおり、体の一部だけとはいえ、悪魔の体は充分に利用価値がある。


それなりの相場で売れる為、ギルドも良い値でソウスケから買い取ると伝えた。

だが……ソウスケは知っている。


この街に裏の連中を使い、冒険者を攫おうと考える糞野郎がいるということを……ソウスケは知っているのだ。

仮にそういった連中から狙われていたと知らなければ、別にギルドにパズズの一部を売っても構わないと思ったかもしれない。


しかし、ギルドにその気がなくとも、体の一部を買い取った人物がそれを悪用しようと考える可能性が、決してゼロとは言えない。


その為、ソウスケは凍らせたパズズの一部を完全に消すことに対して、一歩も譲らなかった。

ソウスケの意志を最優先にと考えるミレアナとしては、当然その考えを尊重する。


パズズがザハークと戦い、バンディーと同化する様子を見ていたラップたちとしても、残った体の一部は消してしまった方が良いという考えに賛成だった。


ソウスケの真剣な表情に加えて、ベテランであるラップたちも体の一部は消してしまった方が良いと賛成してしまっている状況に、さすがの上役も買取を諦めた。


(あんまりギルドに反抗するのは良くないとは思うが、ここは譲れない)


一度アホな学者に狙われたことがある身としては、パズズの体はどうしても悪用されてしまうとしか思えない。


ソウスケたちは上級者向けダンジョンを攻略すれば、もう学術都市に用は無いのでまた別の街に向かうが、その後に体の一部が悪用されて一般人や冒険者、学生に被害が及ぶかもしれない。


そういった最悪な未来が引き起るかもしれないので、そこは絶対に譲れなかった。


「……ランクアップはしてくれるんだな」


ギルドの意見に反抗してしまったので、偉業を達成してもランクアップすることはまずない。

そう考えていたソウスケだが、ギルドは今回の討伐戦でソウスケたちが成し遂げた内容を考慮し、特別にCランクへのランクアップを行った。


ギルドとしてもソウスケが何を考えているのかは察しており……何より、ソウスケやミレアナたちのような実力者を敵に回したくない。


冷静な判断を下せる者が上役だったため、特に揉め事が起こることはなく……寧ろギルド側はソウスケたちのご機嫌取りをする流れとなった。


「ソウスケ君……あの強さでまだDランクだったんだな」


報告など諸々が終わった後、冒険者なら当然……宴会を行う。


そんな中、ラップは解り切っていたことを口にした。


「ラップさん、それは元々分かってましたよね」


「いや、そりゃ勿論分かってたよ。ギルドが嘘の情報を渡してくるとは思わないからな。でも、ソウスケ君やミレアナさんの実力を考えれば、どう考えてもDランクってのはあり得ない」


ラップの言葉にCランクの者たちは全員頷いた。


ジープたちも少々癪だが、ラップの言葉に同意せざるを得なかった。


「元々ランクアップには興味なかったんで……今回は何もせずにギルドがランクを上げてくれるって言ってくれたんで、お言葉に甘えたって形ですよ」


ソウスケたちは、そもそも冒険者ギルドの依頼を受けることが少ない。

故に、本来はギルドからの評価はそこまで高くならないのだが……ソウスケたちは偶にどさっと大量の素材や肉をギルドに売っている。


それだけでソウスケたちがどれだけ強いのか解る。

加えて、偶にダンジョンに潜っている冒険者たちが、ソウスケたちに助けられた……もしくは、金を払えば上手い料理をご馳走してくれたといった内容を話しており、性格的な面でも優秀であることが窺える。


それらの内容から、ソウスケとミレアナが短期間でDランクからCランクに昇格したのは妥当なギルドの判断と言える。

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