六百八十三話 燃え上がる闘争心

「おかえり。ちょっと遅かったな」


「そうかもしれないな」


「そんなに強い奴が匂いに釣れてたのか?」


「いや、別にそこまで大したモンスターではなかった。ただ、そのまま解体をしてたから時間が掛かった」


解体で面倒な作業……というよりも、時間が掛かるのは血抜き。

これだけで、それなりに時間が掛かってしまうのだが……ザハークは持ち前の学習能力の高さを生かし、ミレアナの液体を操る技術を習得していた。


勢い良くモンスターの体から血を抜くのは無理だが、ある程度の速度で血を意図的に早く流し……直ぐに解体へと移った。


「なるほど、だから遅かったのか。それで、どんなモンスターがバーンボアの焼肉の匂いに釣れたんだ?」


「数体のオークとオークジェネラル……だったな」


「「「「「ッ!!??」」」」」


報告しながら自身のアイテムバッグから肉やその他の素材、魔石を取り出すザハーク。


だが、その報告を聞いた他の冒険者たち……特にDランクの冒険者たちは驚きを隠せなかった。


「おいおい、マジかよ。それなら直ぐに報告してくれても良かった……んだが、ザハークなら別に俺らがいなくてもオークジェネラルぐらいなら余裕か」


「ふむ……そうだな。オークジェネラルはそれなりに戦える相手だったが、それでも特段驚くようなスキル、技術は持っていなかった。装備していた大剣にはおそらく強化系の能力が付与されていたが、特別恐ろしい効果は付与されていなかった」


と、細かい報告を伝えながらその大剣もソウスケに渡そうとするが、ソウスケは大剣だけは受け取らなかった。


「ザハーク、それは自分で使え。使う機会があるかは分からないけどな」


「……そうか。確かに、ソウスケさんが扱うには少しサイズが大きいかもしれないな」


ソウスケよりも圧倒的にサイズが大きいオークジェネラルが使っていた大剣ということもあり、武器の大きさ的にとても不釣り合い。


腕力は問題無いが、そもそもソウスケは大剣を戦闘で使わないので、大剣はザハークのアイテムバッグに収まることになった。


「ファイヤドレイクやアシュラコングを倒したザハークからすれば、オークジェネラルなんて物足りねぇか!」


「あまり心が燃える戦いではなかったな……いや、待て。何故それを知っている」


「俺が教えたんだよ。待ってる間暇だったからな。俺たちが今まで戦ってきたモンスターとかを話してたんだ」


「そうだったか」


ラップたちはザハークがサクッと複数のオークやオークジェネラルを倒したことに対して驚いてはいないが、フォルクスたちソウスケからザハークが今までどういったモンスターと戦い、勝ってきたという話を聞いても……その表情には心の底から驚きが現れていた。


「三人の強さを考えれば、上級者向けダンジョンのモンスターたちでも、苦戦することはなさそうだな」


四十層から五十層に出現するモンスターの最低レベルは三十五となり、最低でもベテラン冒険者並みの実力が必要になる。


そして稀にではあるが、ボス部屋以外にもAランクのモンスターが出現する。


「それはどうだろうな……だが、相手によっては闘争心が燃え上がる戦いが出来るだろう」


無意識の内に好戦的な笑みを浮かべるザハーク。


その笑みを見たまだまだ経験が少ないフォルクスたちは圧され、本能的に体が恐怖を感じ、震えた。


「ザハーク、ちょっと闘争心が漏れてるぞ」


「む、すまない」


ソウスケに指摘され、零れていた闘争心を落ち着かせて平常心に戻る。


「は、はは……なるほど。闘争心だけでも、俺たちとは訳が違うって解るぜ……ソウスケ君とミレアナさんも別格だし、最下層のクリムゾンリビングナイトと、二体のエルダーリッチでも余裕か」


「確か、AランクとBランクのモンスターですよね……ザハークは、当然クリムゾンリビングナイトと戦いたいよな」


「あぁ、勿論だ」


「……まっ、なんとかなると思いますよ」


嘘偽り、虚勢が一切ない回答に……ラップたちは改めて自分たちとは持っているものが違うと感じた。

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