六百二十一話 リスクなしで殺すには

レグルスとレーラに生徒たちの護衛を頼んだ翌日、朝食を食べ終えた三人は直ぐに上級者向けのダンジョンへと向かった。


「そうか、この前話していた二体に任せたのか」


「あぁ。だから、ダンジョンに潜っている間に生徒たちが襲われるってことは多分ない筈だ。それに、仮に俺たちに狙いを定めて襲ってくるなら、そっちの方が有難い」


「ふむ……確かにダンジョンの中であれば、処理はしやすいな」


ダンジョンはモンスターや人関係無く、一定時間経てば死体を回収してしまうのはザハークも知っている。


「まっ、ギリス・アルバ―グルが俺たちに狙いを定めたとしても……自分たちの力だけで襲ってくるとは限らないけどな」


「……暗殺者を雇うということか?」


「殺すだけなら、自分の手を汚さないなどの利点を考えるとな……その可能性は否定出来ないと思うんだよ。ミレアナもそう思うだろ」


ギリス・アルバ―グル本人に絡まれたミレアナはソウスケの言葉に激しく同意した。


「その可能性も十分にあるかと。自分に恥をかかせた相手は自分の手で潰したいという思いを持っていそうですが、リスクを考えればそういう手段に出そうな考えを持っているかと」


「リスクっていう点を考えれば、誰かを雇って俺たちに嫌がらせ……もしくは殺しに来る。自分の手を使わないってのは悪い手段じゃないからな」


後ろめたいことをやっているという思いがあるからこそ、絶対に自分の手を汚そうとしない。

その考えには一理ある。


だが、本当にギリス・アルバ―グルが裏の連中を雇ってソウスケたちにけしかけようとしたところで、学術都市に拠点を構えている暗殺者の中でソウスケたち三人を始末出来る者はいなかった。


よっぽどダンジョンでの活動に慣れており、複数人でのコンビネーションに長けているとかであれば話は少々変わってくるが、それでも一度奇襲を防いでしまえば実戦で三人を殺すのはかなりの戦力が必要になる。


(でも、本当にギリス・アルバ―グルが暗殺者かそういった連中を雇ってきたとしても、そいつらが本当にギリス・アルバ―グルと関りを持ってるのか……俺には調べることが出来るからな)


現状で一番自分たちを狙っているのはギリス・アルバ―グル。それは分かっているが、なにも狙っている存在は一人だけではない。


ミレアナという絶世の美を持つエルフ(ハイ・エルフ)、そして鬼人に近い容姿を持つオーガの希少種。

二人とも他人からすれば、喉から手が出るほどに欲しい存在。


(二人共強いのは勿論だが、異性的な存在としてミレアナが欲しいと思う奴らは腐るほどいるだろうし、人の言葉が喋れてAランクのモンスターを一人で倒せるだけの力を持つ。そして鍛冶まで行えるザハークを欲しいと思う人は老若男女問わずいるだろうな……やっぱりそれを考えると、俺って実力は置いといてそういう部分は二人に劣ってるよな。別に連れ攫われたい訳じゃないけど)


大金を使ってでも二人を欲しいと思っている者は多い。

三人が臨時教師として教えた生徒たちの中にも、実行こそしなかったがそういった考えが頭の中に浮かんでしまった者はいた。


ただ、ソウスケに対してそういった感情を持つ者は今まで関わってきた者たちの中で……いない。


「ソウスケさん、大丈夫ですか?」


「ん? 大丈夫だぞ」


「急に黙ってしまいましたので、体の調子が悪いのかと思いました」


「はは、大丈夫だって。考え事してたら黙ってしまうのはいつものことだから」


体長はいつも通り、今すぐにでも戦闘を行える状態。

ただ、やはり頭の中はギリス・アルバ―グルがもし動いたら……ということで一杯だった。


(本当に俺達の方に仕掛けて来たら……本人であればその場で仕留めれば良いし、本人じゃなかったら情報を奪えば良い。そして……俺も自分の手を汚さずに片付ければ良い)


自分たちに死角は無く、泣き寝入りすることもない。

そんな自信満々な表情を浮かばながら三十層から四十階層を目標にし、ダンジョンへ足を踏み入れた。

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