五百六十七話 たった一週間の間だが
「さて、それじゃ……いつも通り殺す気で掛かって来い」
「「「「「はい!!!!!」」」」」
Sクラスの生徒との授業もこれで最後。
生徒たちの気合は今まで一番高く、充実していた。
まずは一人ずつ全力で叩き潰し、生徒たちは三十秒程度のスパンでリタイアしていく。
だが、数十秒で倒されても以前よりは戦いらしい戦いになっている。
(流石Sクラスの生徒だな……こうして模擬戦をすれば、最初に戦ったころと比べて僅かながら質が上がっている)
ソウスケたちに全力を出させるにはまだまだ及ばないが、ミレアナとザハークも生徒たちの成長を感じていた。
(向上心が高いだけはありますね。まだまだ未熟ではありますが、こちらの動きを読もうとしている)
(ふむ、体の動かし方を解ってきた……といったところか。一番初めに戦ったころと比べれば動きが良くなっている。依然と比べれば少々楽しめるようになったな)
生徒たちが確実に成長している。
それを実感し、思わず笑みが零れる。
だからといって生徒たちに花を持たせる気はなく、次々に生徒たちの首に刃を添えていく。
「よし、次は良い感じに四人一組に別れろ。パーティーを組んでも変わらず殺すつもりで来いよ」
「「「「「は、はい!!!」」」」」
三人に相変わらずボコボコにされたことで少々息が切れ始めているが、気合だけはまだまだ切れておらず良い返事を返して直ぐにいつも通りの面子でパーティーを組む。
そこから授業が終わる五分前まで、延々と四対一の模擬戦が繰り返された。
生徒たちは何度瞬殺されても諦めず、闘志を消さず……ソウスケたちに挑み続けた。
「よし、ここまでだ。お前ら、良く頑張ったな」
「「「「「あ、ありがとうございました」」」」」
徐々にだが成長している。
だが、結果は最初の模擬戦と変わらず、Sクラスの生徒たちは全員地面に腰を下ろしていた。
「俺たちが臨時教師になって一週間経ったわけだが……お前たちは確実に強くなっている。まっ、徐々にってわけだからあんまり気を抜かれると困るけどな」
このまま地道な努力を続ければ大成するだろう。
だが、その地道な努力を怠れば停滞してしまう……もしくは腕が落ちてしまう可能性は大いにある。
「ソウスケさんの言う通りです。あなた方は確かにこの一週間で成長しましたが、ここで努力を止める……もしくは現状に満足してしまっては、目指せる高みも登れません」
「…………俺はあんまり堅苦しいことは言わない。強くなりたかったら、努力と実戦を続けろ。それだけだ」
どこにでもありふれた言葉ではあるが、この一週間……何度も自分たちをボコボコにした三人の言葉は生徒たちの心に深く刻まれた。
「ソウスケ君たちの言う通りだな。お前らは世間一般からすれば天才と思われる部類かもしれないが、努力を怠ればその才も腐る。三人にボコボコにされたことと、貰った言葉を忘れないように」
生徒たちは深く頷き、これからもソウスケたちの様な強者になろうと心に誓った。
「三人からは他に何か言葉はないか?」
「……俺からは、あれだな。冒険者になって上を目指すうえで強さはやっぱり重要だ。でもな、俺が初日に伝えた内容を思い出してほしい」
ダンジョンでは何が起こるか分からない、同業者の中にも敵はいる。
強さだけでは解決しない問題もある。
それを忘れて行動していては、万が一な最悪の状況に遭遇した時に対処出来ず、死を迎えるかもしれない。
冒険者として生きていく限り、老衰で死ぬのは中々難しい。
それはソウスケも解っているが、一週間とはいえ目の前の少年少女たちの教師となった。
そんな生徒たちにあまり苦い思いをしてほしくない。そう思ってしまうのは仕方ないだろう。
「お前らも成人しているんだから解ってるとは思うが、世の中は悪意で満ちている……っていうのは少し言い過ぎかもしれないが、誰にでも優しい訳じゃない。それを忘れずに過ごしてほしい。俺からは以上だ」
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