五百五十話 覗く気になれない

生徒たちに投擲の有能性をそれなりに話し終えたところで、丁度授業の時間も終わった。


「丁度良いタイミングで終わったな。それじゃ、今日のお前らの授業はここまでだ。また明日な……つっても、冒険者として知っておいてほしいことは伝えたからな……後は、実戦訓練あるのみかな」


生徒たちは背筋がゾクッと震えた。

ミレアナやザハークと同じく、ソウスケが強者だということは既に体が認識している。


「また明日の一時間目と二時間目に授業を行う……それまでにきっちり体調を万全に整えておけよ」


それだけ伝えるとソウスケたちは教室から出て行った。


「言いたいことは全部伝えられたな……ダイアス的にはどうだった?」


「全然悪くなかったぞ。寧ろ良かったまである。やっぱり現役冒険者の言葉は生徒たちに刺さるな」


「ダイアスだってまだ冒険者だろ」


「一応な。でも、基本的には学校にいる教師だ。休日に気が向いたらダンジョンに行って勘を取り戻そうとする時もあるけどな」


休日に勘を取り戻す為にダンジョンに潜る。

ソウスケからすれば、それだけでも十分に冒険者じゃね? と思えた。


「現役冒険者というか……俺が見た目や年齢と比べて強かったから、生徒たちも真面目に話を聞いてただけだ。最初の嘗めた態度見てただろ」


「はっはっは!!! 確かに嘗め切ってたな。でも、お陰で頭に疑うって言葉が追加された。教師としては嬉しいよ」


「そういえば、マジかでやらかした馬鹿がぶっ飛ばされるところを見たことがあるんだっけ」


「あ、あぁ。あれはもう……お、思い出すだけで恐怖が蘇る」


「や、やっぱりそこまで恐ろしい人、だったのか?」


ダイアスのイメージを聞く限り、ロリっ子が容赦なく男のセカンドライフを潰す様子が思い浮かんでくる。


(……いや~~、恐怖でしかないな。でも、ロリっ子で激強いって……それは完全に実力詐欺だよな。絶対に強者感を出してないと高ランクどころか、冒険者に思われるかも怪しいよな)


自分はまだまだこれから大きくなるという自覚はある。

表情は少々甘い感じが残るかもしれないが、このまま大きくなればショタフェイスと思われることはなくなる。


「いや、基本的には優しい人なんだよ。自分の見た目を弄る人には容赦ないけどな……」


言葉が後半になるにつれて、ダイアスの表情がどんどん死んでいく。


「どう容赦ないかはさっき聞いたけど……まぁ、弄られたらぶん殴りたくなるのはしょうがないよな」


「やっぱりソウスケ君もぶん殴ったことがあるのか」


「……だいたいは俺が先に手を出すよりも、ミレアナとザハークがぶっ飛ばすな」


「……なっはっは!! なんとなくその光景がイメージ出来るぜ」


ミレアナとザハークはソウスケのことを侮辱、見下す者を嫌う。

それは少しの間一緒に行動してるだけで直ぐに解った。


(実力的には二人ともAランク冒険者クラス……そしてその二人の間に挟まれてるソウスケ君もAランク冒険者並みの実力があるのは確実……てか、三人がマジな武器を使ってる場面は見たこと無い様な気がするな。転移トラップに引っ掛かった時に蛇腹剣って特殊な武器を使ってたけど、刀身が伸びる……それだけの性能しかないのか?)


長年冒険者をやってるだけあって、ダイアスの勘は中々に鋭い。


(もしかしたら、三人に実力は既にSランク……なのか? いや、いやいやいや、さすがにそれは考え過ぎ……でも、俺三人のステータスを視た訳じゃないしな)


ステータスを視れば、どのランク程度の実力を持ってるのか把握出来る。

ダイアス自身に鑑定の能力は無いが、鑑定の力が使えるマジックアイテムなら持っている。


しかし……それを三人に使おうとは一ミリも思えない。


(ステータスを視られた場合、気付かない人と気付かれない人に別れるが……絶対に三人は気付く。ステータスを覗くということは、敵対するという意思を示すことに等しい。そんなこと、大切な特別講師に出来るかっての)


もしそんなバカなことをする生徒がいたら……そう考えると、少々胃が痛くなってきた。

しかし保健室に行く間もなく、三年Aクラスの担任に引継ぎを行い、次の仕事へと移る。

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