五百四十八話 似ている世界

「あの……それでは、冒険者になってから関わる人物は、全員信用出来ないということですか?」


さすがにそんなことはないと思いながらも、一人の女子生徒が質問した。


「いや、そういう訳ではない。説明がちょっと難しいな……簡単に言ってしまえば、貴族の世界と冒険者の世界……二つともそこまで大きな違いはないんだよ。なっ、ダイアス」


「貴族の世界をそこまで知らないが……そうだな、大まかに言えば似た様なものだ」


貴族の世界と、冒険者の世界が似ている。

それを聞いた生徒たちは困惑せざるを得なかった。


(ちょっと考えれば解かると思うんだが、結構皆驚いてるみたいだな)


生徒たちにとっては、驚く事実だった。

ソウスケはその驚きをなるべく細かく伝え始める。


「簡単なところから説明すると……冒険者にとって貴族の爵位は、ランクに近い。これは解るだろ」


上の方にいかなければランクに権力は発生しないが、それでも生徒たちはなんとなくイメージを膨らませた。


「その、ランクが上の人には絶対に逆らえない、みたいな関係性が築かれてるんですか?」


「そこが貴族とは少し違う点だな。ランクは実力を測る目安の一つだ。ただ、ランクと実力は必ずしもイコールにはならない。自分で言うのはあれだが、俺とミレアナが良い例だ」


ソウスケの言葉に生徒たちは即座に納得した。


二人の実力がEランク相当な訳がない。

それはクラス全員の共通認識だった。


「お前らもそれに該当する。モンスターの倒し方は冒険者を数年やってる奴らの方が上手いかもしれないが、対人戦に関してはお前らの方が上だろ、多分な。そういう意味ではお前らも登録したばかりの時はランク不相応の実力を持ってることになる」


「お前らの対人戦の力は、既にDランク冒険者と同等……中にはCランク並みの奴もいる。そこは自信を持て……と言いたいところだが、実際に冒険者になった時はあまり慢心せず活動してほしいな」


当たり前のことだが、生徒たちよりも戦闘経験が豊富なダイアスは多くの戦い方を見て体験してきた。

その中には、不意を突かれたら一瞬で形勢が逆転する攻撃も存在した。


「実力でランクの差がひっくり返るのが冒険者だ。貴族の場合は力があってもそう簡単にひっくり返らないだろ。ただな……冒険者は横の繋がりってのも大事になってくる、筈だ」


今まで大して横の繋がりを作っていないので、ハッキリと断言は出来ない。

しかし、無駄に頭が回る連中はそういうのを厭らしく使ってくる。


「そもそも新人にダル絡みしてくる冒険者なんて、無駄にプライドがデカい奴しかいない。だから夜道や街の外でよくつるんでる連中と一緒に標的を襲う場合もある」


街によっては厳しい審査が行われるので、簡単に戻れない場合もあるが、そこまで警備が整っていない街もある。


(悪い連中はそういった情報だけは集めてそうだしな)


その考えは正しく、本当に知恵が働く悪い冒険者は抜け道だけは完璧に頭の中に入っている。


「後はそうだな……知らないうちに、他の同業者から恨みを買ってる。なんてパターンがあるかもな」


「それって、ちょっと理不尽過ぎませんか」


本人には全く悪気はなく、直接関わったことがない。

そんな連中から襲われれば、そう思ってしまうのも仕方ないだろう。


ソウスケも実際にそんなことが起これば、同じ様なことを思ってしまう。


「そうだな、理不尽だ。でも、そういうのは貴族の世界でも起こり得るだろ」


実際に理不尽な内容で起こった件を知っている令息や令嬢は顔を下に向け、黙ってしまう。


「どうだ、貴族と冒険者の世界はそれなりに似てるだろ。高ランクの冒険者の大半はルーキーにダル絡みなんてしないと思うが、中には自分が高ランクという地位をチラつかせて、やりたい放題やる馬鹿もいるだろう」


「ソウスケ君の言う通りだな。冒険者の中にはどうしようもない屑がいる。だから……なるべくうまく生きるってのが重要だ」


ソウスケとは少々真逆の生き方。

生徒たち全員がそれを実行出来るかは分からないが、ダイアスは生徒たちになるべく人間関係は平穏な冒険者生活を送ってもらいたいと考えている。

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